その世界は昔、とある男によって治められていた
 男は英雄と呼ばれ、数千数万の兵を率いて戦場を駆け巡り、世界の統一を果たしたのである
 男は政治の面でも素晴らしい才能を発揮し、35年もの間戦争はおろか小さい反乱すら起きなかった
 しかしその男が死んだ後が問題だった
 後継者となる男の子供や孫達は男と比べて素晴らしいと言える部分が無かったのである
 それが故にそれぞれの後継者たちの家臣の独走を許し、世界は戦争への道へと逆戻りしてしまったのだ


 それから数百年数千年と言う時が流れ大陸史4649年、世界は幾多もの国に分かれている
 各国の王は名君と呼ばれる者や、愚王と呼ばれる者まで正に十人十色 しかし各国に属する戦士や魔術師達は共通する気持ちがあった
 それは争いが始まっては消える世に対する憂いであった
 事実2年前に西方のバーンシュタイン王国及びローランディア王国でヴェンツェルなる魔術師が
 そして半年前に南方でジェイル・スカルエッティなるマッド・サイエンティストが世界全てを相手に戦争を吹っかけてきたのである
 人々は思う 世界が一つの国に統一されれば争いは無くなるのではないかと
 それは国を治める王やそれに従う戦士たちも同じ思いであった
 その統一された国が持つ時間は数十年しか持たないのかもしれない そしてその統一されるまで、人々は殺し合う現実から目を背けている訳でもない
 それでも、人々は願う どんな形であれ、争いの無くなる世界を…… たとえそれがなされる為にどんな犠牲が待っていようとも……


  戦士たちの大陸統一史 正式序章


 半年前ジェイル・スカルエッティが蜂起した大陸南方の聖地と呼ばれる所…… ここは大陸でも有数の技術者を育成する研究機関であり、ここで作られた技術は大陸各国で売られているのである
 政治形態は宗教国家に近く、教母と呼ばれる女性が、12人の選ばれた人間と共に国を治めているのである
 国の守りは大陸西方にある魔法学院で魔法を学んだ魔術師達が数多く所属している その中には聖地の隣国であるアガルティア王国やヨーク王国、そしてジグリム共和国に行き、そこの騎士達に剣術を教わった「マージファイター」と呼ばれる戦士たちも多い

「はい終わった終わったぁ……」

 そのマージナイトの一人である風見透夜が書類整理を終えてボヤきながら部屋から現れる
 彼は聖地の次期教母と目される女性ユミール・エンロードの従弟であり、聖地所属の若手の中でも最も力のある戦士と期待されている
 半年前にジェイル・スカルエッティの乱が起きた際には国境の警備に当たり、西にあるヨーク及びジグリムの侵攻を見張っていた

「透夜、お疲れ」

 穏やかな声で透夜に声をかけたのは彼の同期である西園寺晃一郎である 剣の腕こそダメではあるが、安定した魔力と種類を選り好みしない多数の魔法で仲間たちを援護する優秀な魔術師である
 プライベートでも特に問題がある人間ではないが、一部では透夜に気があるのではないかと言う噂がある(それは当の本人には些細な噂であろうが)

「しっかし、何も起きないな……」
「そうだねぇ ここまで何もないと逆に不安だね」

 起きないと言うのはいうまでもなく戦争他反乱等諸々である 南方の王たちにとって、ジェイル・スカルエッティの蜂起は大陸統一の為の行動を起こす最大のチャンスであった筈だ
 しかし反乱が収まり、半年が経った今でも特に行動を起こす様子は見えないのである

「いくら守備が厚かったからって、何もしないって言うのはちょっと……ねぇ?」
「牽制し合って……って奴だろうけど……それでもなぁ……」

 何気なく外を見ると、魔術師達が鍛錬を続けている もしもの時の為の、と言う奴である

「僕達は何もしなくていいのかなぁ……」

 何もしないとはもちろん大陸統一の為の行動である
 大陸にはびこる様々な争いや事件……それらを無くすには最早大陸を一つの国にするしか無いという風潮が人々の心を支配しているのである

「何もしないと言う訳にはいかないが……小国の俺達は内部を強化する以外に策はないだろ」
「そうだけど……正直じれったいね」
「強いて言うなら、ヨークとジグリムを争わせる策を仕掛けるぐらいやな」

 二人の話に割り込んだのは、やはり彼らの同期の八神はやてと呼ばれる女性であり、半年前の反乱では鎮圧部隊の大将を務めたマージファイターである

「うちらは兵力が少ない上に、三国に囲まれとるからな……」
「こっちから攻め込むは愚と言う訳だな」

 透夜の言葉に「そういうことや」とはやて しかし二人の顔にも晃一郎同様「じれったい」と言う感情が混じっている

「はやて!大変!」

 その時、はやての親友兼部下でやはりマージファイターのフェイト・T・ハラオウンが駆け足で現れる

「北方のラキオスが隣国のバーンライトに侵攻したって!」

 フェイトの一言に息を呑む三人 彼ら南方に位置する国の人間にとって北方にある国の事はあまり酷く関係無い話であるのは確かだが、衝撃が大きいのも事実である

「しかしラキオスか……国としては小さいが、戦力としては決して小さくなかったはずだけど」
「せや 『代償魔法』の高嶺悠人にパワーエースのアセリア・ブルースピリット……せやけど国王が……」

 透夜の言葉にやや言葉を濁しつつもはやて ラキオスは聖地と同じく小国ながらもそれなりに強力な騎士・戦士たちを要する国である しかし聖地の教母……イヴェル・ロシュフォルンと違い、ラキオスの王・ルーグゥ・ダイ・ラキオスは人間としては小さく、王の息子として産まれただけと言わんばかりの人間で、唯一大きいと言えるのはその大陸統一に対する野望だけと言っても過言ではないのである
 ちなみにはやての言っている『代償魔法』とはやや弱い補助魔法と言う物で、例えば力を一時的に強めると同時に守りを弱めてしまうと言うものである 補助魔法より有利な部分を挙げるとしたら、発動までの時間が短く、消費魔力も少ないと言う部分である

「ともかく、これで他の国も焦ってくるぞぉ 俺達は……」
「その隙をついて、行動開始ってわけだね」

 つい数分前まではじれったそうな表情をしていた三人ではあるが、その表情は晴れやかの一言に尽きていた



 大陸の北方はラキオスの他に、バーンライト王国、ダーツィ大公国、イースペリア王国、サルドバルド王国があり、これらをあわせて「北方五国」と評されることも多く、24年前にダーツィとイースペリア間、そして9年前にラキオスとバーンライト間にトラブルが起こる前はこの5つの国は同盟関係にあり、これを「龍の魂同盟」と呼ばれていた
 北方の主戦力は「剣の妖精」と呼ばれる種族「スピリット」であり、髪の色や瞳の色が青・赤・緑・黒の四色で色毎にバトルスタイルが大幅に違う特殊な生物である 人間やエルフと呼ばれる種族と同じく言語を持っているモノの、北方と東方では奴隷の様に扱われ、そのうえ何故か女性しかおらず、その体の主成分が「マナ」と呼ばれる純魔力で出来ているため、妊娠出産も出来ないと言う不可思議な種族である
 もちろん人間も戦力に加えられている国もあるが、その殆どが犯罪を犯したり、家族が人質に捕らえられていると言うのが多く、そのやり方やスピリットの扱いに反発した国民等が少し南にある砂漠の国のマロリガン共和国や、商業都市テオドガン商業組合、そして城塞王国神聖サーギオス帝国に流れて行く結果となった
 はやてが言っていた高嶺悠人も、元々はサーギオスの人間であったが、妹である佳織が人質に捕らわれているため、やむなくラキオスに所属することになっているのである

(バーンライトもそれなりに準備をやっている こりゃあっさり勝てるってことは無理だな)
「悠人 どの位の日数があれば勝てますか?」

 双眼鏡から手に入るやや断片的な情報から策を考えようとする悠人に、高貴な雰囲気を持つ女性が話しかける

「いつも言ってるだろ 用事があるなら俺の方から行くって」
「すみません ですが、父がうるさく喚くだけなので……」
「そりゃそうだが……お前のやり方を成功させるにはしばらく目立っちゃ正直困る」

 悠人の言葉にもう一度すみませんと謝る女性は、このラキオスの王女であるレスティーナ・ダイ・ラキオスである 未だ少女の年ではあるものの、父である王と違い、非常に聡明で賢く、強く優しい心を持っており、国内では王よりも彼女に忠誠を誓っている者が多い 悠人もその一人であり、レスティーナとは立場を超えた友人として接している

「それで、どうですか?」
「さあな……俺達の行軍がある程度察知されてやがる 攻め込めない訳じゃないが、あっさり勝たせてもらえそうもない とりあえずバーンライトの首都に近いラセリオはハリオンとナナルゥに守備を任せている」
「そうですか よろしくお願いします」
「なぁに 何とかしてみせるさ お前も佳織のことを頼む」

 悠人の言葉に頷くと、レスティーナは城に戻って行く それを確認した悠人は、愛用している大剣「ツヴァイハンダー」を持ち上げると、自身を待っている仲間達の元に向かうのであった



 次回に続く


 あとがき
 とりあえず見切り発車的な気持ち(どんな気持ちだ)始めましたこの作品 最後はどーなるのか、書いてる私にも想像できません
 まぁともかく、実験的にやってみたSSなので、途中で止まっても「これがグラーフの実力だ」と思って文句だけは言わないでください

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