(そういえば来週は……)

 ある日、レーツェル・ファインシュメッカーことエルザム・V・ブランシュタインは部屋に飾られているカレンダーを見たとき、ある事を思い出した

(今は戦時中だが……どうしたものか)

 彼が色々思考を巡らしているその時だった

「エルザムよ、これで王手だ」
「はっはっはっは!レーツェルよ!今までで情けない内容だったぞ!」

 それを邪魔したのは、たまたま将棋の相手を頼みに来た親友ゼンガー・ゾンボルトとカイ・キタムラ、そしてギリアム・イェーガーの存在だった

「エルザムよ……何を考えている?」

 少々意地の悪い表情でギリアムが問いかける どうやらレーツェルが何を考えているのかを理解しているようだ

「まぁ、色々さ」
「そうか」

 レーツェルのその一言に満足したのか、ギリアムもそれ以上何も聞くことはしなかった
 その時だった

「レーツェル様、いらっしゃいますか?」

 ノックとともに聞こえた、声の主は彼らの軍人と言う職業と同じことをやってるとは信じられないほど可愛らしい物である
 事実レーツェルによって迎えられた少女……シャイン・ハウゼンの年齢は12才であり、本来の彼女は一国の王女である
 何故彼女が軍人の集まるような場所にいるのかは、様々な事情があるので、ここでは割愛する

「それで、どうかなされましたか?」
「は、はい! レーツェル様、私にチョコの作り方を教えてくださいませんか?」


 食通のバレンタイン・ラプソディー


「成程、王女は来週がどんな日かご存知なのですね」
「はい!クスハやリオ達に教えてくださいました」
「それで弟にそれを送りたいから、教えてほしいと言うのですね」
「はい! ……よろしいでしょうか?」

 シャインの不安そうな表情にレーツェルは安心させようと思ったのだが……

「それよりもレーツェルよ」
「何だ?ゼンガーよ」
「何故俺がここにいるのだ? しかもエプロンをつけさせて……」
「お前もこの機会に一つぐらい何か作った方がいいと思ってな」

 それを中断させたのは、レーツェルによって厨房まで拉致されたゼンガーであった
 しかもその大柄な体格と、男らしい風貌には思いっきり似合わない可愛らしいエプロンをつけさせられている
 その姿を見たカイとギリアムは最早笑いをこらえるのに必死である
 しかもその姿を写真に収め、ゼンガーの部下たちに見せたい、とすら思っている表情になっている

「ゼンガーよ 戦いが終わったら、お前が以前守りたいと言っていたソフィア氏にチョコの一つも」
「俺にそれは似合わん」
「彼女も喜ぶと思うぞ」
「俺にそれは似合わん」
「ならばその姿を写真に収め、キョウスケやエクセレン達に……」
「わかった やる」
「と言うことです王女 このいかつい男と一緒でも構わないと言うのであれば」
「もちろんですわ!」

 レーツェルの言葉に、シャインの声も弾む
 しかしその時、突然厨房の戸が開く

「エ、エクセレン少尉!お願いですから手を離してくださいよ!」
「ダメダメ!ブリット君は純情だからスグに逃げちゃうから!」
「エクセレン、だから止めてやれ」
「何よぉ〜 キョウスケはブリット君の味方をするわけ?ねえ、クスハちゃん、ブリット君にすぐチョコを食べてほしいよねぇ?」
「え?あ、は、はい……」
「んもぉ〜♪ 真っ赤になっちゃって可愛い♪」

 中に入ってきたのは四人の男女、キョウスケ・ナンブにエクセレン・ブロウニング、ブルックリン・ラックフィールド……通称ブリッドに、クスハ・ミズハだった
 乱入者達の姿を理解したゼンガーは逃げようとしたが、場所が場所の為、逃げ道が無いと理解し、観念することにする

「お、おい、エクセレン……!」
「何よぉ、キョウスケ!これからクスハちゃんにチョコの作り方を教えようとする……」
「いや、違う こっちだ」
「……?」

 そんなゼンガーの存在にキョウスケがいち早く気付いたのだろう エクセレン達に教えてしまう
 普段のキョウスケならば、上官の恥をさらすような真似をあまり好まないが、流石にその上官の普段絶対にやらないような衝撃的な格好に、キョウスケとて驚きが優先させてしまった
 そしてエクセレン達の目に、ラブリーなエプロンを着たゼンガーの姿が映し出される

「な、何?ボス……流石にそれは珍妙すぎますよ〜!」
「……弁明はしない」
「……オレとしては弁明をして欲しい所です」

 驚きを隠せないキョウスケ達とは裏腹に、ゼンガーはあくまで普段通りであった もちろん半分演技はあるのだが
 その時、ドサッと言う音が聞こえた
 その音が起きた方向をみると……

「ブリット!? おい、ブリット!?大丈夫か!?」
「あらら〜……ブリット君にはちょ〜っと衝撃が強すぎたかな〜?」
「……やはり隊長のエプロン姿、か?」
「キョウスケはそれ以外何があると思う?」
「いや、思わん ……クスハ、医務室に連れて行くからとりあえず看病してやれ」
「は、はい」

 言いつつキョウスケはブリットをお姫様だっこで抱き上げ、連れていく
 そして数秒後 そこにいたのはシャインとむさ苦しい四人の大人たちだけになった

「ゼンガーよ まぁ、気にするな」
「気にしちゃ、駄目です」

 レーツェルとシャインの言葉に、ただただゼンガーは頷くことしか出来なかった
 カイ・ギリアムの二人はつい先ほど起きた急展開に大爆笑しすぎて、ぶっ倒れていた

 ともかくなんだかんだで一週間後、シャインはレーツェルに教えられた通りにチョコを完成させ、無事憧れの騎士様と自分を支えてくれる老人にチョコを送る事に成功しましたとさ 

 終われ


 あとがき
 バレンタインに合わせて書いてみたSSですが……最初は結構真面目なネタにしようと思いましたが、もうグダグダな内容になっちゃいました(笑)
 いずれリベンジしたいと思います
 しかしパッと見ごついおっさんが可愛いエプロンを着た姿ってのはちょっと興味があったりします これは事実です

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