「岡崎、今度の日曜の休み、俺と同じだったな?」

 仕事が一段落ついて、昼飯を食ってる途中に、芳野さんが唐突にこう聞いてきた

「そうっすけど……どうしました?」
「公子と牧場に行こうと思うんだが、奥さんや娘さんを誘って、一緒に行かないか?」
「良いんですか?」
「ああ……愛する妻にとって俺たちは白馬に乗った王子様になるべきだ……そう思わないか?岡崎」
「………………は?」

 いかん……芳野さんが連日の暑さで壊れたような気がしてきた……


 Prince or knight


 そして日曜日、俺たちは芳野さんに連れられて牧場にやってきた 最初は春原夫妻や柊夫妻も呼んだんだが、どちらも仕事があるとかで来られなかった
 ちなみに柊の妻の方には「岡崎君は王子様と言うよりは、渚ちゃんと言うお姫様を守る騎士様と言った方が正しいですね」とからかわれてしまったのは別の話だ

「お父さん!あっちに羊さんがいる〜!」
「汐〜!はしゃぎすぎてコケんなよ〜!」
「はぁ〜〜〜〜い!」
「うふふ……しおちゃん、あんなにはしゃいで!」

 元気にはしゃぐ汐に渚は優しい笑顔を見せる
 コレがいわゆる「母親の笑顔」ってやつだな ……綺麗だ……

「朋也君、そんなに優しい顔で見ないで下さい……恥ずかしいです……」
「え!?いや、渚も優しい顔をしてると思うぞ?うん!」
「はふぅ……」
「お父さんとお母さん、仲良し!」
「う、汐!?」
「し、しおちゃん!?」

 お互いが真っ赤になりながらイチャついてると、いつの間にか満点の笑顔の汐がいる どうやら俺達を呼びに来たようだ

「岡崎、仲がいいのは良いことだが、俺たちは乗馬をしに来たんだ 早く行こう」
「あ、はい」

 芳野さんの背中に炎が燃えたぎってる ……本気だ……この人、愛の為に白馬に乗った王子様になるつもりだ……(苦笑)

「お馬さん、乗れるの?」
「ああ、乗れるぞ?二人で乗れるかどうかは分からないがな ……技術とかそー言った意味で」
「朋也君ならきっと大丈夫です!椋ちゃんの言う通り、朋也君は私の騎士様だから、きっと大丈夫です!ってなんか私、凄い事言ってます!」
「まぁ、汐と一緒に乗れるようには頑張るか」
「はい、頑張ってください!出来れば私とも一緒に馬に乗れるように頑張ってください!」
「お客様〜 人前でラブシーンを展開するのはお控えください〜♪」
「「はい、すいません」」

 なんかノリの良い用務員さんに連れられて、馬小屋の中に入って行く
 流石に白馬と言うのはいなかったが、二人で乗る分には問題が無いようだ 用務員さんは芳野さんの気合の入れように「冷静になってください」と釘をさしていたが(苦笑)


「お馬さん、毛がキレイ……」

 最初は馬の大きさに吃驚してた汐だが(俺達も、ではあるが)馬に乗って揺られる事十数分、汐は馬の頭を撫でれる程には慣れて来たようだ

「朋也君、カッコいいです!」

 俺達の様子に、渚が声援を送る……のは良いんだが、コレって結局馬に乗せられてるだけな気も……(笑)まぁ初体験じゃあしょうがないんだがな
 目の前では芳野さん夫婦が馬の上でいちゃつきまくってる 器用だ……芳野さんもそうだけど公子さんも器用だ……

「芳野さん凄すぎ……」
「でもお父さんの方がカッコいい!」

 うーわー……汐は可愛い事言ってくれるぜ! 渚の教育が良い結果だな〜

 そんなこんなで渚と一緒の乗馬も楽しみ、次は牛である つまりは乳搾りと言う物だ 係員の人の指示に従って、汐は楽しそうに牛乳を絞っている ……楽しそうだな〜

「お父さん、私にもできた!」
「おう、よかったな!」
「えへへ……」

 嬉しそうに牛乳を持ってきた汐の頭を撫でて上げる そうすると汐も満点の笑顔で返してくれる

「ふふ……」
「?どうした、渚?」
「い、いえ……なんだか朋也君がカッコよくて……素敵だと思います ……ってなんだか私、恥ずかしい事言ってる気がします!」

 自分の言った事が凄く恥ずかしいのか、渚は真っ赤になった顔を両手で隠す ……その仕草が男心をくすぐるってのを知らないのだろうか? ともかく……

「今の渚、凄く可愛いぞ お姫様見たいだ」
「え……じゃあ……」

 さっきまで思いっきり恥ずかしがってたのに、今度は意地悪さの含んだ満点の笑顔に変わる 今度は何を言われるんだ?

「その可愛いお姫様の事が大好きな朋也君は、白馬に乗った王子様ですか?それとも何時でも何処でも守ってくれる騎士様ですか?」
「え……それは……」

 一瞬言葉に詰まるものの、答えは決まってる ……それは……

「可愛いお姫様が決めてくれた事に従うよ♪」
「えへへ……♪」
「お父さんとお母さん、仲良し〜♪」
「「あ……っ」」

 汐の言葉にそっちを向くと……芳野さんがハンディカメラ片手にニヤニヤしてた 隣では公子さんもニヤニヤしてた
 用務員のおっちゃんもいい感じでニヤニヤしてた ……もしかして俺達、かなり恥ずかしい事をしたんじゃあ……
 まぁいっか 汐が笑顔だし

 次の日、芳野さんの取ったビデオを見た早苗さんが一言 「朋也さんって意外とロマンチストなんですね♪」だった……
 他の皆の表情も似たり寄ったりだった そう、オッサンまでもが……

 おしまい

 あとがき
 以前欣ちゃんさんから頂いたCGのお礼として書いたSSです
 最初はまんま「白馬に乗った王子様」にしようと思ってましたが、展開によって今のタイトルに変更となりました

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