「汐ちゃん、おはよう!」

 私が幼稚園に就職してから数年、私に一つの運命の出会いに遭遇した
 と言っても、男と言う訳では無い 友達夫婦の娘の岡崎汐ちゃん
 ちょっとおっとりした所はあるけど、あの二人の娘とは思えない程、聡明で賢い女の子だ

「杏先生、おはよう〜♪」

 私が挨拶をすると、満面の笑顔で私に応えてくれる 母親の教育がしっかり行き届いてる証拠だろう
 そんな汐ちゃんに、私はそれを褒めるように頭を撫でてあげる そうすると、その笑顔はもっと可愛らしい物になって行く

「杏、今日は悪いな」
「杏ちゃん、ありがとうございます」
「何言ってるのよ こっちにもメリットがあるんだから、頭を下げないの!」

 汐ちゃんの後ろにいた、彼女の両親―――朋也と渚が、私に頭を下げる
 今日は幼稚園の登校日では無い だけど汐ちゃんは今日この日、私と会っている
 その理由は至極簡単 朋也が商店街の福引で温泉旅行を当てて、それを朋也の父親と渚の両親にプレゼントしたからだ
 そこで発生した問題が、汐ちゃん 渚の両親を旅行に行かせたのだから、その間は古河パンが誰もいなくなる
 代わりに朋也と渚が代わりに行くことになるのだが、流石に汐ちゃんに寂しい思いをさせる訳にもいかない
 そこで白羽の矢が経ったのが、たまたま偶然休みが重なった私達――― 私と妹の椋、そしてことみと智代の四人

「汐、寂しくなったら、何時でも帰ってこいよ?」
「朋也君! なんか無茶苦茶言ってます!」

 でも、その預かる女の子の父親は、なんか無茶苦茶な事を言ってるけど……まぁ、気にしちゃダメか
 さて、今日一日……汐ちゃんを目一杯楽しんでもらえるように、頑張りますか!


  ほのぼの十題 その1 君のための一日


「みんな、どうぞなの」
「ことみお姉ちゃん、ありがとう」

 そして、ことみの家(と言うより豪邸)で、汐ちゃんと楽しいお茶会
 ことみから出された、ことみお手製の美味しいお茶と美味しいお菓子
 今日の話題は、考古学者として世界を飛び回ることみが、どんなものを見聞きしたのか
 汐ちゃんは、ことみの話の一つ一つを、真剣な表情で聞いていく
 そんな汐ちゃんの態度が嬉しいのか、ことみももっと真剣な表情で、話を続けていく
 この面子で汐ちゃんの事をよく知ってるのは、この私だと自負しているけど、こう言う所で新しい汐ちゃんを見れて、ちょっと新鮮
 だからこそ―――

「汐ちゃんは本当にいい子ねぇ」
「せ、せんせい?」

 だからこそ、汐ちゃんの頭を優しくナデナデをしてあげることに
 最初は吃驚してたけど、徐々に嬉しそうな表情に変わっていく汐ちゃん

「杏ちゃん、汐ちゃんの一人占めは、いけないの」
「そうだぞ、杏 汐はお前だけのものじゃない」
「あはは……」

 そんな私と汐ちゃんに対して、ことみは拗ねたような、智代は怒ったような表情で文句を言いだす
 その二人の手は、汐ちゃんの頭を撫でたい、と言わんばかりに怪しく蠢いている
 その私達に、椋はちょっとだけ苦笑い まぁ、私達の中で、赤ちゃんを産めることに近いからこそ、この態度になってるんだろうけど

「えーっと……」

 そんななか、汐ちゃんはちょっと考えるように首を傾げた後……

「みんな! ……えっと……わたしのためにあらそうのは、やめて!」
「……汐ちゃん……」

 何かを思い出すかの様に、その言葉を紡ぎ出した汐ちゃんに、私達四人の視線が集中する
 勿論、私を含めたその表情は、変な物を見る物では無く、ちょっとだけ微笑ましい物を見るような表情である

「参考までに聞くが、それは何処で覚えたんだ?」
「えっと、このまえ風子お姉ちゃんからおしえてもらった!」

 でも、子供らしからぬ発言を気にはすべきだ そう思った私達を代表して、智代が汐ちゃんに問い質す
 その答えに、渚が尊敬する先生の妹の、ヒトデ星人の名前が……全く!汐ちゃんに何を教えてるのやら……! コレは後できっちり説教しなきゃ駄目ね!

「もしかして、いっちゃだめだった?」

 もうちょっと大人になってから言うべき発言だ……そう言おうと思った私達だけど、その笑顔に、私達はただ微笑ましい気分になってしまい、結局それが出来ずにいた……

 そんなこんなで、太陽が沈む10分ほど前……汐ちゃんは朋也と渚に迎えられて、帰っていってしまった
 今日一日、私達四人は汐ちゃんの為の……それでいて楽しい一日だった
 子育ては大変なんだろうけど、朋也と渚は凄く楽しそう 私も早く子供が欲しいけど……

「椋以外は、まず相手が必要だな」
「でも、朋也君と渚ちゃんがとっても羨ましいの」

 どうやら、智代もことみも、私と同じ考えを持ってるようだ まぁ、私達も結構いい年だしね いい加減、相手を見つけなきゃ!
 ともかく、今日は家に帰って、シャワーを浴びて寝るとしますか!

 それはともかく、数日後……
 件のセリフを汐ちゃんが朋也に言ったのか、朋也が風子のほっぺを力いっぱいグニュグニュしていた現場に遭遇したけど……見なかったことにすべきなのかしら?

 おしまい

 あとがき
 と言う訳で、二つ目のお題となります 今回はほのぼの10題と言う事で、言葉通り1から10までのんびりしたストーリーになるかと思います
 今回は、クラナドのヒロインの一人・杏と、岡崎夫婦の娘・汐が中心となった物語です
 次のお題がどんな展開になるかは未定ですが、やっぱり汐が中心の物語がしっくりくるかも、と思っています

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