「ヴィータ」
「……? なんだ、シグナムか」

 目の前の少女(と言うには少々年を取り過ぎだが)に話しかけると、素っ気ない言葉が返ってくる
 それは当然だろう……不可抗力とは言え、惚れた女の間近にいながら、まともな援護も出来ず、次々と敵に傷つけられ、再起不能になっていく様を見せつけられたのだから

「あたしは、なにも出来なかったな」
「……ヴィータ」
「あたしが……あいつの一番近くにいたんだ……あたしはあいつを守れなかったんだ……」

 ヴィータの素っ気ない言葉に、どれだけの悔しさが込められているのか……私には痛いほど理解できた
 数年前、先代祝福の風・リィンフォースが消えて無くなった時とほぼ同じ状況だったろうから

「お前のせいじゃないだろう……お前は、お前の精一杯をやった……!」
「それでも…… それでもあたしはっ!」
「高町は生きている……今は、それだけで良いだろう……」

 私の言葉が、今のヴィータの心に届くとは思えない
 それでも、言わずにはいられない 再起不能と言われても、復活を目指して頑張る高町の気持ちを考えると、なんとしてでもヴィータの気持ちを盛り返さねばならない

「それに前に何も出来なかったのならば、これから盛り返せば良いだろう」
「……今は……ほおっておいてくれ……」

 頭では分かってるのかもしれない……それでも納得できない部分が、ヴィータの胸の内にはあるのかもしれない……

「……ヴィータ、泣きたいときは泣いてええんやで?」
「!!!!! あ、主はやて……っ!」

 後ろからの突然の呼びかけにその方向を向くと……我らが主・八神はやてが普段通りの笑顔で立っていた……


 恋人達を見守る10題 その9 泣きたいときは一緒に泣いてあげるから


「はやて……」

 ヴィータ自身もかなり吃驚したようで、目が今までで一番大きく見開かれている
 どうでもいいことだが、悲しい気持ちの中でも、驚きの気持ちはわいてくるようだ

「ヴィータ、シグナムの言う通りやで? ヴィータはヴィータの精一杯をやった 手抜きやったら、あたし達もお仕置きせなあかんけど、な?」

 そんな私の気持ちを無視し、主はやては「せやろ?」と、そう言いたげな表情を私に見せる
 思いっきり関係の無い事を考えていた私は、思わず首を縦に振ることしか出来ない

「なのはちゃんにも言えることやけど、ヴィータに辛い事があったら、うちらやフェイトちゃん、すずかちゃんやアリサちゃんに言えば良い 楽しい事も辛い事も、うちらに聞かせてほしい」
「……はやて……」
「楽しすぎて苦しい時も、悲しすぎて苦しい時も、うちらが一緒にいる せやから……な?」

 そう言って我が主は、ヴィータの頭を優しく撫でる

「〜〜〜〜〜〜ッ! はやてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 それで限界が来たのだろう……ヴィータは主はやてに縋り、そのまま……

(恐らく……ヴィータはもう大丈夫だな)
「シグナム」
「シャマルにザフィーラ……今日はよくよく驚かされる」

 ヴィータと主はやての姿に安心した私は、後ろからの声に、また驚かされる
 その二人の手には、酒瓶が持ってある

「ヴィータちゃんはもう大丈夫みたいね……今日はトコトン付き合うわ」
「すまない……」
「言いっこなしよ? それより、明日からは……ね?」
「分かってるさ」

 明日からは私達は高町のリハビリにトコトン付き合う……
 それを感じたのか、私の声に、シャマルもザフィーラも鷹揚に頷く

(主はやて、私達はコレで失礼します)
(分かっとる あんま飲み過ぎたらあかんで?)
(勿論です)

 念話で主はやてに、お暇を願い出て、私達はそのまま食堂に行くのだった……

 終わり

 あとがき
 久方ぶりにお題ネタとなりましたが、タイトルとは微妙に違う……ような気もします 泣きたい時のシーンではあるものの、一緒に泣いて無いやん!みたいな感じで
 ともかく、設定としてはリリカルなのはstsで出てきた、なのはが大けがしたシーンの直後になります
 カップリングの方も、なのは×ヴィータなのに、当のなのはは名前しか出てこず……こんなんで良いのか?(苦笑) まぁ「恋人達を見守る第三者」と言う意味は成し遂げた……筈

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