「なんってーかさー」
「なあに、お姉ちゃん?」
一点を真剣に、だけど穏やかな視線で見守ってたお姉ちゃん
「なんかアレ、ムカつく」
そして、その表情とは180度真逆な事をのたまう
まぁ、気持ちは分からない訳じゃ無い
お姉ちゃんと私の視線の先には、幸せそうなカップルが一組
岡崎朋也君と一ノ瀬ことみちゃん 二人仲良く手を繋いで歩いている
その表情は、模範的なカップル、と言う表現が最も相応しい雰囲気で有るのは、考えるまでも無いと思う
お姉ちゃんは(一応)一人身だから、あの光景は毒でしか無いのかもしれない
「でも、なんかね……なーんか、茶化したいんだけど」
「……え……」
でも、次のお姉ちゃんの言葉で、思わず私は言葉を失う
成程、お姉ちゃんは
「ムカつくけど、茶化したい……茶化したいけど、ムカつく……ねぇ、椋……どうしたらいいと思う?」
「……笑えば……良いと思うよ……?」
正直、お姉ちゃんの気持ちなんて、もうどーでも良くなったので、私はどこぞのロボットアニメの主人公の真似をして、逃げることにした
恋人達を見守る10題 その5 一歩引いてみれば簡単なことなのに
「あんた達って、なんってーかさー……」
「「?」」
お昼休みになって、何時ものように部室に皆が集まると、真っ先にお姉ちゃん
お姉ちゃんの言う「あんた達」って言うのは、勿論岡崎君とことみちゃんの事
その表情は、ラブラブバカップルに対して冷やかしたい気持ちと、それでいてムカつく気持ち、その両立した様な感情が支配しています
「すっごく仲いいよね」
お姉ちゃんの、羨ましそうな一言に、あっさり真っ赤になる二人
「でもさー、なんかムカつく」
「は?」
そして、次に出たお姉ちゃんの言葉に、岡崎君の顔がハニワみたいな物に変化します
まぁ、この気持ちはわからない訳じゃない だって、お姉ちゃんの言ってることは、矛盾だらけの言葉だから
「なんか杏ちゃんが、無茶苦茶なこと言ってます!」
「知ってるわ!」
「杏ちゃん……いじめるいじめる?」
「いじめないわよッ!」
「いや、落ち着けよ……」
「私は冷静よッ!」
「はぁ……」
「溜息つかないでよッ!椋ッ!」
いろんな意味で大暴れしてるお姉ちゃんに、私は思わずため息をつきたくなります
全く……冷やかしたいから、って変に近づきすぎるから、変な気分になる、ってのを、この姉はどれだけ気付いてるのやら……
「朋也君、はいあーん」
「お、おう」
そんなお姉ちゃんを横目に、岡崎君とことみちゃんは、真っ赤になりながらご飯を食べさせあってます
成程、お姉ちゃんが冷やかしたくなるのは、こう言う所にあるのかも……
「二人とも、恋人同士なんですから、もっと堂々としてなきゃ駄目ですよ?」
「うぐッ……」
「しまった……椋に取られた……」
私の一言に、さらに真っ赤になる岡崎君、そしてちょっと後悔してるっぽいお姉ちゃん
全くお姉ちゃんは……冷やかすなら、もうちょっと堂々としてればいいのにね
「そういや、委員長」
「? なんですか?」
「勝平とは最近、どうなんだ?」
「ッ!」
そんな私の気持ちを知ってか知らずか……岡崎君はさっきの私に仕返しをしてきました
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!」
「どうやら、それなりに仲良くしてるみたいだな」
「椋ちゃん、嬉しそうなの」
冷やかしたつもりが、逆に冷やかされて……
一歩引いた地点で見てれば、こんなことにならなかったのに……!
なんだか、少しだけだけど一歩引いてればいいのに、冷やかしたいお姉ちゃんの気持ちが、理解出来てしまいました
終わり
あとがき
久方ぶりのお題SS更新です なんかやっぱり微妙に違うかも……(苦笑)