「えっと……この奥ですね」

 そして次の日…… 麻美は渚たちに連れられ、ケットシーたちの住む、森の入口に佇んでいました

(この奥にいる、あの大きなケットシーに会えば、私は帰れる……)

 その入り口に、数匹のネコが見えるその先の闇を眺めながら、麻美はこの世界に来てからの時間で得た物を入れたバッグを、強く抱きしめます

「麻美さん、今思ってること、当てて見せましょうか?」
「え?」

 それと同時に、思わずうつむいてしまった麻美に、渚はおどけるように声をかけてしまいます

「大好きなあの人に、どう気持ちを伝えれば、って前々から思ってますね?」
「な、何でそれをッ!?」
「あ、やっぱりそれは思ってたんですね♪」

 直後のそのセリフに、麻美は思わず狼狽えますが、舌を少し出して微笑む渚の表情に、カマをかけられたことに気づいてしまいます

「ふふっ…… 大丈夫、ですよ? 多分、ちゃんとあなたの大事な人達と、ちゃんと会える、と思いますよ?」
「あ…… はいっ!」

 そんな麻美の表情を楽しんだ後、渚は不意に真面目な顔になり、麻美の不安を払しょくするように、出会ってから今まで見たこともないように、力強く麻美に語りました
 その渚の言葉に、麻美も思わず笑顔で答えるのでした

「さて、帰る前に一つ、恋に効くおまじないを教えようと思います」
「わーぱちぱち」
「おまじない、ですか?」
「はい、私の大好きな人に教えてもらって、素敵な恋のおまじないです」

 心の奥にあった不安もなくなり、いざ森の奥に、と思った麻美でしたが、その(良い意味で、ではあるものの)重い空気を吹き飛ばすように、渚が大声を上げ、ことみがそれに続きます
 そんな渚とことみに、麻美を含む、その場にいたメンツは驚きで思わず一歩引き下がります

「それはですね…… 心の中で自分の大好きな物を呟くんです そして、目標を達成したら、それを自分のご褒美にするんです」
「大好きな、物ですか?」
「はいっ!」
「私に、出来るでしょうか?」
「はい、きっとできます!」

 しかし、そんな麻美の気持ちを無視して(あるいは気づかずに)渚はあくまでも笑顔で麻美に語り……
 麻美は、そんな渚に、思わず自分には無い強さを見つけて、眩しい物を見つめている気分にさせられてしまいます
 そんな時でした…… 麻美たちは目の前に広がる森の中から、強い力の奔流を感じ始めました

「もしかして、昨日の……」
「多分、そうだと思います」

 それを感じた麻美は、自分自身が元の世界に帰れる喜びと同時に、仲良くしてくれた渚たちとの別れの予感に、思わずさみしさをも感じてしまいます

(ようこそ、我らケットシーの森へ)
「え……? テレパシー?」
(はい…… 私たちは、この森で最も力を発揮できます ここなら、私たちの思うことも、貴方たちに伝えられることが出来ます)

 直後、森の奥から来た存在…… ケットシーに話しかけられ(実際はテレパシーですが)麻美はびっくりしますが、当の本人の説明に、麻美も納得させられます

(それよりも、まずは謝らせてください…… 子供たちのいたずらにあなたを巻き込んでしまって……)
「いっ!いえっ、そんなっ……」
「そういえば、何で麻美さんだったんですか?」
(私たちケットシーは、子供の頃純粋な人間をからかって遊ぶのが大好きです……)
「逆に言えば、麻美さんはそれだけ純真な人だ、って事ですか?」
「そ、そんな…… 私なんか……」

 そして、頭を下げるケットシーに、渚はその理由を問いますが、その理由に麻美は顔を赤くして照れ照れ顔になってしまいます

「あ、それじゃあ、やっぱりあの時のネコさんも、ケットシーだったんですか?」
(はい、その通りです あの子も今、ここにいます)

 しかし、その表情も数瞬…… 不意に真面目な表情になると、麻美はこの世界に来ることになった原因のネコ……ケットシーに付いて問いかけます
 その問いに対して、麻美たちの目の前にいるケットシーは、頷き、その子供ケットシーを呼び出します 

「おいで」
「にゃ?」

 そのケットシーが姿を現したその瞬間、麻美は僅かに屈んで、そのケットシーに手招きをします
 そんな麻美の行動に、そのケットシーは一瞬不思議そうな表情(麻美たち主観)になりますが、直後麻美の呼びかけにすぐさま応えます

「ネコちゃん、ありがとう…… 私に素敵なお友達をくれて……」
「にゃぁー」

 そして、麻美はその駆け寄ってきたケットシーを優しく抱き上げ、そのまま静かにその頭を撫でて……
 そのなでなでを受ける方も、ただ嬉しそうに目を細め、それを受け入れます

「あの……」
(なんでしょうか?)

 そんな一人と一匹を見守るのも数秒、渚たち・麻美の付き添いで来た女の子たちは、大きい方のケットシーに視線を戻します

「また、こちらに来てもいいでしょうか?」
(勿論です…… あなたが悪戯好きの子供たちを受け入れてくれれば)

 そして麻美の問いかけに、その大きな猫は、大きく頷いて、その問いとします

「じゃあ、そろそろ……」
(わかりました)

 そして暫しの語らいの後……
 名残惜しさを押し切るかの様に意を決した麻美は、ケットシーに視線を向け、自分の気持ちを伝えます
 ケットシーも、麻美の気持ちを理解するように頷き、彼女を元いた世界に戻す魔法を発動します

(いつかまた、私たちと貴方たちの縁があったなら……)
「はい ……また、会いましょう」

 麻美とケットシー、そして渚たちの再開の願いを口にしたその時……
 麻美の姿は、渚たちの目の前に消えてなくなったのでした……




 そして数日後……

「へぇ…… 先輩が病院に担ぎ込まれててたこの一か月間、そんな事があったのか……」
「はい」

 ケットシーの手で、無事元いた世界に戻ることが麻美は、彼女自身がその想いを寄せる少年に、自身が昏睡していた「とされていた」時間の間、麻美が何をしていたのかを報告していました

「えっと…… 何とも突拍子もない話だとは思いますが……」
「大丈夫大丈夫…… 俺も結構前に、押し入れから出てくる生霊に会ってたから、先輩の言葉を嘘だって言わないさ」

 しかし、内容が内容だけに、信用されないかとも思っていた麻美でしたが、意外や意外…… 健二は麻美の言葉を信じてくれました

「それ以上に、麻美が今着てる服が、何よりの証拠だろ?」
「あ……そうでした」
 だけど、その信に値する理由としては、麻美が今着ている服…… 麻美が保護してくれた学校が、記念にとくれた学校指定の制服が最も大きいと、彼は語ります
 そう……とても可愛らしい物の、麻美の性格上、その手のお店に自分から買いに行けないと言うべきそれ…… 一言で言えば、メイド服だったのです!
 しかし、その服一つで健二は麻美が異世界に行った事を信用した訳でなく、その服自体が彼らの世界の服には無い、不思議な雰囲気が纏っており、それが信用するに足りる理由にもなっていたのです

「そ、それより、先輩……」
「あ、はい……」

 しかし、それはそれだと言わんばかりに、健二は真剣な表情になって、麻美の肩を優しく抱き…… その意図を理解した麻美も、それに応えるように、瞳を閉じ……

「優しく、してください……」

 そして、思わず口を付いたその言葉に、健二の態度が応えようとしたその瞬間でした……

『な、渚さん、急いで開けてください!』
『ちょ、ちょっと待ってください……』
『せ、せまいの〜〜!』
「「!!??」」

 なんと、それを邪魔するかの様に、何処からともなく不気味な、だけど可愛らしい複数の声が部屋に響き始めたのです!

「な、なんだ!?」
「わ、分かりません……」

 そして、その部屋の主とその恋人は、何があったかと言わんばかりに狼狽えますが……
 その部屋の主は、その声の主に心当たりがあったような表情になった後、目を閉じてその声が何処から来ているのか、冷静に探ろうとします

「…………」
「あ……麻美さん、お久しぶりです」
「……渚さん、お久しぶりです」
「あ、挨拶は良いから早く入れて欲しいの〜」

 その答え…… 麻美が幼少の頃から使っていた机の引き出しをあけると、麻美がケットシーによって連れて行かれた世界で、一番お世話になった友達が勢ぞろいしていました

『麻美〜? 彼氏さんと仲が良いのは構わないけど、ちょっと騒がしいわよ〜?』

 しかし、お互い(多少)リアクションに困っているそんな中、渚たちが騒ぎ過ぎたのか、部屋の外から麻美の母親であろう声が聞こえてきます

「い、いったん中に!」
「は、はいっ!」
「分かったの!?」
「全く、仲が良いのは構わないけど、昼間から…… あら?」
『あ……』

 双方、驚きつつも、今の状況を見られないために誤魔化そうとしますが、その努力も空しく……
 無情にも麻美の部屋の扉は開かれ、麻美母と唐突の来訪者、双方の視線が見事交わります

『………………………』
「あらあらあらあら…… まぁまぁまぁまぁ……」

 そして無言の中数秒…… 先に口を開いたのは、麻美の母親の方でした

「みなさん、もしかしてドラ○もんですか?」
『ドラえ○んってなんですか!?(なの!?)』

 その直後の麻美母の言葉に、渚達来訪者の気持ちが一つになりますが……

「麻美が最近明るくなったと思ったら、貴方達のお陰だったのね…… あっ、そうだわ!お茶菓子の用意もしなきゃ…… ちょっと待っててくださいね?」

 その総突っ込みをスルーして、麻美母はあっという間に部屋を出て行きました

『……………』
「俺……もしかして蚊帳の外?」

 そんな麻美母の行動に戸惑う一行の中、唯一言葉を出せれたのは…… 渚達が出て着てから、何も言葉を発することが出来なかった、健二なのでした……



 ひだまりメイドラプソディー外伝 猫が導くエトランジェ みずいろ・神津麻美編 おしまい


 あとがき
 という訳で、5回に渡った外伝編、いかがでしたでしょうか?
 個人的に、いろいろあって遅れに遅れたので、進呈先には本当に、そして心の底から申し訳ないの一言になってしまったのも事実なんですが……(汗

 とりあえず、無事終了できたので、他の更新もちゃんとやらなきゃになる訳で…… この来訪者ネタなら、ロウきゅーぶとかも考えてますが…… ある意味無茶苦茶な展開になりそうだ
 ともかく、こんな作品でも一読していただいたのであれば、心から感謝します ありがとうございました
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