「麻美さん、どうかしましたか?」
「? あ、渚さん」
それから数日…… 翌日に、麻美が住んでいる国に戻ることが決まり……
そのさようならパーティと銘打ったその騒ぎの喧騒がギリギリ聞こえるその場所で麻美はのんびり空を眺めてると、ここで仲良くなった女の子に声を掛けられます
「えっと…… 星が、綺麗だと思いまして」
「星、ですか?」
「はい…… 私達の世界じゃ、あまりよく見えないので……」
その麻美の行動を聞くと、渚は自身にとっては当然の世界と、麻美にとって当然の世界が違う、と言うのを実感させられます
「私にとって、渚さん達の…… こっちの世界が、ちょっとうらやましい、と思いまして」
「羨ましい、ですか?」
「はい ……帰ったら、健二さん達にもこの星の事を話したいと思ってます」
「健二さん、ですか…… その人が麻美さんの好きな人、ですか?」
「え? えぇっ!?」
そして、その満面の星空を眺めながら、思わずつぶやいた麻美の一言に、渚は普段とは違う…… 人をからかうような、悪戯好きな笑顔、と評するに値する物となっていました
麻美は、そんな渚の笑顔に、自分があまり言わない方がいい一言を言った、と言う実感と共に、その顔を赤く染めるのでした……
ひだまりメイドラプソディー外伝 猫が導くエトランジェ みずいろ・神津麻美編 その4
「え、えっと、そんなことより、皆さん、大丈夫でしょうかね?」
とりあえず、渚に冷やかされる前に、何とか話題を変えようと、麻美は食堂を覗き込みます
そこには、最早その目的を忘れた酒盛り、と言う表現が正しいと言わんばかりに、皆一様に酒を飲む姿が二人の目に映ます
「確か、最初にお酒を飲んだのは、ヒロさんでしたよね……?」
「あ、あはは……」
そんな中、大学部の人間であろう周りの男子生徒に次々と酒を進めるヒロの姿に、渚は只々麻美同様呆れた表情を浮かべるしかできませんでした
「そんなことより、その健二さんと言う方は、どんな方ですか?」
しかし、その麻美の努力もむなしく、渚の……まさに興味津々と言わんばかりの態度に、麻美も諦めた様にため息を付くしかありませんでした
「とても、素敵な人です ……今の私がいるのは、あの人のお陰なんです」
「とっても興味深い話なの 麻美ちゃん、もっと話すの とっとと話すの 今すぐ話すの ……ヒック」
「……ことみちゃん?」
そして自身の好きな男について話し始めようとしたその直後、唐突に後ろからことみが現れます
しかし、その少し赤くなった表情、それとあからさまに違う息のにおいから、彼女が酔っている事が二人は理解します
「はい、ことみちゃん えっと……何処から話しましょうか…… ことみちゃん?」
「……くー……」
しかし、麻美がことみの要求通り、話し始めようとすると…… なんと、ことみは渚の方に倒れ込み、そのまま眠ってしまっていたのです!
「あはは…… しょうがないですね…… まず保健室に連れてくしかなさそう?」
「そうですね…… 朋也君にお願いして、手伝ってもらいましょう」
ともかく、このことみを何とかするしかなく、とりあえず、そのことみを麻美に任せ、朋也……渚の恋人……を呼ぼうとしますが、その途中で渚は足を止めます
「私も、同じです 朋也君が…… いいえ、朋也君だけじゃないです ことみちゃんや、杏ちゃんがいなかったらきっと、今の私がいなかったと思います」
「? ……あ……っ!」
そして、その行動、その言葉に、麻美は首を傾げますが、その意味に気づいたとき、麻美は顔を少し赤らめます
「にゃあー」
「「!??」」
そんな時でした…… どこからともなく、野太い猫の鳴き声が聞こえ……
「……ト○ロ?」
二人が驚いて、その方向を向くと、麻美自身が、もともと住んでいた所で見たお話に出てくる、二足歩行の大きい猫が立っていました
「にゃあー」
「えっと……」
「これを読め、って事ですか?」
その猫は、二人に歩み寄ると、そのまま一枚の紙を、二人にそっと手渡します
「? 何も書かれてませんね」
「……麻美さん、その紙をしっかり持っててくださいね あ、ついでにことみちゃんもお願いします」
「? 渚さん?」
しかし、その紙には何も書かれていませんでしたが……
そんな状況の中、渚はその紙とことみを麻美に押し付け、そのまま片足を後方に踏ん張り、麻美の方に両手を差し出します
「マナよ、我が求めに応じよ…… かの者の言葉を、我らの心に届けよ…… メッセージ!」
そして、次の渚の言葉に、麻美はその行動の意味をある程度理解します
それと同時に、猫から受け取った紙を麻美に持たせた後…… その麻美にとって、驚くべきことが起こりました
そう…… 渚が自身に向けた腕から、麻美自身でもわかるほどの、強力な力が流れて行ったのです!
そして、彼女自身の力強い言葉の終わりと共に、その目に見える力の流れが、そのまま麻美の持っている紙に流れて行ったのです!
「あ……ッ!」
それと同時に、紙に文字が浮かび上がり…… 先ほどの渚の言葉が、魔法の詠唱であることを、麻美はこの時理解することが出来たのでした!
「えーっと…… 明日、昼過ぎにかの公園の森の奥で、待ってる……?」
その文字を読み、その意味を理解すると、二人はその方向に向き直りますが…… そこにはもとより誰も居なかったかのように、何もいませんでした
「えっと……渚さん、さっきのって、まさか……」
「はい、多分、ケットシーだと思います」
「……何の、ご用なんでしょうか?」
「……さぁ…… 明日、直接会わなきゃ、ですね」
「くー……」
「「あ」」
そして、先ほどまでいたその存在の意味に、二人は首を傾げますが、いつの間にか寝ていたことみの存在を思い出し、二人はことみを連れて行く途中であることを思い出しました
そして次の日…… 麻美は、運命の日を迎える……
最終回に続く
あとがき