「先輩、起きないねー」
「そうだなー」

 所変わって、麻美の故郷の町の病院……
 兄妹らしき二人の高校生が、ベッドに横たわっている、一人の黒髪の美少女……麻美を眺めながら、心配そうに眺めます

「先生の話じゃ、体調的には問題が無い、って言ってるけど……な」
「でも、流石に簡単に信じられないよね…… ただ単に猫やキツネに化かされてる可能性もある、だなんて……」
「ああ、そうだな……」

 そして、その兄妹は、只眠っているだけの麻美に、医師から聞かされた話を思い出しますが、そのあまりの荒唐無稽さを信じられないでいました

「でも、お医者さんの言う通りだったら、先輩はひょっこり目を覚ますさ」
「……うん…… そうだね……」

 それでも、兄は麻美を本当の姉のように慕う妹に、軽い気持ちで励まし、妹もその兄の言葉に、素直に頷くのでした

「……くちゅんっ!」
「麻美ちゃん、大丈夫なの?」

 一方その話題に上がってる麻美の方は、可愛らしくクシャミをしていました、とさ


  ひだまりメイドラプソディー外伝 猫が導くエトランジェ みずいろ・神津麻美編 その3


 そんなこんなで、麻美が異世界の王国に迷い込んで一週間が経とうとしていました

「麻美ちゃん、今日はお休みの日なの」
「あ、あの……ことみちゃん? それは麻美さんも知ってると思うんですが……」
「うん、麻美ちゃんも分かってると思うけど、一応確認のためなの」

 麻美が一時的に通う事になった、彩井(あやのい)学園の専属寮であるひだまり壮の食堂に行くと、たまたま遭遇したことみに麻美自身が知ってることを改めて言われました

「だから、今日は私と渚ちゃん、そしてヒロさんとささらちゃんと一緒に猫さんを捜しに行くの」
「猫さん、ですか?」
「そうなの 麻美ちゃんをこっちに連れてきた猫さんなの」
「あ、ケットシー、とかいう不思議な猫さん、ですか?」
「そうなの」

 そして、次のことみの言葉に、麻美はその意味を理解しました

「でも、聖地、でしたっけ? この国もすごく広い、って聞きましたけど……」
「それは大丈夫ですよ? 朋也君のお友達の、須尭雨情さんと言う方が、猫がよく出るポイントを教えてくださいましたから」
「ちなみに朋也君、っていうのは、渚ちゃんの彼氏さんなの 口は悪いけど、とってもとっても優しい人なの」
「か、かれしさん……」

 しかし、麻美はふとある疑問が頭によぎり、それを問いかけると、渚とことみの二人は、表情で「ついてきて」と言いながら、その答えを語ります
 その二人についていきながら、麻美はことみの一言に、ちょっとだけ頬を赤らめてしまいました

「……ここって……」
「そうなの 目的地までは結構遠いから、お馬さんに乗って移動するの」

 しかし、その表情も一瞬…… 連れてこられた場所の匂いに麻美が気づくと、ことみはそれに頷きます
 そんな二人にさらについていくと、そこには麻美が元いた世界には、あまり馴染みのない生き物が数十頭単位で並ばされていました

「麻美ちゃんは乗馬の経験が無い、って言ってたから、ささらちゃんの後ろに乗っていくの」
「は、はいっ! よろしくお願いしますっ!」
「くすっ こちらこそよろしくお願いしますね」

 そして、その名指しされた女の子……久寿川ささらは、その馴染みのない生き物……馬を前にして、緊張する麻美に優しく微笑みかけるのでした

 そんなこんなで馬に乗って一時間…… 麻美たちの目に広がったのは、麻美の世界では森林公園を一目でイメージさせる広場が広がっていました

「凄い……!」

 そんな広場に、麻美は只々驚いたような声を上げるしかなく、彼女をここまで連れてきた渚たちは、その麻美の態度に、皆一様に嬉しそうな表情になるのを禁じえません

「えっと、須尭さんの話だと、あっちの方ですね」

 そして、馬を適当な場所につなげると、渚の案内で本来ここに来る目的の場所を目指します

「それにしても、ここの風って、なんだか優しい気がします」
「いいことに気付いたの 麻美ちゃんの世界と違って、魔法があるのは、麻美ちゃんももう知ってると思うの」

 その目的地までの並木を進む間、麻美は自分たちを優しく包む風に、優しい違和感を感じ、思わずそれを口に出してしまいます

「その魔法は、私たちの世界にとって、生活を助けるためのものです」
「そして魔法の力は、自然の中にある、いろんな力から借りて使うものなの」
「それと同時に、自然の中に発生する物事は、何かしらの意味がある、と言われているのよ?」

 そして、そのことみの言葉を引き継ぐように、渚たちも麻美が分かるように、この優しい風の意味を説明します

「じゃあ、この風は……」
「多分、ここに住む猫さん達のボスが吹かせていると思うの」

 そのことみ達の説明を、麻美が理解したその瞬間でした……

「あ、あそこ!」

 直後、ささらが指さした方に皆の視線が集まると、そこには数匹のもう可愛らしい以外の言葉が見当たらない、仔猫が麻美たちの方に歩み寄っていました

「可愛い……」
「そうですね…… とっても可愛いです♪」

 そしてその仔猫達は麻美達の足元に甘えるようにすり寄って来て、その態度に麻美達は只頬を緩ませます

「猫さん達がここにいるってことは、やっぱり……」
「多分、麻美ちゃんの予想通りだと思うの」

 その中の一匹を優しく抱き上げ、頭を撫でながら、麻美はことみに問いかけると、問いかけられた方もそれに同意するように頷きます

「ここの森の奥…… そこにボスが居るみたいなの」

 そして、その猫の来た方向を指さし、ことみはいつも通りののんびりした態度で麻美に答えます

「でも、今日は帰らない方がいいと思うの 麻美ちゃんもちゃんと帰る準備が必要だと思うの」
「はい…… 私も伊吹先生や皆さんに挨拶をしないで帰るのは、ちょっと違うと思います」

 しかし、麻美はそのことみが指さした方向こそ眺める物の、少し逡巡した後に渚たちの方向に向き直ります

「もうちょっとで麻美さんとさよならは寂しいですけど……」
「私もです…… でも……」
「はい 麻美さんには麻美さんを本当に必要としてる人たちの所にいてあげてください」

 その向き直った方の皆は、一様に近く来るであろう物の予感を感じますが、それでもそれを押し殺し、笑顔で麻美を見送る決意を感じさせる表情を麻美に向けていました

「出来ればもうちょっと猫さんに触っていたいけど、今日はとりあえず寮に戻るの」
「……はい!」
「とりあえず、帰ったらこの前行った喫茶店に行きましょうか 今度はみんなで食べる大きいパフェを注文しましょうね」
「注文するのは構いませんが、それだと体重がちょっと怖いです……」
「懐具合も怖いですしね……」
「ヒロちゃん、体重を増えたからって、椋ちゃんに泣きついちゃダメだと思うの 周囲の気温を上がる魔法は、椋ちゃんのダイエットにしかならないと思うの」
「ま、まだ体重増えて無いわよぅっ!」

 そして、その寂しさを打ち消すかのように、軽口をたたきながら戻ろうとしますが、その軽口は別のベクトルで皆厳しい表情になってしまうのでした――

 次回に続く

 あとがき
 という訳で半年弱の更新と相成りました みなさん、覚えていてくれてたでしょうか? グラーフリッターです
 今回は、私と仲良くしてくれてる方に投稿させて頂いた、HMLの外伝板と相成っています
 とりあえず、最初の4つは出せていたのですが、こちらに掲載を遅れに遅れて申し訳ないです

 えー、元ネタはわかる人はわかるでしょう…… そう、ARIAです ケットシー、と言う単語でもわかると思います
 そして巻き込まれたのは、みずいろと言うギャルゲーの先輩キャラの麻美と相成りました
 ARIAのキャラも、いずれは……とかなんとか思ってたりもしますが、こればっかりはネタの降り具合ですね

 ともかく残り二つは、近いうちに更新させてもらいますね

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