そんなこんなで二日が経ちました
さまざまな事情が重なって、異世界に迷い込んだ麻美は、その世界のヘソの部分……つまりはど真ん中にある学園……彩井(あやのい)学園に通う事になりました
「え、えっと、あの……桑原先生?」
「どうしたのー?」
その学園で使う制服のサイズ合わせをしている時、麻美はそれに付き合ってくれている桑原に、只々困惑した表情を向けるしかできません
「えっと……その……これが指定の制服なんですか?」
「そうだよ〜?」
そして、そんな表情の中、自分の着ている服の袖で顔を隠しながら桑原に問いかけますが、それに対する桑原は、何ともあっけらかんとしたものでした
「正確に言えば、それはウチの学校の学科の一つの制服、って事だね ……勝手に決めさせてもらったのは、悪いけどね」
「い、いえ、帰れるまで只寮の中でボーっとしてるだけなのも、と言ったのは私ですし……」
「そう言ってくれて助かるけど…… それはその学科の一つ、ME科ってやつで…… 正確にはメイド・執事育成科ってやつだ」
「め、めいど……」
その桑原の説明の直後、麻美はもうこれでもか、と言わんばかりに、可愛らしく頬を赤く染め上げます
「おーい、大丈夫〜?」
「は、はぃっ! だいじょうぶです……」
「そ、そっか あぁ、そうだ、担任の伊吹先生と一度会った方がいいね 呼んでくるよ」
そんな麻美に、桑原は彼女の眼前に手を振りますが、彼女が無事だと知ると、そのまま足早に部屋を出ていくのでした
「メイド……健二さんの、メイド……」
その桑原を見送りつつ、麻美は脳内に湧いて出てきたイメージに、耳どころか、全身すべてを真っ赤にするのでした……
ひだまりメイドラプソディー外伝 猫が導くエトランジェ みずいろ・神津麻美編 その2
そんなこんなで、次の日の昼休みとなりました……
「それで、麻美さん? 初日はどんな感じだったかしら?」
「は、はい…… 何とか……」
あまりの緊張で、先日眠れなかった麻美は、最後の授業が終わると同時に、そのまま机に倒れこんでしまいます
そんな麻美に二人の女生徒……ヒロと渚と言う、一目にも二目にもおっとりとした、と言うイメージを持たせる女の子が、麻美に話しかけます
「で、でもヒロさんも渚さんも、タフですね……」
「そ、そんな…… 私も毎日いっぱいいっぱいで……」
その二人に対し、麻美は半分の授業が終わったのに、体力がもう本当に消耗しきった、と言わんばかりの表情で、ヒロと渚を見上げます
「でも、彩井学園って、毎日こんなに大変なんですか?」
「そうね…… 私たちの学科も結構大変だけど……」
「そうですね…… 朋也君は昨日、グラウンドで兎跳び400メートルトラック30周とと剣の素振り300回はやった、って言ってました」
「……ほんとに大変なんですね……」
そんな麻美に追い打ちを、という訳ではありませんが、二人の説明に、麻美はさらに疲れた表情になってしまいます
それもこれも、午前中に麻美が体験した授業にすべてがあったからです
(メイドって、こんなに大変だったんですね……)
そう――麻美が体験したのは、メイドを目指す女の子たちが、その為にすべき勉強と実技の繰り返しであり――
教師陣も相当に厳しく、生徒を殴ったり強い口調で責めたりこそしない……むしろ伊吹公子教諭を始め、今まであった教師が、すべて真剣な表情で生徒にぶち当たってきた授業だったのです
そして元の世界では、基本的に机に噛り付く勉強だった麻美には、ペーパー物もある物の、実技中心の授業に、只必死についていく事しかできませんでした
「そんなお疲れの麻美ちゃんに、これをどうぞなの」
「? ことみちゃん?」
そんなぐったりな麻美に、ある物を差し出す、一つの陰…… ヒロや渚以上におっとりとした、と言う表現が似合う女の子、ことみが一つの箱を麻美に差し出していました
「私達も一年の時は麻美ちゃんみたいになると思ったから、作ってきてよかったの」
そのおっとりとした表情からは信じられないぐらいに、その瞳は非常にまっすぐなものであり、その箱を麻美が受け取らない限り、ことみは手をひっこめないのを理解しました
「おいしい……!」
「よかったの 美佐枝さんと杏子さんに教えてもらいながらだけど、みんなで頑張って作ったから、そう言ってもらえると、とってもとっても嬉しいの」
その箱を開けてみると、麻美の住む世界程の彩こそない物の、それでも一目で美味しいとわかる食べ物がたくさん入っており……
それを、ことみから手渡された箸で一口食べてみると、最初に彼女たちの優しさを連想するような味が口に広がっていきます
「そして、私たちのお弁当を食べてくれたお礼に、私から一曲プレゼントなの」
「わっ!わっ! ことみちゃん、今はダメですッ!」
直後、ことみは何処からか取り出したバイオリンを構え、一曲奏でようとしますが、それは渚とヒロに止められてしまいます
「どうか、したんですか?」
「え、えっと、それはことみちゃんがいないところで、ね?」
そんな二人に、麻美は心から不思議そうに首を傾げますが、それはヒロによって止められてしまいます
「と、とりあえず、放課後に一緒にこの学校の生徒がよくいく喫茶店に行きませんか?」
「喫茶店、ですか?」
そのヒロや渚の態度に、膨れっ面になることみの意識を変えようとするかのように、渚が麻美に提案します
「えっと……私、こっちのお金を持ってませんけど、良いんでしょうか?」
「ええ、良いのよ? こっちの素敵な所を、貴方が帰るまでに、一つでも多く見てほしいんですもの!」
しかし、その提案に麻美が当然の疑問で渋い顔をしますが、ヒロ達はその顔を吹っ飛ばすかのように、満面の笑顔で返すのでした――
次回に続く
あとがき
第一話同様、第三話に纏めてとさせてもらいます 半年弱の間、更新せずに申し訳ないです