ここは、我々の世界の日本に酷似した国の、とある地方……
 その中での、正に閑静とした住宅街の中、一人の正におっとりとした、と言う表現が似合う黒髪の美少女が、目の前の猫と相対していました

「…………猫さん、おいで」

 その少女は、暫しその猫を眺めながら固まってましたが、我に返るとしゃがみこんでその猫を優しい表情で手招きを始めました

「にゃあー……」
「……? どうしたの?」

 しかし、その猫は、その少女の意にやや反して、近くの塀に上がり…… そのまま少しだけ進みます

「……ついてきてほしいの?」
「にゃあー……」

 そして、その猫の行動に、少女はその意を理解し、そのままのんびり進む猫についていきます

「……? ここに、何かあるの?」

 暫しその猫についていくと、行き止まりで立ち止まり…… 少女がゆったりとした態度でその猫に近づこうとしますが……

「にゃあー……」
「? ……ッ!?」

 その瞬間、その少女の目に、彼女の持つ常識の外にある光景が広がります
 なんと、その猫の目が強く光り…… その光は少女を包み込むように、広がっていきます
 その強烈な光に、少女は思わず目を瞑り…… そのままその意識を、闇にゆだねていくのでした……
 

  ひだまりメイドラプソディー外伝 猫が導くエトランジェ みずいろ・神津麻美編 その1

「……? 知らない天井?」
「お、目が覚めたかい?」

 そんなこんなで数分か、数十分か……その少女が目を覚ますと、彼女が目を閉じる前とは違う光景が広がってました
 そして少女が声を上げると、近くから白衣を着た女性が、安心したように声を掛けてきます

「アンタ、あたしが見えてるかい? 指、何本立ててるかわかる?」
「……? えっと……二本、ですか?」
「どうやら脳に問題は無さそうだね ……あんた、どこから来たか、わかるかい?」
「……? ここは日本じゃないのですか?」

 そしてその女性が、少女の前に手をかざし、それを振りながら、少女の意識の程度を確認し、彼女の状況を確認します

「ふぅむ……どうやら、アンタはケットシーに化かされた可能性があるね」
「ケットシー、ですか?」
「ま、一言でいえば、化け猫の類さ 連中は悪い奴じゃあないんだが、純粋な人間をからかって遊ぶのが大好きでね」

 そんな中、二人の意識の違いに理解した女性は、少女が置かれた境遇を聞き、ひとまず簡潔に彼女の状況を説明します

「ともかく、詳しく言えば、ここはアガルティアと呼ばれる世界の、聖地と呼ばれる国にアンタはいるんだ ……つまり、異世界に迷い込んだ、ってことだよ」
「そう、ですか……」
「? 驚かないのかい?」
「あ、いえ……」

 女性の言葉に、女の子は事もなげに答えますが、それでもどうやら女の子は相当驚いている模様です

「えっと…… ビックリしすぎて、どうビックリしていいのか、よくわかんなくて……」
「まぁ、そっか いきなり自分のいた場所と違う所にいた、だもんね」
「はい……」
「ともかく、猫に化かされてるだけだから、数日もしたら帰れると思うよ? ……それまで、ここの寮でのんびりすると良い」

 そして、その女の子の態度に納得した女性は、女の子に安心させるように優しい笑顔を向けました

「桑原先生…… お話は終わりましたか?」
「? 校長? どうかしたんですか?」

 直後、その女性……桑原は、その天幕の外から老人と思われる男に声をかけられます

「いえ、そこのベッドの隣に、吉野屋先生が……」
「えぇッ!?」

 そして、その校長と呼ばれた男の言葉に、桑原は後ろの布をずらし……
 直後、二人の視界には、もうこれでもかと言わんばかりに幸せそうに眠る女性の姿がありました

「ちょっと、吉野屋先生? 吉野屋先生!?」
「うぅ〜ん…… もう食べられません……」
「吉野屋先生……」

 そして、その吉野屋と呼ばれた女性の寝言に、校長は女の子から見ても、世界の終わりを導けると思ってしまうほどに怒ってる表情になってしまいます

「全く、吉野屋先生は毎度毎度毎度毎度毎度毎度!!!」
「あぁーーん、校長!? そんなに怒らないでくださいよぉ!?」
「…………ええ……っと……」
「ああ、気持ちはわかるけど、あまり気にしないで上げてね?」

 そんな校長と吉野家のやり取りに、女の子は暫くリアクションに困る表情になりますが、桑原のフォローに、女の子は意識を桑原の方に向きなおします

「ああ、そうだ…… 多少不本意だろうけど、こっちに暫く住むことになる訳だから、色々書類を用意しなきゃだから……名前を教えてくれないかな?」
「あ、えっと…… 神津麻美と言います」
「そう、麻美ちゃんね? あたしは……まぁ、もう知ってると思うけど、保険医の桑原っていうの 暫くよろしくね?」

 そして、直後の桑原の言葉に、女の子……麻美は、その桑原の言葉に、只頭を下げることしかできないのでした

 次回に続く

 あとがき
 纏めて更新の為、細かい内容は第三話に inserted by FC2 system