それは、4月になり、もう少しで新学期に入ろうとしたその時でした
 白衣を着た男女一人組が、校長室を訪問していたのです

「成程……そう言うことですか……」

 その男女……共に聖地の研究所で働く、自称『偽善者』のベルンスト・ビューローと、なずなが所属する料理部の前部長・亜沙の母親・時雨亜麻の二人の報告に、校長は静かに頷きます

「そう言うことなら、教職員や生徒会及び風紀委員のみんなと相談し、どうすべきか相談させてもらいますよ」
「お願いしますね〜 皆もこの学校に行くのを楽しみにしてるんですよ〜」

 校長の言葉に、ある程度色よい言葉を貰った、と期待している様な声で、亜麻は明るい声で答えます

「それにしても、本当に……本当にこの日がやってくるとは…… あなた方の頑張りには、敬服いたしますよ」
「いえいえ、こちらも面白い研究素材を提供していただいたので…… 私達は私達自身の為にやっただけの事ですので……」
「そうですか……」

 校長の言葉にベルンストは、いかにも「彼らしい」言葉で返し、そんなベルンストに、校長も普段通りの言葉で返します

「ともかく、彼女たちの為にも、お二人の頑張りには期待していますよ」


 そして、そんな事があった、一月とちょっとの後……

「と、言う事が、前に校長室であったらしいのよ……」
「んで、その答えが……」
「そう、この一枚の紙切れ、と言う訳だ」

 校舎の入り口を入ってすぐにある、連絡ボードに貼られていた一枚の紙……
 その前に立つ、沢山の生徒の中にまぎれて、亜沙と稟の二人は、呆れた様な、感心した様な……そんな声を上げます

「よっ、お二人さん! 今日は芙蓉や八重達はどーした?」
「? 内藤先輩?」

 そんな二人に声を掛ける生徒が一人…… 彩井学園の生徒なら、その名を知らない人はいない、とまで言われる天下無敵な(元)生徒会長・内藤律太でした

「いや、楓と桜は今、透夜や佳澄美と一緒ですが……」
「ほう……つまり、芙蓉はお前さんにとって、最早不要と言うことか…… 俺はてっきり、土見は芙蓉の事を一生扶養していくのかと思ったが……」
「先輩、そうふようふよう言わないで下さい……」
「はっはっはっ すまんすまん!」

 稟の言葉に、律太は冗談を交えつつ、稟の肩を豪快に叩きます

「それで、先輩…… コレ、知ってましたか?」
「知ってるも何も…… これをしよう、っつったのは、俺と棗の兄の方だぞ?」
「「え?」」

 大きく笑い、律太は稟の肩を叩きますが、そんな状況を無視し、亜沙は稟と一緒に見ていた紙を指さします
 その亜沙の問いに、律太はあっけらかんと答え…… 稟と亜沙は眼を見合せ、どう応えていいのかわからない、と言う表情になってしまったのでした……

「それで、お前らは『コレ』に出るのか?」
「そうですね…… 勝った所で何かメリットがある訳じゃなさそうですが、それでも面白そうですね…… 逃げるのは得意だし」
「稟ちゃん、普段から変な人達から逃げてるもんね」

 そして、その紙に書かれていた事に関して、律太が問いかけると……稟は普段の温厚さとは違う、妙な気合が溢れていました
 その稟達が見ていた紙は……教師陣と彩井学園生徒会、そして一部生徒が企画したイベント……缶ケリ大会の告知が書かれていました―――


  ひだまりメイドラプソディー!外伝 彩井学園缶ケリ大会! プロローグ


 そして数日後……
 その日、彩井学園は、休日だというのに、異様な熱気に包まれていました
 一言目にも二言目にも、騒がしい事が大好きな、変わり者揃いの生徒たち故に、どの様な裏話が有ろうと、大きなイベントが大好きな人間ばかりが集まった学園だから、である
 そんな学園の気風故に、この熱気は、あるいは当然なのだろう…… 律太は滾る思いを抑える事が出来ずに、思いました

「……にしても、ホント物好きばかりが集まったわねー……」
「その物好きは、お前も入ってんだからな?」
「まぁ、そーなんだけど」

 呆れた様な、感心した様な……いつの間にか律太の隣にいた雪花が、心の底から呟きます

「真砂や彩雲達もどっかにいるんでしょうねー……」
「多分な」

 そして、この場にいない友人たちも、自分たちと同じ表情をしている、と思ってしまいます

『えー……マイクパス、マイクパス……』
『だからパス違います! パス違いますから! ……ってホントにパスしちゃ駄目です! 稟さん、予備のマイク――』
『デイジーちゃん! 稟君は今日選手登録してるから、ここにいないー!』
『おやおや、今年の新入部員は生きが良いな つっちー、何処にいるかわからんが、見習えよ?』
『先生……そう言う問題じゃないと思うんですけど……』

 そんな時、何処からともなくあたりに、放送部員達の声が響き渡ります
 その声が聞こえた瞬間、騒がしくしていた生徒達は、一瞬別の意味でざわめきましたが、やや暫くして静かになって行きます

『えー、皆さん、おはようございますっ!』

 そんな生徒たちの状況を知ってか知らずか……放送部員にて、ME科三年のデイジーが、気まずさを堪えるかの様に、わざと大きな声を上げます

『さて、生徒会等の唐突の思いつきで開始された今回の缶ケリ大会ですが、勿論この大会の意義があるので、ルール説明の前に我ら放送部顧問の紅薔薇先生に説明してもらいます』
『あー、今紹介に預かった紅薔薇撫子だ…… 現KN科高等部3年と大学部3年の皆は知ってると思うがな』

 その紅薔薇の言葉に、律太と雪花が不思議そうな表情をします 律太も雪花も、紅薔薇が(教職についてるとは言え)こう言う面白そうな大会は、出場していそうなイメージを持っていたからです

『まずはこの唐突に開催された、この缶ケリに参加した皆に、教師、及び生徒会、風紀委員を代表して感謝を述べさせて貰う ……特に先月入学したばかりの生徒たちには、な』

 しかし、そんな事は些細なこと、と思い、二人とも紅薔薇の言葉に耳を傾けます

『ともかく、この大会の目的なんだが、去年の夏、とある場所で見つかった、機械と金属で出来た人間が本格的に動くようになったのでな』

 その言葉の瞬間、律太やなずな等、一部の生徒の眼が見開きます ……そう、以前ある遺跡で見つけた女の子たちが、自分達と共にこの学園に通えるんだ、と言うのを理解出来たからです
 それと同時に、この大会が、その彼女たちがこの学園に通えるかどうかのテストも兼ねてるんだ、と喜びと共に理解出来ました

『さて、ルール説明となるが、基本はお前らも子供のころにやった缶ケリと同じだが、両陣営の勝利条件は、各自にわたったプリントの確認を頼む』

 そして、紅薔薇の言葉に、生徒達は皆、一様に十分前に渡された、一枚の紙切れに目を落とします
 そこには、ルールとなる以下の言葉が書かれていました

1 コレは、鬼組に選ばれた者が缶を守り、逃げ組に選ばれた者がそれを撃破する者である 缶そのものは、蹴るだけでなく、魔法による狙撃も可 しかし、それ以外の方法は不可

2 缶の置き場所は、体育館、グランド、及び校舎屋上の3以外は、鬼が自由に決めるべし しかし、一度決めたら、変更は不可とする

3 鬼組は生徒会及び風紀委員、または過去にそれに所属していた者、教職員、リトルバスターズ、そしてOBと父兄の者とする

4 制限時間は4時間である 逃げ組は一人でも4時間以上逃げ切るか、全ての缶を蹴飛ばすこと、あるいは鬼組の全員撃墜が勝利条件である

5 鬼組は逃げ組の全てを捕獲、あるいは撃墜である 捕獲の際には、前もって用意されたロープを使用すべし また、鬼組、逃げ組共に、相手の撃墜方法は問わない

6 この試合に使われる缶の総数は、10個である また、鬼組の中で缶を蹴る者は失格となり、逆さ釣りの刑に処す

7 この試合における行動範囲は、彩井学園の敷地内、及び学園指定の寮内であり、その外に出る者は失格となる また、降参する際には白旗を上げる事

『それはともかく、皆一様にある機械を貰ったと思う  ……それは相手勢力の接近を音で知らせるものだ 試合開始と同時に横にあるスイッチを押してくれ 勿論、試合中にわざとスイッチをきったら失格だ』

 そして、紅薔薇の言葉に、生徒全員試しにとそのスイッチを押してみます
 すると、その機械から、一定のリズムで音が鳴り、皆一様にその機械の意味を理解します

『と、まぁそんなこんなで、後3分後になりました ……紅薔薇先生、最後に一言お願いします』
『うむ 皆一様に今の自分の全てを出し切るように それをしなかった物は、グラウンド1000週だからな?』
『べ、紅薔薇先生らしい厳しいお言葉で…… さて、残り2分半、実況は私、放送部部長デイジーと、神界のダブルプリンセスのシア様とキキョウ様……』
『そしてマイクパスをする放送部員の通り名を与えられてしまった、桐野亜美がお送りします』
『解説は現KN科三年担任にて、放送部顧問の私、紅薔薇撫子が務めさせてもらう』

 そして、放送部にい女性達の言葉に、皆緊張とワクワクが最高潮に達して行こうとします

『さて、後5秒…… 3……2……1……』
『それでは、開始!』

 次回に続く

 あとがき
 えー、と言う訳でとーとつに始まった、全校生徒対抗(?)の缶ケリ大会です
 勿論、出場する人間の数が数だけに、とんでもないことになってるのは、事実…… 故に「俺の知ってる缶ケリと違う」と言う苦情は受け付けないので、悪しからず
 んで、最初のシーンでもわかる通り、この時期は、なずな達が進学してからちょっと立ってる為、今現在(12年7月現在)では「?」と思ってしまう部分もあるかと思います
 と言うのも、とりあえずプロローグだけ更新して、どんな印象を持つのかを、聞いてみようと思った訳です(マテ
 しかし、内容が内容だけに、本来の目的を度外視した展開になってしまいそうで、怖い……(笑)

 それはともかく、今回でSHUFFLE ESSENCE+からはデイジーが、あっちこっちからは桐野が初登場です まさか伊御を始めとした、主役陣がまだまだ出てこないとは……(笑)
 それと同時に、ライブレードからベルンストが初登場〜 魔装機神から見れば、シュウ・シラカワ的なポジションにいる変な人でしたが……

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