「いやー、皆元気にやっとりますなぁ」
「おお、葉留佳君か」

 彩井学園の鍛錬場で、二つのチームに分かれての軍団模擬戦……
 なずなや乃莉が真剣な表情で眺めていた所に、唐突に表れた能天気な声
 その方向に視線を向けると、律太達の戦いを楽しそうな表情で眺める葉瑠佳の存在が有りました

「いやー、お姉ちゃんからこの話を聞いて思わずすっ飛んで来たけど、終わって無くて良かった良かった」
「……それにしては、佳奈多君がいないようだが」
「お姉ちゃんは風紀委員のお仕事をやってるよ?」
「……そうか」

 完全にあっけらかんとした葉瑠佳の言動に、さしもの来ヶ谷もどう突っ込んでいいのか分からない、と言った表情になってしまいます

「それよりこの勝負、一体どのくらいやってるのデスか?」
「ふむ、そう言われれば、10分は経ってるな」
「それにしては、戦況が拮抗してるって印象っすねぇ〜」
「うむ……だが、気になる所があるのだが」

 目の前の状況を眺めつつ、来ヶ谷は葉留佳に説明しますが……その戦況に、思わず彼女は首を捻ります

「それって……透夜君の指示の事?」
「うむ……前衛のフェイン君と真人君もそうだが、謙吾君までもが中央に固まろうとする動きをしてるのが、気になるな」
「なるほど……」
「無論、内藤殿もそれに何らかの意図が有るのは気付いてる筈だ はてさて、どうする事やら……」

 そんな目の前の状況に、来ヶ谷はニヤリとほくそ笑みます その来ヶ谷に、葉留佳は「姉御も趣味が悪いねぇ」と思わず苦笑するのでした


 ひだまりメイドラプソディー!外伝 生徒会役員の日常! 第十一話 団体戦!(後半)


(さーて、どうしたモンか……)

 相手陣の前衛にいる三人……真人とフェイン、そして謙吾の三人の居場所を眺めつつ、律太は心の中で呟きます

(ここは炎属性よりも氷属性の広域魔法を使えばいいんだろうが……)

 透夜の使っている支援魔法――エレクトリックとサンダーブレードの二つを使ってるのを確認し、自分の右側を見ますが……
 律太陣営で氷属性の最も強い広域魔法であるブリザードを使えるマツリは、稟によって徹底的に抑え込まれています

(多分、風見はリリも十条も氷属性の魔法がそんなに得意じゃないのを考えての処置なんだろう……)

 そして心の中で、律太が舌討ちをしようとしたそんな時でした

「マナよ、我が求めに応じよ……!」
「なっ……!」

 何と、二つの補助魔法を維持している透夜が、次の魔法の詠唱に取りかかったのです!

「バカなッ! 三つも使える訳が無い!」
「あ、あ、姉御! 風見君てば、何を考えてるのー!?」
「分からん! いくら風見君の総魔力が高いとは言え……どう考えても、無茶としか言いようがない!」

 それは、見ていた来ヶ谷達も驚き以外の表情しか出来ず、
 そんな時、透夜の真ん前にいた三人の雷が、なんと透夜の方向に徐々に向かっていくのです

「小さき雷となりて、敵を打て! ライトニングブラスト!」

 透夜の詠唱の終了と共に、透夜の目の前に展開される魔法陣からは雷が現れ……その進行方向に集まって行く雷を巻き込みつつ、律太の方に真っ直ぐ進んで行きます!

「しま……ッ!」
「律太さんッ!」

 その瞬間に透夜の目的を完全に理解した律太ではありましたが、その対処法を指示する前に、その雷の直撃を受けてしまいます
 そしてそれに対する防御には、とりあえず成功した物の……そのまま後ろの方向に吹っ飛ばされて行ったのです!

「ッたた……」
「どうやら死んではいないようね……今すぐ回復するわ 十条さんは攻撃を!」
「分かりましたわ」

 その律太の元に駆け寄り、そのダメージ具合を確認しつつ、リリは治癒魔法の詠唱を開始します

「稟はそのままマツリ先輩を押しつぶして! 他の三人は後列攻め!」

 しかし、そのタイミングを見計らったのか、透夜は次の指示を出し、フェイン、真人、謙吾の三人は、それぞれの相手である瑞穂、雪花、環の三人の横を通り過ぎてリリと紫苑の元に向かいます

「くっ……!」
「駄目ですよ、後ろを向いちゃあ!」

 そんなフェイン達を紫苑と挟撃しようとした瑞穂達ではありましたが……雪花は雅の氷魔法で足元を氷漬けにされ、瑞穂は透夜に後頭部を足蹴にされ……
 環は瑞穂の頭を足場にした透夜によって、その進路を阻まれてしまいます
 そして、律太達三人に肉薄するフェイン達は……

「マナよ、爆炎となりて舞え! エクスプロージョン!」

 紫苑の魔法の直撃を受けてしまいました

「……風見君にしちゃ、今の突撃は迂闊な一手だねぇ……」
「葉留佳君、それは本気で言ってるのかね?」
「リリ!十条の防衛!上から宮沢が来るぞ!」
「え……」

 もうもうと煙る煙を眺めつつ、呟く葉留佳でしたが……律太の一言になずなや来ヶ谷と共に上空を見上げると……
 そこには紫苑の爆撃を完全に回避した謙吾が、そのまま紫苑に全力の一撃を決めようとそのまま降りてきます
 勿論、その間にはリリが割り込み、そのまま交戦となってしまいます

「さて、今ので透夜君サイドの真人君とフェイン君、律太殿サイドの瑞穂殿と雪花殿の四人が戦闘不能、と言う訳か……」
「どっちのチームも前衛役が真っ先にやられた形って訳デスか……」
「あの、律太さんはどうなんですか?」
「まずはさっきの攻撃のダメージを回復する事からさ 気絶していない以上、戦闘不能とは見なされない ……つまり、そう言う訳だ」

 目の前の状況に、なずなは膝を付いて紫苑に治癒して貰う律太を見て、なずなは少し安堵した様な、そして不満そうな不思議な表情になってしまいます

「何か不満かな?」
「い、いえっ!そんな訳では……!」
「なずな……十条先輩やリリ先輩にヤキモチですかな〜?」
「乃莉君、戦闘中だぞ とりあえず、程々にな」

 そんななずな達の状況とは裏腹に、透夜は環の剣を弾いた後、謙吾の援護に向かいます

「ちょ、風見君ってば……流石に迂闊デスよ!」
「それはどうかな? コレは団体戦だ……環殿は身動き一つできない筈……」
「あっ……キョージュさん!」

 なずなの叫びと共に、その名を出された雅は魔法陣を展開しており……それに気付いた環は、只手を上げることしか出来ませんでした

「コレで風見先輩達が押し切って終わり、ですか……」
「それはどうかな?」

 言葉と共に溜息を付くなずなでしたが……来ヶ谷は不敵な表情でなずなに笑い掛けます

「律太殿の方を見てみろ ……彼の治癒が完了している」
「あっ……!」
「透夜君からすれば、先ほどの巨大なライトニングブラストで落としたかったんだろうが……コレで分からないぞ」
「……ここまでにしよう ……引き分けだ!」

 まだまだ勝負は分からない……そんな雰囲気の中、律太は片手を前に出し、戦闘終了を宣言してしまいます
 その一言に、観客たちは信じられない、と言わんばかりの表情になってしまいます

「このまま戦っても、魔力の少なくなってるリリがやられて俺は風見と宮沢の二人をまとめて戦わなきゃならんし、マツリと土見の方も、このままやっても決着が付かんだろう」
「あっ……忘れてました……」
「なずな君、一番近くで戦ってた二人を忘れるのは、少々どうかと思うが」
「俺は風見と宮沢に勝てる自信はあるが、その直後は多分向阪と同じ運命だろうしな」
「こっちの草壁も稟の援護でほぼ魔力切れだしな こちらとしては特に異論は無い」

 律太の提案に透夜が同意したのを確認した観客たちは、この戦いの感想を口々にしながら、解散して行きました

「さて、風見……さっきのライトニングブラスト、良く思いついたな」
「ああ、あれですか」

 そして、それを見ながら透夜に声を掛けます
 そんな律太に、透夜は思わず苦笑を浮かべる様な表情になってしまいます

「単純な理論は父が作ったんですよ 使ってる補助魔法と同じ属性の攻撃魔法を使えば、その攻撃力は大きく上がる――ってね」
「成程ね」
「勿論、やり方をミスれば、自分に帰ってくる諸刃の剣だったんですけどね」
「…………」

 透夜のネタばらしに、律太は思わず呆れてしまいます

「まぁ、だが……次は負けないからな」
「こちらこそ」

 しかし、それも一瞬の事……お互いに笑い合うと、なずな達と一緒に寮に帰るのでした……

 次回に続く

 あとがき
 と言う事で、集団戦決着となりました なんと言うか、ちょっと中途半端な結果となってしまいました……
 それに本編主人公・なずなはあまり台詞が無かったし、せっかく初登場した優季は台詞すら無く……ダメじゃん(笑)
 次回外伝は、ひだまり主人公でありながら出番があまりないゆのっちで 内容は声優ネタ、Working、と言えば、大体の展開は予想出来るかと

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