夏……それは梅雨によるしつこい雨から解放される代わりに、灼熱の太陽が支配する暑い季節である
 この剣と魔法、魔物と異種族が人間と共に支配するファンタジー世界においても、その存在意義は変わらず、その住民たちに暑さから来る恵みと苦しみを与えます
 無論、我々の世界には、クーラーや扇風機と言った文明の利器と呼ばれる道具が存在しますが、この世界にはそのような便利な物は存在しません
 しかし……

「おう、ちょっと良いか?」

 そんなある日、みさととリリ、上野と柴田、そして律太の五人が、それぞれ二つのバケツを持って生徒会室に入りました

「? 先輩、どうかなされたんですか?」

 生徒会室に入るや否や、適当に散開して適当な場所にバケツを置く律太達に、ささらも他の生徒会役員たちも戸惑いの表情を見せます

「今月に入ってから、暑っ苦しくなったってのに、何時も頑張ってる生徒会役員の皆にご褒美、って所さ」

 律太の一言に、皆一様に「ご褒美?」と言いたげな表情に変わります
 そんな彼女達の表情を無視して、律太達は懐からある物を取りだします

「せ、先輩!?」

 その律太達が出した物の、ささら達の表情は一瞬にして青ざめます
 そう……彼らが出したのは、一本の針……その太さと長さは、使い方によっては暗殺に使えそうな程の物だったのです
 しかし、彼女達の不安は最高の形で裏切られます
 そう、律太達はその針を、自分が置いたバケツの中に全力で突き刺して行ったからです!

「あ、あの〜……それで、一体それは……?」

 あまりの急展開に、思わず口を開けたまま固まってしまったささらの代わりに、マツリが律太達に問いかけます

「あ? これか? ま、見ての通り氷さ」
「あ、ホントですね」

 律太の言葉で改めてバケツの中を覗くと、そこには律太達によってひび割れていた氷の姿が有りました
 そう……この世界におけるクーラー等の代わりは、氷属性の魔法にあたる、と考えて構わないのである!


 ひだまりメイドラプソディー!外伝 生徒会役員の日常! 第八話 氷!


「いや、この前マツリがゴキブリを潰す為に氷の魔法を使っただろ?」

 そもそも何で氷をわざわざ持ってきたのか、ささら達がその理由を尋ねると、マツリにとってトラウマとなってしまった数日前の出来事を語ります

「んで、逆の見方をすりゃ、適度な氷は暑さ対策になるんじゃねーのか?って思ってな」

 律太の一言にマツリは真っ青になって明後日の方向に顔を向けますが、それを無視して律太はそのまま説明し続けます

「そろそろ良いな……コップ人数分頼む」
「わかりました」

 有る程度針を突き刺すと、律太はささらと愛佳が用意したコップの中にそれを入れ始めます

「そして、これに水を入れるもよし、そのまま食べるもよし、ほったらかしにして溶けるのを眺めるもよし、って事だ」
「なるほど」
「溶けたら溶けたでまだあまりは沢山ある訳だしな」

 そして、その目の前の氷で、冗談めかして語るのでした

「さて、んじゃ、俺はコレで失礼させてもらう」
「え? 先輩は氷食べないんですか?」
「なずな達の所にもこれを持ってこうと思ってな」

 なずな達、と言う言葉に、生徒会役員達が律太が料理研究部の部室に行く、と言うのに気付いた時には、最早律太がバケツの一つを持って、生徒会室を出て行った後でした

「……先輩、もしかして……」
「多分、そうでしょうね〜」
「ご自身では、まだまだ気付いてないでしょうけど」

 しかし、生徒会役員の面々は、そんな律太に微笑ましい気分になり、ニヤニヤとした笑顔を浮かべるのでした……

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、今回、異世界ファンタジーの暑さ対策です ま、コレは基本ですな、と思ったアンタ、前に来い 俺もそう思ってるから(笑)
 まぁ、オチとしては……正式にそう言う関係になるのは、まだまだ先になる予定ですので、ご了承を〜

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