梅雨が終わり、気の重くなる雨が支配する季節から、これから眩しい太陽と蝉の声が支配する季節になろうとしていた、ある日でした
 律太は上野と柴田、そしてマツリの三人と一緒に料理研究部を訪れていました

「うん、こりゃ中々良いんじゃないか?」
「ホント? よかったぁ……」

 そして、突然現れた律太に、なずなは自分が作っていた料理を出したのですが、思ったよりも好評でなずなは安心しました

「何時も頑張ってんだな、なずなも」
「そ、そんな事無いよ〜!」
「な〜ちゃん、だから言ったでしょう? 先輩は絶対褒めてくれるって」
「ぁぅ……」

 律太に褒められて、安心したなずなは、小毬に頭を撫でられて、顔を真っ赤に染めてしまいます

「そう言えば瑠璃ちゃん、今日はどうしたんですの? 何となく想像は出来ますけど……」
「そうですね、そろそろ梅雨が終わるので……えっと、その……」

 そんななずなと小毬を微笑ましそうな表情で見守りながらも、カレハは親友に問いますが……その声を掛けられた方は、思わず口をつぐみます

「……? それより、何か変な音が聞こえない?」
「? 柴田?」

 その時、柴田が不意に真面目な表情になったその瞬間でした
 カサカサと足元から地べたを這いずる様な音が、なずな達にも僅かながらに聞こえてきたのです!
 その音が間近に聞こえた時、彼らはその方向を見ると……!
 その正体は、黒くてかった光に二本の触覚と、そして人間にはとても真似できそうにもない素早い動き……
 そう……その正体はなんと、ゴキブリだったのです!

「マナよ、我に従え……この場に氷が支配する静寂の世界を与えよ! ブリザード!!」

 その正体をくっきり理解したマツリは……そのゴキブリが逃げて行った方向に、氷属性の上級魔法を問答無用にぶっ放すのでした……!


 ひだまりメイドラプソディー!外伝 生徒会役員の日常! 第七話 ゴキブリ!


「……で? 真面目にどーすんだよ、コレ……」

 数分後、目の前の状況に律太がボソリと一言……家庭科室の壁、床、テーブル、椅子のほとんどに氷が付着しており、真夏直前だと言うのに寒い事この上ないのです
 しかもその大惨事を引き起こした張本人は、最早死滅しているであろうゴキブリ相手に怯え、親友であるカレハの胸に飛びついて、只泣きじゃくっています

「……情けない……いい加減に泣きやめよ!」

 そんなマツリに、律太はあまりにも情けなく、切ない気持で泣きたくなり、マツリをカレハから引っぺがすことにしました

「あのね……ゴキブリが得意な奴はいないの」
「好きな奴がいたら、その面拝んでみてぇよ」
「上野五月蠅い 全く……カレハは動じてないってのに……」

 そしてマツリを目の前に正座をさせ、トクトクと説教を開始する律太ですが、上野の横やりでその場の空気が締まりません
 そして説教のダシとして、カレハの名前を出したのですが……

「いや、これは……動じてる動じてないどころの話じゃあ無いな……」
「カレハ先輩すごーい」
「あらまぁ…… ほめても何も出ませんわよ?」

 彼女の普段と変わらない笑顔に、なずなは純粋に尊敬の眼差しを向けますが、それ以外の皆は少々呆れ顔になってしまいます
 しかし、カレハはそんな彼らの表情を無視して、マツリが作りだした氷の上に上がり、ある一点で数分座りこんだ後……

「はい、瑠璃ちゃん♪」
「―――――――――〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 何と、その中からゴキブリだったものを発掘し、マツリの目の前に持ってきたのです!
 勿論苦手な物を目の前に持ってこられた方は、声にならない悲鳴を上げ―――そのまま気絶してしまったのです!

 そして数分後……気絶したマツリを保健室に連れて行き、その場にあった氷を炎の魔法で溶かし、水になったそれをモップと雑巾で完全に掃除したのですが……

「だけどカレハがあんな真似するなんて、思わなかったよ……」
「ご、ごめんなさい……」

 呆れるやら感心するやら……そんな微妙な感情が入り乱れた声を上げる亜沙
 その声に、カレハは只バツが悪そうに俯くのでした

「そもそも、何でこんな真似をしたのさ」

 そして、その律太の言葉に、その場にいた皆の首が「うんうん」と縦に振られ、それに同意します

「だ、だって……泣いてる瑠璃ちゃんを見て、子供のころを思い出してしまいましたのよ?」
「……? 子供の頃?」
「えっと……実は私、小さい頃はかなりのお転婆で……」

 そんな律太達の言葉に、やや視線を外しながらカレハではありますが、その「お転婆」の一言で彼らは少々意外だと言わんばかりの表情になります
 その表情は皆一様に「カレハは絶対深窓のお嬢様だと思ってた」と言わんばかりの物なのです

「まさかとは思うけど、ガキの頃もマツリにあんな真似をしたのか?」
「え、ええ……あの時はゴキブリじゃなくて、他の虫だったのですが……」

 この時のカレハの一言、普通なら「酷い」と思うべき所ではある物の……その一言を言う存在がカレハの為、その場の皆が真っ先に思ってしまうのが「信じられない」の一言になってしまいます

「ま、まぁ、それはともかく、だ……」

 しかし、そんなグダグダな展開をなんとかしようと、律太が声を上げます

「もうあんな真似すんなよ? 真面目に心臓に悪い」
「はい、わかりましたわ」

 律太の言葉に笑顔で頷くカレハではありましたが……その場にいた皆は、その表情から「またやるんじゃないだろうな……」と言う不安にかられるのでした

 次回に続く

 あとがき
 今回はある意味夏の風物詩の一つから行かせてもらいました こんなの風物詩じゃないやい、と言われそうですが……
 今回は主にSHUFFLE・カレハが幼少の頃かなりお転婆娘だった、と言う話からですね 流石にここまではやっちゃいないとは思いますけど、ね
 しかし、マツリの扱いがなんか最悪……うたわれるものトウカっぽい扱いになっちゃってる、と言うべきか……(苦笑)

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