生徒会副会長・瑠璃・マツリの人形が壊れてから、一週間が経ちました
 その一件以来、全力で覇気を無くしたマツリに様々な憶測を呼びましたが、律太と透夜の説明で、その憶測はすぐに消え去ることとなりました

「で、どーするよ?」

 そして、ここは芙蓉家にある、稟の部屋……そこに集まった三人の男のうち、最も長身の男……律太が、一緒にいた二人の少年、透夜と稟の二人に意見を求めます

「ど、どーするもこーするも……が、学校に人形を持ってきたマツリ先輩が全部悪いって事で……」
「そー言う訳にもいかないでしょ ……間違っちゃいないけどさ〜」

 律太と稟から視線を外しつつ透夜 そんな透夜に、律太と稟は、少々情けないと思ってしまいます

「稟君、お茶持ってきましたよ〜」
「ああ、どーぞー」

 そんな時、稟の幼なじみ兼恋人の楓が、透夜や佳澄美、稟らと長年付き合いのある少女・八重桜と共に現れます 彼女達のその手にはその場にいた人数分のお茶が確認出来ます

「そーいや、向阪のやつ、大丈夫なのか?」
「……大丈夫じゃないかもな……」

 そのお茶を受け取りつつ、思い出したかの様に透夜
 透夜が出した男、向阪雄二……彼はマツリが大事にしていた人形を壊した、と言う理由で、そのマツリによって徹底的に殴られ、全身あちこちに打撲を負ったのです
 しかも、彼の姉である環が「私の親友の人形を壊したから」と言う理由で、アイアンクローを掛けられた挙句、治癒魔法を掛けて貰えず、未だ学校に来ることが出来ていないのです

「当然ですよ! マツリ先輩が大事にしていた人形を壊したんですから!」

 そして、そんな理由を知っている為に、凄く憤慨するように桜が、普段の温厚さからは信じられないように声を荒げます
 そんな桜の台詞に、律太達はいたたまれないように視線を外します

「稟君……透夜君も内藤先輩も顔を青ざめて、どうしたんですか?」
「り、稟君!? もしかして体調が悪いんですか? す、すぐさまお薬を用意します!」

 そんな律太達の心情を知らない桜は、ポカンとした表情で稟に問いかけ、楓は稟が体調を悪くしたのと勘違いして、慌ててその部屋から出ようとします

「楓、大丈夫、大丈夫だから!」
「そ、そうですか? それなら良いですが……」
「あはは……稟君の事となると、楓ちゃんはすぐ慌てますね」

 そんな楓に、稟はあわてて彼女を止め、桜はそんな二人にちょっと苦笑を浮かべます

「で、マツリの人形は真面目にどーする」
「あ、それなんですけどね」

 そして、そんなグダグダな空気の中、一人冷静な律太がその場を引きしめるように一言
 その言葉に、桜が声を上げます 


 ひだまりメイドラプソディー!外伝 生徒会役員の日常! 第六話 人形!(後変)


「マツリ、ちょっと良いか?」
「はい……」

 そして次の日の生徒会室……そこにはマツリ以外の生徒会役員達が普通に生徒会活動を行っています
 しかし、律太はそんなマツリの呆然としたリアクションを予想していたのか、ささらの方に顔を向けます

「悪いが、少しこいつを借りるぞ」
「あ、お願いします!」
「え? え?」

 律太とささらの会話についていけないマツリは、あっさりとその首根っこを掴まされ、そのまま生徒会室はおろか、校舎内から引きずり出されたのです


「あ、ここです!」

 そして数十分後、律太とマツリは、稟と透夜の二人と合流し、そして桜に商店街の一角に連れ出されました

「あ、あの〜……八重さん? ここに何が……?」

 マツリは桜に問いつつ店の中を見渡します
 そこには様々な形をした人形が棚に鎮座していました

「ここはですね、見ての通り人形を売ってる所なんですけど、修繕も行ってくれるんですよ」
「成程、知る人ぞ知る名店って事か……」

 自身の言葉に頷く桜を見ながら、透夜はその中の一つを取ってみます
 それは禍々しい姿をしており、それが呪いの儀式に関わる物である事を雄弁に語っていました

「八重さん……ありがとうございます しかし、これまでにも色々と訪ねたのですが、どこもこれを直すのは無理だと言われて……」
「フン……ワシをそこいらの三流と一緒にするなよ」

 しかし、マツリは桜の言葉に、項垂れ不安そうな表情をしますが、その言葉に奥の方からの声が答えます

「人形師のタラチさんと言う方です 頑固で偏屈物ですが、その道60年の大ベテランさんです」
「おーい、桜さーん、そりゃストレートすぎやしませんかー?」
「フン、全くだ ……それに、まだ引き受けるとは言っておらん」

 そのタラチと言う老人を紹介した桜でしたが、その辛辣な一言に透夜はその頬を引きずらせます
 しかし、タラチ老人は、その透夜の言葉に同意しつつも、その手はマツリの持ってる物をよこせと言わんばかりの物でした

「フム…荒削りではあるが……丹精を尽くされて作られてるな それに、相当可愛がってもらっていたようだな」

 タラチの言葉に、マツリは不安そうな表情をしていますが、透夜はこの老人の答えを確信したのか、その表情に思わずニヤニヤしてしまいます

「それじゃ、4千で直そう」
「え?」
「聞こえなかったのか? 修理して欲しければ、4千出して貰おうか」

 その老人の言葉に、マツリは答えに窮します 彼女の手元に人形があったのも奇跡……ここに4千もの大金がある訳がないのですから……

「4千、確認お願いする」
「え……!?」
「ん、確かに預かった ……2時間は掛るから、暫く適当に回っててくれ」

 しかし、その横から現れた影……律太の手から、それだけの金が現れます
 そんな状況にマツリは思わず動揺してしまいますが、その間にもあれよあれよと状況は流れて行ってしまいました

 そして2時間後……無事修理を終え、すっかり元通りに戻った人形を手に、マツリは上機嫌に鼻歌を歌って、今にも舞い踊りそうな雰囲気です
 そんな時、律太達の鼻に、美味しそうな匂いが漂ってきます

「さて、帰る前に何かつまんでいくか」
「ですね」
「じゃ、じゃあ、私が適当に買ってきます」

 その先に見つけた露店にマツリが向かい、僅かにあった資金の入ってる財布を取り出す為に、近くの荷台に人形を置いた彼女でしたが……

「……あのー、先輩……俺、すっごく嫌な予感がするんですが……」
「……奇遇だな、風見……俺も凄く嫌な予感がする」
「……俺もだ……」
「……私もです……」
『どいたどいた〜 荷馬車のお通りだ〜!』

 その四人が口にした不安はモロに的中しました
 何と、人形の置いた場所は、実は荷馬車であり、それが徐々に動き出し……そのまま進んで行ったのです!

『……………………』
「あ……あ―――――――!」

 そんな状況に、律太達は思わず絶句し……勿論マツリもそうだったのですが……
 その状況に気付いたのか、思わず叫び声を挙げて、その荷馬車を追いかけて行ったのです!

「まぁって――――!」
「マツリ! ……行ってしまった……」

 勿論、そんなマツリに律太達は止めようとしたのですが……飛んでも無いスピードで、いつの間にか彼女の姿は、豆粒になってしまったのです……

 そして次の日の朝、マツリは片手に人形を持って帰ってきて……精根尽きはてたかの様に、そのまま倒れた、と律太達は後にささらやカレハ、そして杏子から聞きました

「で、久寿川……マツリの様子はどうよ?」
「あ、はい……たまにうなされてはいますが、普通に寝ています」
「あんなに疲れきってさー……るーりゃんに一体何があったんだ?」

 さらに次の日、そのマツリの部屋の前で、律太は彼女のルームメイト・ささらにマツリの様子を尋ねます
 そのマツリの様子に、普段おちゃらけて、生徒会役員を始めとしたいろんな生徒を玩具にする朝霧ですが、素直に心配してる、と言わんばかりの表情になります

「あぁ、先輩、ここにいたんですか」

 そんな時、実家から学校に通う稟と桜、そして透夜の3人が現れます

「? お前ら、どうしてここに……?」
「いや、このみのやつから、街道で化け物が出る、って話を聞きましてね」
「街道……って、一昨日マツリが通った、あの街道でか?」

 律太は突然現れた3人に思わず驚きましたが、その理由に納得してしまいます
 そう、マツリはあの荷馬車を追いかけて、そのまま何十キロも追いかけて言ったのですから……

「何でも、その化け物、女の人の姿をしてて、馬より早く走って猿より身軽なんだそうです」
「しかも凄い形相をしてて神を取り乱して、地獄の底から響くような声で「おいてけ〜」って言いながら追いかけてくるそうで……」

 その律太の問いに応えながら、稟と桜 その正体がある程度予想出来てしまってるからこそ、彼らの表情は青ざめてるのだろう、と律太は想像します

「な、なんか怖いですね……」
「……久寿川先輩、それ、普通に怖がってちゃ駄目ですよ」

 怖い、と言う感情は感染するのか、青ざめた透夜達の表情に、ささらの表情も徐々に青ざめて行ってしまいます

「それって、つまり昨日朝帰りした瑠璃ちゃんに関わりがある、と言う事ですわね?」
「……朝帰りって、カレハ先輩……」

 そんな状況で、唯一青くなっていなかった女生徒、カレハの一言に、律太と稟は正解と言わんばかり頷きますが、透夜はその表現方法に少し呆れるのでした

「まぁ、信じる事は……俺達も出来ませんが……これから話すのは、多分全部真実です……」

 そして、透夜達は校舎に向いながら、マツリが先日ブッ倒れた理由を語るのでした

 一方その頃、話題に上がっているマツリは……

「ヲイデゲェェェェェェ〜……」

 その荷馬車を追いかけているのを夢に見ているのか、不気味な寝言を呟くのでした

 次回に続く

 あとがき
 さてさて、人形騒動解決変、どうだったでしょうか? 勿論、今回のタイトルも誤字では無く、わざとやっています
 私の書く瑠璃・マツリと言うキャラは、ゲーム「うたわれるもの」のドジっ娘・トウカっぽく描写していますが、登場している原作「SHUFFLE Essence+」では普通の生徒会長として(?)描写されてるので、誤解の無きよう(笑)
 次回の外伝は、夏の最も嫌な風物詩になる予定です

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