「あれ……?」

 梅雨の時期に入り、じめじめとした空気の中、たまに来る晴れの日……
 律太はその日の放課後、高等部時代の担任であった、紅薔薇撫子に鍛錬を付けてもらった帰りでした
 彼の視線の先にあるのは、校門に不安そうな表情で佇む一人の少女……律太は少女に見覚えがありました

「やっぱり菜々子ちゃん、かな?」
「あ……!」

 その少女……菜々子と呼ばれた少女は、律太の姿を確認すると、その表情は嬉しそうに輝きます

「今日はどうした? 朝霧なら、鍛錬場で紅女史にシゴかれてたが……」
「い、いえっ、その……」
「? どうした?」

 律太は、彼女――元(はじめ)菜々子が、自分の後任であった元生徒会長……まーりゃんを慕ってる事を思い出し、彼女の場所を教えますが、菜々子は言い辛そうに口をつぐみます

「えっと……友達のお母さんが、ここで先生をやってる、って聞いたんですけど……」
「……もしかして、八百屋の大将の……?」
「は、はい!」

 菜々子の言葉に、律太はやれシスターだ、やれメイドだと言ってる八百屋の男の妻を思い出し、それを聞くと、その通りだと言わんばかりに彼女は大きく頷きます

「ってことは、八尾先生か……多分まだ職員室にいると思うから、来るか?」
「は、はい! ありがとうございます!」

 そして、菜々子の言う女性が誰なのかを理解した律太は、少女達を連れて、そのまま校舎に戻るのでした


 ひだまりメイドラプソディー!外伝 生徒会役員の日常! 第四話 宿題?


「んで、何でまた八尾先生に?」
「えっと、学校の宿題なんです!」
「……? あ、あぁ〜!」

 数分後、律太は菜々子とその友達三人……若葉とスミレ、ひとみという少女達と一緒に、職員室に向かっていました
 そして、この彩井学園に来た理由を聞くと、律太は自分の子供のころにも似た事をやったかな?と言うのを思い出します

「つまり、知ってる大人の仕事を見てみよう、とか、そう言う感じの奴かな?」

 そして、その頃やっていた宿題のうちから適当に言ってみると……それがモロに当たっていたのか、少女達は大きく頷くのです

「おお、内藤……まだ帰って無かったのか」
「ああ、紅女史に殿」

 その目的地……職員室の方から、紅薔薇と笹本の二人が現れ、内藤に声を掛けます

「凄くきれーでカッコいいおねーさん達だ……」
「ゲホッ!ゲホッ!」
「……殿、大丈夫ですか?」

 その二人を見た菜々子の一言と、同意するような若葉達の首降りに、紅薔薇は只顔を真っ赤にするだけでしたが……笹本の方は、唐突な一言に、吸っていた煙草をむせて咳き込みます

「……頼む、綺麗でカッコいいもそうだが、おねーさんは止めてくれ……」
「いいじゃないですか、小さな子供に褒められてんですから」

 笹本の一言に、菜々子達は不思議そうに首を傾げますが、律太はそんな笹本の心情を理解してるのか、ニヤニヤした笑顔を浮かべます

「し、しかしなんだな……内藤、お前……年下のいたいけな少女達をかどわかして、何をしようと言うんだ?」
「人聞きの悪い事を言わんで下さい それをやってんのは朝霧のやつですよ、紅女史」

 そんな笹本対して、紅薔薇の方は、真っ赤になった顔を誤魔化すかの様に、律太をからかいます

「あぁ、そうだ……こちら八尾先生の娘さんとその友達なんですが……今日は宿題の片付けの為に来たんですよ います?」
「あぁ、成程な……今はテストの作成をしてるから、暫くは出てこない筈だ このまま進めば、職員室だから、会いに行くといい」
『はーい!』

 律太の説明に、紅薔薇は納得したように頷き、そのまま掛け出して行きました

「しっかし、お姉さんとは……なんとも気恥ずかしい物だな」
「良いんじゃないですか? 俺や雪花の時はともかく、今は風見や土見達の「お姉さん」を立派にやってるじゃないですか」
「……それは、私に教師としての威厳が無い、と言う事なのか……?」
「逆の見方をすれば、それだけ親しまれてる、と言うのも出来ますよ?」

 紅女史や殿に威厳が無かったら、大半の教師に威厳が無くなるよ〜……律太はそう言いたいのを堪え、子供たちに褒められて照れる二人の姿を楽しみます

「紅薔薇先生〜、笹本先生〜♪」
「? 八尾先生?」
「どうかなされましたか?」

 そんな時、菜々子達が会いたがっていた八尾が凄く上機嫌で現れます
 その腕の中には、彼女の娘……若葉が抱きしめられています

「娘が私の仕事姿を見たい、って言ってくれたんですよ〜♪ コレって、母親冥利に尽きますよね〜♪」

 もう心の底から嬉しいです、と言わんばかりの表情で若葉を抱き上げ、舞い踊る八尾に、律太たちは顔を見合わせ、只苦笑をするのでした

 次回に続く

 あとがき
 と言う事で、外伝もとうとう第四話ですね 今回は生徒会メンバーが出てきませんでしたが……
 今回はToHeart2シリーズから、菜々子が、そしてイチローから若葉ちゃんのお母さんが初登場! 原作で名前が出てこないキャラの難しさを実感しましたよ(笑)
 ともかく、次からは暫く本編のシリアスシーンですね 逃げてないでガンバろ……(笑)

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