「プリムラッ! 大丈夫かっ!?」
『さて、第1R終了し、両選手審判の指示に従ってリングを下りていきます…… おっと赤野選手、先程風見選手の攻撃にさらされたセコンドに近づいていきますね』

 第1R終了のゴングが鳴り、烈人は如月や雅と共に、そのまま風見透夜を代表する攻撃の直撃を貰った、魔族の少女に向かう事にしました

「いたた……」

 その魔族の少女……プリムラは、埋まった壁から出てきて、そのまま背中をさすって、烈人達に無事である事を示しますが……
 そのあからさまに無事な姿に、烈人達は思わず顔を引きつけてしまいます

「だ、大丈夫なんですかッ!?」
「大丈夫な訳ないよぉ〜! 背中思いっきりぶつけたんだからぁ!」
「いや、そーじゃなくって……」
「プリムラ殿、先程の風見殿の魔法……」

 そして、思わず怪我の状況を聞いた如月に、当然と言わんばかりの返答をしたプリムラでしたが……
 烈人は思わず問いかけた如月と顔を合わせ、雅は三人が主に聞きたいことを問いかけます

「ああ、そっちなら大丈夫…… と言いたいけど、流石は透夜だよねぇ…… これは何とか何とかって所かな?」

 その雅の言葉の意味を理解したプリムラは、心底呆れた表情で、烈人達の方からリングの奥の方…… 佳澄美や理樹たちに戦楽器魔法を貰っている透夜に視線を変更します

「赤野、多分もうわかってると思うけど……」
「? ああ、風見先輩の魔法はギリギリで回避しろって事だろ?」
「え? えぇ? どーいう事ですか?」

 そして不意に真面目な顔になり烈人の方を向いたプリムラですが、当の烈人本人はその表情の意味を理解し、そのまま頷き返します

「恐らく先程のライトニングブラストだろう? 如月殿を庇いつつ防御魔法を使ったプリムラ殿が、壁まで吹っ飛ばされたんだ……」
「つまり、風見先輩の魔法は、威力が一点に集中してるって事だ ……さっき俺の顔を掠めたけど、傷一つないだろ?」
「……ッ!」

 逆にそのプリムラの言葉の意味を理解していない如月でしたが、雅と、そしてその言葉を引き継いだ烈人の言葉に、思わず息をのんでしまいます

「どーやら赤野は、さっきの風見の魔法の意味を理解したようだな」
「え? え?」

 そしてそれを観客席で見ていた律太は、まるで烈人に敬意を示すかの様に、思わず不敵な笑顔になってしまいます

「お前ら、これからの風見の行動を見てみろ…… 一見意味のない行動でも、後々重要な意味を持つようになってくる」

 そんな律太の表情の真意を理解しかねる……友兼や野田、律だけでなく、その場にいた一年全員に、律太は語ります

「つまり、風見さんは一撃で赤野さんを撃墜する策をとる…… とみて間違いないですか?」
「……マツリか 試合は次なんだし、待合室にいるべきだろ?」
「そうなんですが、風見さんのやり口が気になるもので…… 準備はなずなさんに任せて、環さんと一緒に来てしまいました」

 しかし、その律太の言葉の返答は、彼らの後ろから…… 透夜と烈人の試合の次……第二回戦でどちらかと戦う事になる、マツリと環の二人からでした

「第2R開始します! 両選手、リングに上がってください!」

 そんな律太達の様相とは別に休憩時間は終わり…… 審判の言葉で透夜と烈人の二人は淡々とリングに上がっていきます

「赤野め…… 対風見透夜用の戦術は一応出来てはいるな ……まぁ、真鍋とプリムラから情報を貰ってんだし、当然か」

 その淡々とした烈人の姿に、律太は烈人が以前生徒会から透夜が先年出場した闘技大会のデータを和から借りたことを思い出しました
 それと同時に、セコンドにいるプリムラの姿に、以前彼女がなずな達の記憶を消した時の一件をも脳裏に浮かべてしまいます

「さぁ風見よ…… シード選手である以上、こうなることは予想済みなはずだぜ……? 赤野にどう返す……?」
「第2R、開始!」
「マナよ……踊れッ!」

 そして不敵な笑みを浮かべる律太でしたが…… それに気づいてか、気づいていないのか……透夜はまっすぐ烈人を見据え、魔法を唱えるのでした……


    ひだまりメイドラプソディー外伝 激闘!闘技大会! 第七話 フロア魔法!



「第9R開始します! 両選手、リングに上がってください!」
『なんと! なんとなんと! この展開は誰が予想していたでしょうか!? サードシードの風見透夜選手、マトモに赤野選手と勝負したのは、第1Rのみ!コレは一体どういうことだぁーッ!』
「全くもってだな 風見め……どんな手を使ってくれるか……?」

 そして試合最後半ともいうべき第9Rが開始し、その実況の言葉に律太は透夜の真意を測るような表情で透夜を眺めます

「確かにねぇ…… 風見先輩、第2Rが始まってから、サンダーフロアとかいう魔法を使って防戦一方だもん……ほんと、どーいうつもりなんだろ?」
「先輩、何かわかりますか?」
「そんなの簡単簡単! 赤野に恐れを成して混乱してるに決まってるよ!?」
「アホなこというんじゃありません 風見先輩があたし達に恐れを成す訳ないでしょ?」

 その律太に同調するように、乃莉も和も首を傾げますが、野田・友兼・律の三人は未だ烈人の勝利を疑わない発言を続け、それを奈三子に窘められます

「まぁ、風見の行動云々はともかく、まずはフロア魔法のなんたるかを説明する必要はありそうだな ……マツリ」
「はい ……フロア魔法とは、空気中に点在するマナ……つまりは生物の魔力によってその方向性が変わる物質を、ある一定の方向に変換させる魔法の事です」
「つまり、今ちょっと体全体が痺れるような感じなのが、サンダーフロアの影響って事ですか?」
「その通りです ……つまり、ヒートフロアなら場を暖める、アイスフロアなら逆に場を冷やす、と言った感じですね」

 その透夜の……試合の方向云々をまず置いておき、律太はマツリに透夜の使う魔法の説明をさせ……
 乃莉や和、奈三子はそのマツリの説明に納得したような表情になりますが、今度は透夜が何故その魔法を使っているのか、と言う疑惑の表情に変わっていきます

「だが、休み休みとはいえ、もう一時間以上使いっぱなしの状況だしなぁ……風見と赤野は勿論の事、プリムラや蘇芳達も、もう痺れている所か、痛いじゃ済まない状況だろうに……」
「じゃ、じゃああの中で赤野が動いてるのは……!」
「そう…… 気合と根性で何とか動けてる状況だ、という訳だ」
「そ、それってヤベェじゃん!」

 そして律太は顎に手を当て、透夜の行動に思案を巡らせますが、思わず口をついた言葉に、友兼達は烈人の……そしてプリムラや雅、如月の状況を今さらながらに理解させられます

「マツリ、お前は風見の戦略、どう受け止める?」
「恐らくエレクトリック…… 雷属性の補助魔法の延長線上にある、新魔法を使うかと思います」

 その律太の言葉に表情を青ざめる友兼達を無視し、律太はマツリにその私見を問いかけますが、マツリはそれを予想していたかの様に即答します

「ほう…… 前にプリムラに使ったアークサンダーじゃあない、と……?」
「はい ……アークサンダーを使うつもりだったら……」
「早くとも第5Rあたりに、と言いたい訳だな?」
「はい」

 そしてその答えに、律太は以前に透夜がプリムラに対して使った魔法を思い出しますが、その律太に対してマツリは即座に否定の言葉を投げかけます

「ま、それが一番妥当な考えだろう…… 恐らく、風見としても賭けになる状況にはなるだろうが……」
「賭け、ですか……?」

 そんなマツリの言葉に頷きますが、律太のその返しの言葉に、和は思わずオウム返しをしてしまいます

「さっきマツリが言ってた新魔法…… それは、風見が教科書から得た新魔法じゃあ無くて……」
「まさか、神族や魔族の宮廷魔術師すら使ったことのない魔法だ、って言いたいんですか!? 風見先輩を馬鹿にするつもりはありませんが、それは100%あり得ませんよ!?」
「だがな、野崎の妹よ…… 同学年最強の騎士候補生と噂に名高い男が、フロア魔法でここまで粘る真似をするんだ…… それだけレベルの高い魔法の可能性の否定はできない」

 その言葉に対する答えに、奈三子は思わず立ち上がらんばかりに声を上げてしまいますが、律太の問い返しに、只口を噤む事しかできません

「無論リスクはあるさね ……観客が痺れる程の濃度の高いレベルのフロア魔法だ…… 操作はそれだけ難しくなるし、それを操るだけの魔力量も自然と高くなる ……つまり、風見がそれをミスってぶっ倒れて負ける可能性もあるって事だ」
「じゃあ、風見先輩がそこまでする理由ってなんなの? 訳分かんないんですけど」
「まさかとは思うが、野田よ…… 風見が勝利に対して無欲だ、と言いたい訳か? 闘技大会出場者相手に、それは失礼な話と言わざるを得ないぞ……?」

 そして律太の言葉に、今度は野田の言葉がそれを遮りますが、律太はその言葉に不快感を表すように、野田を睨みつけます

『ここで第9R終了! ここにきて、未だに風見選手動かず! これは一体どうしたことだぁー!』
「考えるまでもない…… 只の一撃で赤野を落とす技を示す…… 只それだけだ」

 そこで第9R終了のゴングが鳴り…… 実況の言葉に、律太は透夜の行動が楽しみでならないような表情でひとりごちます

「あれ? そういえば最終Rが終わったら、どうなるんでしたっけ? 判定?」
「その通りだ 闘技大会主催地聖地の他に、アガルティア王国、ヨーク王国、ジグリム共和国を代表する4人の騎士に、彩井学園の校長・教頭の合計6人で勝者を決定する」

 その律太の言葉を聞いたから、と言う訳ではありませんが、乃莉が思い出したように声を上げてしまいます
 そしてその乃莉の言葉に、律太はある一点……主催者や校長教頭などがいる場所に視線をやり、言葉と共にその答えとします

「それで野崎の妹に、真鍋、乃莉、お前らが審判員だったら、この試合…… どっちを勝者と見る?」

 その視線と共に、律田はその乃莉達に問いかけ…… 三人はその唐突な問いに、思わずお互いに視線を交わします

「……私は、赤野ですね 見た感じ、風見先輩がまともに攻撃したのは、第1Rだけでしたし」
「ふむ…… 流石にちゃんと見ているな 俺も、同意見だ」

 そして、三人を代表して、と言う訳ではありませんが、和が最初に声をだし、それに乃莉も奈三子も同意するように頷きます

「最終R開始します! 両選手、リングに上がってください!」 「だからこそ次の最終R、風見がどう赤野に勝つか…… しっかり見ていろよ……?」

 その答えに満足した律太は、リングの中央部分に進む二人の選手を眺めながら、不敵な笑顔を浮かべるのでした……

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、またもや長らく更新無で申し訳ありませんでした! それと同時にモチベーション回復の曲をお教えいただいたREDさん、ありがとうございました!
 ともかく今回、透夜VS赤野の中盤戦です とりあえずはまぁ、細かい事は次回に、と言うことでー 申し訳ない
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