『東館、第一試合開始まで後10分となったので、投票券販売を締め切らせていただきます 繰り返します……』
「もう少し、か……」

 闘技大会の予選が終了し、一週間……
 本戦トーナメントの抽選も終わり、律太達だけでなくすべての本戦進出選手の相手が決まり、とうとう本戦当日となりました

「で、でも本戦になると凄い観客の入りですね……」
「なんだ乃莉、真鍋、野崎…… 臆したか?」
「い、いえ……」
「そ、そういう訳じゃないんですが……」
「虚勢を張るな 俺も高等一年の本戦の時は似たような感じだった」

 各々の試合の前に、他の選手の試合の見学に来た乃莉や和達本戦出場選手は、その超満員ともいえる観客の入りに、一時は冷やかす律太に虚勢を張る物の……
 直後に真面目な顔に戻った律太の言葉に、乃莉達は僅かながらその緊張を和らげます

「緊張するな、とは言えないが、ああなれ、とも言えない ……お前らは気をつけろよ?」
「あ、あはは……」

 そして、言葉と共に律太が、乃莉達と共に視線をやや別方向を向けると……

「初っ端から赤野の出番だぁー!」
「なずなの先輩たちには悪いけど、勝利は頂きだぁー!」
「と言うより、優勝は赤野決定ジャン!?」

 その律太達の視線の先には、第一回戦の出場選手……赤野烈人の勝利を信じて疑わない、野田、友兼、律の三人の姿がありました
 そして、そのあまりの増長っぷりに、乃莉も和も只苦笑を浮かべるしかありません

「先輩、投票券の交換を終了しました」
「ああ久寿川、ご苦労さん ……で、倍率は?」
「あ、はい…… えっと、風見さんが1.11倍、赤野さんが6.22倍でした」
「ふむ、赤野6.22か…… 井ノ原、春原撃墜と予選で去年の風見を連想させる割には、倍率が高いのは事実だな」

 そんな律太達の思考や表情に横やりを入れるように、ささらが現れて、律太に賭けのチケットを手渡します
 
『皆さん、長らくお待たせしました!? これより聖地主催の闘技大会……本戦第一回戦を始めさせてもらいます!!』
「っと、とうとう始まるか!?」

 そんな中、とうとう本戦が開始されるアナウンスが響き、その声と共に観客の歓声が一斉に沸き、それはもはや会場の中の空気が割れんばかりになってしまいます

『この場を借りて、改めてルールを確認させてもらいます…… と言ってもそれは簡単、どんな手を使ってもいいので、1R5分、合計10Rの間に相手を気絶させる、もしくは参ったと言わせることです』
「そんなことはどーでもいいから早く赤野だせぇ」
「そーだそーだ!」

 そして、改めてルールの確認を始めた実況に、野田や友兼等をはじめとした一部観客からヤジが飛んでしまいます

『兎も角、東館第一試合! 選手入場とさせてもらいましょう!!』

 そんなヤジを聞いたからこそ……という訳ではありませんが、次の実況の言葉に、観客から正に割れんばかりの歓声が響き渡ります

『まずはレッドコーナー! 今年度初出場の赤野烈人選手!』
「ふむ…… この観客数における緊張は皆無、か…… 態度だけかもしれんが……」
「流石に澪とは違いますね」
「いや、真鍋…… そりゃ秋山に失礼じゃねーか? ……気持ちはわからん訳じゃないが」

 そしてその紹介を受けた片方の選手…… 赤野は、セコンドである雅とプリムラ、そして如月の三人を引きつれて、淡々とリングに向かって歩いていきます
 その様子に、律太は感心したような笑みを浮かべるものの、和の一言に何とも微妙な表情にさせられます
『次はブルーコーナー! 正に知らない人はいないでしょう…… 去年度では予選では3人の上級生を撃破し、本戦でも一学年上の向坂環を撃破し、当時セカンドシードだった内藤律太をサードシードに叩き落とした風見透夜選手!』
「全く言葉も無いな」
「せ、先輩……」
『その実績が認められ、今年度ではなんと……なんと二度目の闘技大会挑戦でありながらサードシードと言う、22年ぶり、彼の母としても有名な今は亡き……そう、風見遥とその相棒・土見花凜以来の快挙を成し遂げています!』

 そして二人目の選手……透夜の紹介する実況の言葉に、律太は苦い顔をしますが、そのフォローの言葉に迷う和やささらをも無視して、実況は続けて絶叫を続けます

「おいおいおいおい……っ! 大会初参加選手相手にサードシードがセコンド登録数マックスの5人かよ……! 奴の惚れた女の蘇芳佳澄美が居るのは当然だとしても……」
「しかも同学年ME科の成績四席の直枝さん、五席の友兼さんですか…… 他にも学年成績10位以内の神北さんと小牧さんなんて……」
「学年首席で有名な芙蓉楓先輩がいないとはいえ…… 風見先輩、本気ですね……」

 しかし、その苦い表情も一瞬…… 透夜の後ろにいる生徒に、律太はまさに驚愕の表情を浮かべます
 それもそのはず…… その対戦相手が自身よりもあからさまに格下である事が分かっているのであろうに、正に全力以上の力を出さん勢いを感じたからです

「二度目出場でシード選手だから、試合の入りが掴めない部分もあるんだろうが…… 赤野の方は、この風見をどう受け止めるかな?」
『試合開始!』

 しかし、その驚愕も一瞬…… 律太は審判の試合開始のコールを聞きながら、不敵な笑顔で赤野を見るのでした……


   ひだまりメイドラプソディー外伝 激闘!武闘大会! 第六話 本戦開始!


『経った今3分経過を確認しましたが、お互いにラッシュラッシュ! クロスカウンターの形になっても構わずにお互い殴り合ってる! コレはどうしたことかぁ!」
「全くもってその通りだな…… 赤野はともかくとして、風見のやつ、いくらなんでも前のめり過ぎじゃねえのか……?」

 そして試合開始から三分…… お互い初っ端から相手めがけて突撃し、1Rの半分が経過して、それから30秒経っても、お互い只々殴り合うだけなのでした!

「何やってんだ赤野! どんどん殴れ!どんどん押し切れ!」
「風見先輩何するものだぜ! この調子だと赤野が勝てるな!?」
「これだとキョージュもそうだけど、リムちゃんも必要ないよね!?」
「あのねぇ、一学年とはいえ上級生が相手なんだし、そーいう訳にもいかないでしょ……?」 「乃莉の言う通りだぞ、お前ら…… あれで風見の全部の力だと思ってるのか……?」

 そんな試合内容に、赤野にゴリ押ししろと言わんばかりの声援を送る律、友兼、野田の三人に、律太や乃莉は勿論の事、和や奈三子も三人に、心底呆れた視線を送ることしかできません
 その三人がその律太達の呆れた視線に気づいて、そちらに睨もうとしたその瞬間……

『風見選手!ここで体制が崩れた! それに追撃を掛けるがごとく赤野選手!サマーソルトをキメたぁー!!』
「よっしゃあ! これで赤野で決めだぁ!」
「いや…… ここで風見の反撃が入る……」

 なんと赤野の一撃が透夜の腹部を直撃し、さらに顎に一撃を決めた直後、赤野は屈むと同時に、そのままバク転宙返り蹴り……所謂サマーソルトキックを透夜に仕掛けたのです!
 そして、律太や乃莉達に対する言い返しを忘れて、野田達は赤野の勝利を確信してガッツポーズを決めますが、その三人……
 否、そのまま宙返りを終わって透夜に追撃体制に入ろうとした赤野の目に飛び込んだものは……

「ライトニングブラスト!!」
『赤野選手大失策だ! そう……風見選手にはこれが有ったぁー!!』

 いつの間に魔法詠唱を終了したのやら…… それと同時にいつの間にその体制を整えたのか、透夜の手先には雷属性を意味する黄色い魔方陣が展開しており……
 そこから一筋に光る閃光…… ライトニングブラストの魔法が飛び出していたのです!

「マナよ、我らに雷の盾を! サンダーシールド!!」

 それに対して視を翻して、何とか回避に成功した赤野でしたが、直後にその目に映ったのは……
 そこには、赤野自身が想いを寄せる少女を突き飛ばしつつ、透夜の展開している魔方陣と同じ色……雷の魔方陣を展開しているプリムラの姿でした

「プリムラ殿!?」
「如月ちゃん!?」

 その状況に、赤野と雅は思わず叫び声を上げますが、雷の魔法の直撃を貰ったプリムラは、そのまま吹き飛ばされ、そのまま真後ろの壁に埋まってしまいます

「ここで第1R終了…… ま、風見のあの体制からの攻撃を回避できないようじゃ、本戦出場選手とは言えないねぇ」
「なんだよなんだよ!? プリムラが治癒できるからって、わざと攻撃しやがって!」
「アホか…… セコンドを攻撃してはいけない、と言うルールは無い…… それに、アレは赤野が風見の攻撃を回避した結果だ 文句なら赤野に言うんだな」
『う……』
「それに、プリムラは風見の攻撃の軌道を理解していた ……でなきゃ、あんな山口を庇うような動きは出来やしない」

 そして、それと同時に第1Rの終了を示すゴングが鳴りますが…… 野田達はその最後の内容に文句を垂れます
 しかし、律太の冷静な一言に何も言い返せずに、只口をつぐむ事しかできません

「それよりも、お前らは風見を甘く見ているが、それはどーいう事だ? まさか、赤野が本戦出場したから、優勝も簡単に出来る、って思ってないだろうな?」

 そんな野田達の態度に、更に律太が言葉を続けますが、その言葉は乃莉達が頷いてそれに同意を示します

「この際だからハッキリ言っておくが、本戦出場選手は104人…… そのうちシード選手は26人だ」

 逆に野田や友兼、律は唐突の言葉に思わず首を傾げますが、とりあえず律太の言葉を聞き続ける事にしておきます

「そう、104人のうち、優勝できるのはたった一人、そしてシード選手の権利もたったの26人だ…… その権利を得るために、闘技大会に出るやつは、それこそ血の滲む努力を怠らない」
「へっ!それを出場選手が言っちゃ世話ないぜ!」
「じゃあ友兼、お前も来年、この闘技大会に出てみるか? 少なくとも、お前さんよりも赤野……いや、山口や大道の方がその苦労を理解しているぜ?」

 しかし、律太の言葉に、友兼は信用しようとしないものの、その直後の皮肉に何も言い返すことができません

「そもそも、たった一回出場の、しかも二回戦で敗退した風見が、何故その権利入手の為に、血の滲む努力が必要なものを手に入れてるか…… お前らはわかるか?」
「ケッ! どーせ金が動いでんだろ? あの人の家、確か騎士の名門なんだろ?」
「バカね そのたった二回の試合の内容が素晴らしかったからに決まってるでしょ?」
「真鍋正解 実際そのダシに使われた俺が言うんだから、間違いない」

 そして、律太の言葉に友兼達は鼻で笑って言い返しますが、和……いや、和達のの心の底から呆れた態度に、律太は自重の笑みを浮かべつつも、その台詞に首を縦に振ります

「そもそもあんた達さ、ルールブックを一度でも読んだの? 一度でも読んだなら、そんなこと言える訳ないんだけど」
「なるほど、それなら納得だわ」

 しかし、乃莉の直後の言葉に、野田、友兼、律の三人の動きが一瞬で止まり、その態度に律太もものすごく納得したような表情になってしまいます

「勿論、ルールブックにも書かれているが、国際法18条……通称闘技大会法にこう書かれている ……闘技大会の試合中に置いて死者が出ても、その下手人は罪に問われることはない、とな」
「つまり、闘技大会に出る以上、試合中に死んでも文句言うな、って事! 試合前にもちゃんと同意書に同意することを求められてるんだから!」

 そして律太の言葉と、その後を引き継いだ乃莉の言葉に、友兼達は闘技大会に出場する意味を、いまさらながらに理解するのでした……

「もちろん、出場選手が相手を殺したくて殺す訳もない…… ここまで来た以上、セコンド登録すらしなかった奴は応援以外できない、って訳だ ……わかるな?」

 そして、律太の言葉に、友兼達は只その言葉に頷くことしかできませんでした……
 次回に続く


 あとがき

 という訳で、よーやく今年度初の更新とさせてもらいました それと同時に、闘技大会編は本格的な戦闘開始となりました
 緒戦となったのは、私のネット友達が作られたオリジナルキャラの赤野烈人対PSゲーム聖霊器ライブレード主人公・風見透夜と相成りました
 この試合がどーいう結果をもたらすのか…… まぁ、のんびり待っててください、と言わざるを得ないのが切ないです ほんと、申し訳ない……

 そして今回メインとなったのは、主にルール面ですね 古代ローマのコロッセオなんかでやってた試合に比べたら、色々甘い部分はあるとは思いますが、コレはある種騎士選抜の側面もあるのも事実な部分もあるので……
 それと、そのコロッセオと大きく違うのは、やっぱりファンタジー設定と言うべき魔法ですね 実際今回透夜も魔法を使ってますし(つか、今回律太の説明にあった死者云々の理由の一つだし
 勿論、原作付きのキャラを殺すことは無いので、ご安心を〜 いや、安心できる状況じゃあ無いのも事実なんですけど、ね(苦笑

 ともかく、次回更新までどんだけかかるかわかりませんが、お楽しみに〜(ぉぃ inserted by FC2 system