12月24日…… とうとうこの日がやってきました……
 我々の世界同様、この日はクリスマスイブであり、当然の事ながらこの世界も聖夜と呼ばれており、どこの国でも、いわゆるお祭り騒ぎとなるのです

「紹介します! この子が私の妹の平沢憂です!」
『え……』

 その騒ぎは、彩井学園の校内や、その専属寮・ひだまり壮でも同様で……
 しかし、その一部分……平沢唯が、自身の妹を部の仲間や、その親友達に、紹介したその場所では、いわば「静寂」が支配していました

「えー……っと…… 唯さん?」
「何?」

 語感にすれば、正に「ふんぬっ!」と言わんばかりに、自慢の妹を鼻息荒く紹介する唯に、彼女の親友の一人である律が代表して、口を開きます

「本当に、妹さん? お姉さんじゃなくて?」
「唯の妹なのよ ……残念な事に」
「真鍋、さすがにそれ酷い ……気持ちはわかるけど」

 そう…… その場にいた、大半の人間の気持ちを代弁するかの様な律の問いに、和がその気持ちに理解を示しつつも、それを否定します

「まぁ、なんだ…… とりあえず、夕飯の準備の前に、教会に行こう! 琴吹と秋山も準備を頼むぞ!」

 それでも、その場のほとんどの人間が硬直して動けませんでしたが…… その場の空気を換えるように、透夜は手を叩くのでした……


  ひだまりメイドラプソディー 第六十八話 クリスマス!(後編)


「お姉ちゃん、軽音部に入ってるんですか?」
「う、うん……」
「まぁ、ね」

 数分後……唯や透夜達に彩井学園敷地内にある教会へと連れてこられた憂は、なずなと律太に、これから始まることを聞かされます
 そう……午後から、透夜たち合唱部が提案した、小さいけど、クリスマスらしいイベントに、唯が部活の仲間たちと一緒に参加したことを
 そして、憂はそれをリハーサルから見学できることも……

「見た感じ、秋山と違って緊張はしてない様だが、肩の力を抜きすぎるなよ」
「はーい!」

 そんな憂達の様子とは裏腹に、唯は透夜やネリネ、澪達と共に、演奏会の準備に取り掛かっており……
 唯の表情は、普段と変わらず、そのあまりの変わりなさに、透夜は澪の正反対すぎる緊張っぷりも相まって、ついつい不安な気持ちに駆られてしまいます

「んじゃあまぁ、午後の本番に向けて、最終リハ始めるぞ! なずなやプリムラや先輩だけじゃなく、平沢の妹が見てるから、気合入れて行けよ!」
「うぅ……」
「か、風見隊長! 澪が緊張のあまり、気絶一歩手前です!」
「根性だ! 根性で何とかさせろぉー!」
「……風見、田井中、お前らノリノリだな…… つーか、風見……お前、なんだかんだで紅女史の生徒な……」
「あの、なずなさん…… いつもあんな感じなんですか?」
「……たぶん……」

 そんなこんなで、透夜がこの日の為に今までの練習の成果を発揮するための、最終練習を開始する合図をしたのですが……
 そのやり取りに、律太は呆れ、憂も何とも言い難い表情を浮かべてしまいます

「世界で一番とびっきりの夜―― 君のてのひらに届けたい――」

 しかし、いざその最終練習が始まったその瞬間でした……

――キャロルに祈り込める瞳 映し出されて眠る夜

 つい数秒前まで悪ふざけをしていた、透夜や律からはその表情が消え……
 それと同時に、緊張に支配された澪も、僅かながらそれが消え、消極的ながらもベースを弾き始めます

――お伽話とおどけて笑わないで どうぞ(どうぞ) 夜空に願いを

「お姉ちゃん……凄い……」

 それと同時に、唯からものんきな表情が消え、透夜や律と共に、真剣な、そして心から楽しそうな表情で歌い始めます

――寝静まる街(Merry Christmas) 鈴音重ねて(Holy night) 君の窓辺を目指すから 眼を閉じて

 そんな唯を、透夜が、ネリネとリコリスが、そして……軽音部の三人が支えるように、各々の楽器を奏でます

――世界で一番とびっきりの夜(Ding dong dang dong♪) 北風も星たちも追い越して

 そう……すべてはこの日、この場所で行われる、小さな、だけどみんなでクリスマスを楽しむイベントの為に頑張ってきた努力を、無駄にしないために……

――溢れだした光集めたら(Ding dong dang dong♪) 明日を変える奇跡になる

 それと同時に、唯は彩井学園に入ってから出来た友達と一緒に形にした9ヵ月間の成果を、何よりも大事にしている妹に見せるために……

――ツリーの灯りより きらめく眩しい笑顔 君に届け……!

 そして、このイベントの為に、今まで支えてきてくれた、なずなや律太たち……皆の応援に報いるために、皆最後まで精一杯力を出し切りました……

 そして数時間後……
 リハーサルを成功させ、唯が中心となり、料理研究部の一年生トリオがそのサポートを行った昼食を食べ……
 その頃には、澪の緊張も何とか解けて、いざ本番……
 観客が、2か月前の文化祭に来た学生が主軸なのも手伝い、澪を含め、皆一様にリラックスした表情で演奏を続け、その全ての演目を成功させ……

――プレゼントのリボン解いたら(Ding dong dang dong♪) 君の夢微かに輝きだす

「うーいー どう……?」
「美味しい! 美味しいよ、お姉ちゃん!」

 そしてこの半月、この時の為に頑張ってきた、最大の目的の時がやってきました
 昼食の準備と同時期に下ごしらえを始め、演奏会が終わった直後から、唯となずなが急ピッチで、だけど丁寧に作り上げた、そのクリスマスの料理は……
 唯にとって、最もほしかった言葉を引き出すことに、成功します

――世界で一番とびっきりの夜(Ding dong dang dong♪) 暖かい奇跡が始まる

「よかったね、唯ちゃん!」
「うんっ! なずなちゃん、ありがとう〜!」

 そして、その結果を、自分の事のように喜ぶなずなに、唯は彼女に抱き着きながら、感謝の言葉を述べ……
 それを優しく振りほどきながら、次の料理を持ってこようとした、その瞬間…… なずなの目に、あるものが移ります

――全ての幸せが この町に届くように

 それは……一輪の花と、それを重しにするかのようにおかれた、一枚のカード……

「これ……もしかして……」

 そのカードに書かれた、そのたった一つの文章に、それが自分にあてたクリスマスカードであることに気づきます……

――響けジングルベル……!

 そう……その場におかれたなずな草のイラストと共に、「メリークリスマス よく頑張ったな」と書かれたカードが、律太から、自身にあてたクリスマスプレゼントだという事に……

 次回に続く

 あとがき
 第六十八話 挿入歌 PC及びPSPゲーム「しろくま☆ベルスターズ」OP 「Winter bells♪」

 さて、いざクリスマス本番となったわけですが…… 某らき☆すたのアニメ最終回と、ほぼ同じ展開じゃねーか!(笑)
 いや、こればっかりは、作者である、私グラーフリッターの力量不足を、素直に認めるだけですね 本当に申し訳ない(ペコリ

 ともかく、けいおん!から、憂がようやく……よぉ―――――やく、初登場です 本来なら、学園祭で登場予定だったのですが……
 言うまでもなく、憂もこの学園に入らせる予定なので、特に出番に関しては問題ないのですが…… 問題は、伊御や榊らあっちこっち勢&スケブの青と、どう絡ませるか、ですな

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