「よ、し……もう階段は無い、な……?」
12月に入り、テストが終われば、後は楽しいクリスマスと冬休みになろうとしたその日であった……
30代後半と思しき華奢で温厚そうな男が、ある洞窟内で探し物をしていました……
「あった! アレか!?」
そして、その奥に、彼が探していた物を見つけ、その穏やかな表情を綻ばせます
その目的の物を、懐に入れた瞬間……激しい地鳴りが響き渡ります……
「成程、最後の最後でトラップが発動、と言う訳か こりゃまたうっかり……」
そんな状況だというのに、その男は、まるで自分の状況が分かって無いかのように、のんびりとした口調でぼやきます
「ううむ……こんなんだから、俺は幹夫や紅葉達にうっかり鉢兵衛と呼ばれるんだな……?」
彩井学園、現KN科高等二年、土見稟の父親の土見鉢廉(はつやす)が、ボヤきながら、上り階段まで走り抜けました……
「「はぁーっくしょい!」」
「……? おじさん、紅葉さん、大丈夫ですか?」
一方その頃……その稟が居候している芙蓉家では、その主とも言うべき楓の両親……芙蓉幹久(みきひさ)と、芙蓉紅葉夫妻が、同じタイミングでくしゃみをしていました、とさ……
ひだまりメイドラプソディー 第六十六話 クリスマス!(前編)
「リムにゃぁーん! なずなちゃぁーん! 風ちゃぁーん!」
そして、テストが無事終わり、後二週間とちょっとでクリスマスとなる、その日でした
どこぞのネコ型ロボットに助けを求めるかの如く、唯が料理研究部の部室に駆け込んできました
「……? 唯ちゃん、どーしたの?」
そんな、部室のドアを破壊せんかの如き勢いで入って来た、と言うのに、なずなは何時ものペースで対応します
「いますぐろーすとちきんのつくりかたおしえてぇー! あとけーきのつくりかたもぉー!」
「……一体、何があったの?」
涙ながらになずな達に懇願する唯に、やや引きながらも、なずなは、その理由を問いかける事に成功します
「えっとね…… 今度のクリスマスなんだけど、憂が私に会いに来るんだよぉ〜!」
「憂って、確か……唯ちゃんの妹さんだよね?」
そんななずなの言葉に、やや冷静さを取り戻したのか、唯はその理由の原因……なずなの記憶が正しければ、彼女の妹の名前を出してきます
「うん…… それでね、来た時に私の作った料理を食べてみたい、って手紙に……」
そして、その理由を全て聞いたその瞬間、なずな達一年生三人は、色々と納得してしまう表情になってしまうのでした
「……どーしよー……」
「今の私たちじゃ、ローストチキンは無理だよね、ローストチキンは」
「うむ 鉄平もローストチキンは教えてくれなかった」
「「いや、風ちゃんはその鉄平さんから料理教わってないよね!?」」
そんな唯に、なずなはつい、風とプリムラにどうしようか聞いてしまいます
無論、なずなとしては料理を教える、という行為自体に関しては問題は無いのですが……それでも、唯のお願いする料理を今まで作った事が無い故に……
一年生三人の中で、最も料理が上手な風ですら、それを作った事が無いだけに、唯の頼みを断るしか無い、と言う雰囲気にせざるを得ないのも事実だったりします
「話は聞かせてもらったッ!」
その瞬間、唯の後ろから、男の声が響きます
その場にいた皆一様に、その方向に視線を向けると……その声の正体は、この部に所属している蘇芳佳澄美の恋人、風見透夜でした
「つまり、平沢は妹の為に料理を作りたい訳だな? 要はなずな達だけでなんとかしようとしないのが、最も正しい選択な訳だ」
そしてその透夜は、唯が妹の為に頑張ろうとするその姿に、共感と、(多少の)感動を称えた笑顔で、彼女のクリスマスまでのこれからを示唆します
「暫く楓ごと佳澄美を貸してやっても良いが……」
「……『楓ごと』って…… 土見先輩に許可なく、そんな……」
「まぁ、黙って聞け」
しかし、直後の一番の親友の恋人に対する道具の様な扱いに、なずなは不平を洩らしますが、透夜はそんななずなの言葉を遮ります
「無論、佳澄美や楓自身は最早平沢に手を貸す事を決めてるのは事実だ ……だが、俺個人としてはそこに条件を加えたい…… と、そー言いたい訳だ」
「……なんと言うか、リムちゃん…… やーな予感はするんだけど、気のせいかな?」
「……透夜だもん 絶対気のせいじゃないよ ……多分、被害の8割は唯ちゃんに行くと思うけど」
そんな透夜の態度に、なずなとプリムラは色んな意味での不安を胸の内に抱きますが、透夜はそんな二人を無視して懐から有る物を取りだします
「……これ、オルゴール、ですか?」
「ああ…… ちょっと前に、稟の親父さんがある遺跡で見つけた奴でな」
それをテーブルに置き、その有る物……オルゴールの蓋を開けますが、その行動のあまりの脈絡の無さに、その場にいた皆が首をひねります
「つまり、だ…… 毎年クリスマスの時期に、この彩井学園に設置されている教会で、我らが合唱部が内外から客集めて歌を歌う、と言うことになってんだが、な」
「あ、つまり今年はこのオルゴールの曲に歌詞を付けて歌いたい、って話ですね?」
「そのとぉーりッ!」
そんな彼女たちの態度に、透夜は本題を説明し、皆一様にそれに納得します
「んで、平沢…… お前ら軽音部にゃあ、その手伝いをして貰いたい訳よ」
「え、えっと…… 手伝いって、一体何をすれば……」
「聞かなくてもわかるだろ?」
そして、唯に向き直り、彼女に料理を教える為の報酬としての、願いを語ります
「えっと、つまり、澪ちゃんにこの曲の歌詞を作って、とか、そーいう……」
「なずな正解 あと、琴吹に教会に設置されてるパイプオルガンを弾いて欲しい、って所だな」
「たのしみだね〜 ゆーちゃん、素敵な歌を作ってね〜」
そんな透夜に、唯はその手伝いの内容を問いますが、それに対する答えを理解したその瞬間、小毬が何時もの如きマイペースな態度で、次のクリスマスに思いを馳せます
その小毬のにっこり笑顔に、流石に唯も断る事が出来ず…… とりあえず、「りっちゃんに相談してみます……」と答えることしか出来ませんでした、とさ……
次回に続く
あとがき
と言う訳で、唐突に、と言うほどではありませんが、クリスマス突入です ……と言っても、その前準備の話なんですが
今回、なずなが相当図太くなってますが、その原因は当然ながら風が原因です 風みたいなのが近くにいたら、嫌でもツッコミのスキルがレベルアップしますし、ねぇ?(同意を求めるな
んで、今回、SHAFFLEから、稟の父親と楓の両親が初登場です 原作では楓の父親以外は故人となってる設定だったり…… こう言う所で、ファンタジーと言う設定は結構使える、と言うか?(マテ
ともかく、次回はクリスマス本編です さて、どーするか……