それは、とても強い炎でした
 しかし、その炎に、単純に人を殺す力は有りませんでした
 その炎は、私達の世界で、普通に使われる物と違い、黒い……否、闇色と表現するに相応しい色をしていました
 そんな炎が、プリムラと呼ばれる、一人のとても可愛らしい……しかし、強大な力を与えられし少女の身にまとわりついていました……

「これが、フィアフルフレアの…… 恐怖を呼ぶ、闇属性の炎……」

 そんな炎を目の前に、観客たちは、只呆然と眺めることしか出来ませんでした……

「……マツリ、それから神族のお姫さん達……」
「「?」」

 そんな中、この展開を予想していた律太は、静かにシアとキキョウ、そしてマツリの三人に声を掛けます

「俺たちの前に立って、レジストとホーリーだ ……リリと十条、リコリスと魔界のお姫さんは、俺と一緒にその援護!」
『?』

 唐突な律太の言葉に、シア達は首を傾げますが……

「急げよ? ……俺のカンが正しければ、風見の目的は俺たちの考えの斜め上を行くぞ!」

 律太の言葉の直後、シア達の眼には、プリムラの手から、強力な力が集まって行くのが見えました
 その直後、その小さく可愛らしい手からは信じられないくらいに、大きい岩が炎を纏い、律太達めがけて放たれたのです……


  ひだまりメイドラプソディー 第六十一話 暴走?


「せ、せ、先輩ッ! リムちゃんが、リムちゃんがっ!」
「ああ、ちゃんと見てるッ! 風見の目的はコレだッ!」

 そのプリムラからの、唐突な、そして意外な行動に、シアは慌て、律太はそれを落ち着かせようとします

「風見はプリムラの魔力を暴走させるために、わざとフィアフルフレアと言う魔法を選択したんだ!」

 そして、シアに防御魔法を使わせ、自身はその援護をしつつ、透夜の今回の行動の意味を伝えます

「そう、フィアフルフレアと言う魔法そのものに、殺傷能力は ない…… だけど、な……」
「……炎属性で有る以上、周りの酸素を燃やし、息を続けるのが難しくなる……ッ!」
「……そうだ! それだけでなく、闇属性特有の力を持って、あいつはその力を使ったんだ!」
「まさか、ホラーやゴーストライトに代表される魔法の、恐怖による幻影作用……ッ!?」
「そうだ 恐らく、プリムラはそれを見て、錯乱状態になってると考えて間違いない!」

 律太の説明に、リリはその意味を完璧に理解し、紫苑と共に、シアやマツリの背中に付いての援護体制から、律太達と共にこの勝負を見ていた、佳澄美や楓、桜の守りに移行します

「そう…… 風見はこの勝負に勝つと、プリムラの首をはねにゃあならんことを知っている…… だけど、それじゃあ、あいつ自身の持ってる力が勿体ないのも、知っている……」
「つまり、宮廷魔術師の援護を受けて、リムちゃんの力の程をお父様に教えつつ、リムちゃんを死なせない為の戦術が……?」
「……多分、この結界も、プリムラの力を外に出さない為の処置なんだろう……」

 次々と襲いかかってくる力の奔流を防ぎつつ、律太は透夜の考えを説明し続けます

「つまり、ああなったリムちゃんを抑える戦術も、しっかり用意してる、と言う訳ですか……?」
「だろうな」

 そして、律太の説明が終わったその瞬間、プリムラの身を覆っていた闇色の炎は徐々に消えて行き、代わりに雷が覆う白い霧が覆われて行きます

「バインドミスト…… いや、スリープミストにスタンショック、か? 成程、プリムラを気絶状態にすれば……ッ!」

 その霧の意味を理解したその瞬間、その中央にいる少女からの激しい攻撃は止まり……その少女、プリムラはゆっくりとその身を地面の方へと委ねて行きます

「っと、そー言えば、今更ながら、風見は大丈夫だろうな……?」

 そんなプリムラを見届けた後、律太は周りを見渡し、目的の人物を探そうとし……プリムラの近くに、倒れている一人の少年を見つけます

「……やれやれ、どーやら無茶をしすぎたようだな……」
「とりあえず、なんとか生きてはいます、よ……」

 ぼやきながらも、透夜を抱き上げようとする律太に、透夜は疲れのせいも有り、やや儚げな笑顔を浮かべながらも、憎まれ口を叩きます

「……技術無き力に、正義を語る資格無し、か……」

 そして、眠らされたプリムラが担架に担がれるのを見ながら、律太は今は亡き透夜の母……風見遥の言葉を、思わず呟いていました……

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、決着編です 次はプリムラ編におけるオチ編となり、その次からは暫くは重い展開からはサヨナラと言う訳です
 でも、恐らくはこのプリムラ編における落ちそのものは、予想出来る、と思うが……(ぁ
 

inserted by FC2 system