「……そっちはどうでした?」
「全員アウトのようだな ……プリムラも意外と用意周到な奴だ」

 プリムラが、自身に関する記憶をなずな達から奪った次の日の放課後……
 生徒会室では、律太や透夜達は、生徒会室に集まり、とある相談事を開始しようとしていました

「坂上に二木、マツリは予定通りに?」
「はい、こちらに」
「んーっ! んーっ!」
(二木、坂上、猿ぐつわは酷いっての……)

 律太の言葉に、佳奈多はご丁寧に何重ものロープで縛られ、猿ぐつわをされたマツリを引っ張り出し、そのマツリの状態に、透夜はやや閉口してしまいます

「さて、問題はプリムラ、だな」
「……ですね まさか山口や大道までもが記憶を消されてるとは……」

 しかし、律太はそんなマツリの様子を無視し、最も重要な問題である、プリムラに意識を集中します

「まぁ、あの子は魔王直属の研究チームの重要な人材らしいし…… 下手な手を打つと、なずな達の首が胴から離れる、と言う訳かい……」
「だが、それ故にプリムラの勉強不足が露呈してる結果になった訳だ」

 一歩間違えると、なずなや乃莉、唯達が魔界からプリムラを誘拐しに行くかも……と思い、律太は少々呆れる様な感心する様な、そんな表情になってしまいます

「今回は良い方向に向かったから良かった物の…… 優等生、お前、料理以外もしっかり勉強教えてやったんだろうな?」
「え、えっと…… まさかこうなるとは思わなかったので……」

 そんな律太の心の内を余所に、透夜はプリムラと同居していた楓の方を向き、少々責める様な態度になりますが……楓自身の言葉に、透夜はそれ以上言いませんでした

「まぁ、どっちにしても、こちらは遠慮をする必要は無い、って事だけど ……ネリネ、シア、昨日頼んだように……」
「はい、透夜様のご指示通りに」
「こっちも問題無いっす!」
「よし ……いくとしますか!」

 そして、ネリネとシアの方に向き直り、自身が作った策を実行に移すのでした…… 


  ひだまりメイドラプソディー 第五十九話 戦略!


「昨日ネリネちゃんから、大事な話があると聞いたけど……?」
「ええ、勿論」

 そして数十分後…… 魔王、及び神王は、ネリネとシアにより、律太達のいる生徒会室に呼ばれ、その中央にあるテーブルの上座に座ります

「しかし、やけに厳重じゃねぇか ……何を用心している?」
「それを返すようで申し訳ないですが、そちらは無防備過ぎるかと思いますよ? ……用件は分かってる筈です」

 入口を固めるように立った、佳奈多と智代、上野と柴田、そして貴明と勇二の姿を見て、神王は、最も近い場所にいる透夜と緑葉、律太に問いますが、透夜はそれを無視して返します

「リムちゃん……本当に魔界に帰さなきゃダメなんですか?」
「ああ、こちらとしてもそれがベストだと判断したからね」

 楓の言葉…… そして、佳澄美や桜、ささらの表情に、魔王は一個人としては良心が痛まない訳では無い物の、一国の王としての判断を改めて公言します

「それじゃあ、プリムラちゃんを魔界に帰す前に、俺様達と一つ、賭けを……してみませんか?」
「賭け、かね?」

 しかし、その問いの答えも、予想の範疇と言わんばかりに、透夜と緑葉は、一つの提案を提示します

「なにやら面白い事を言ってくれそうな話の様だが、それには一つ問題がある」
「勿論、そう言うのは分かってますよ ……俺も緑葉も、そこの所の抜かりはありません」

 そんな緑葉の言葉に、魔王は一つの問題点……魔王や神王にとってのメリットが見えない……と言う部分を言おうとしますが……
 それに遮られる形となって、透夜達はお互いに目を見合わせて、はっきりと言葉で、自分たちの意見を言います

「お二人が勝てば、現状維持…… プリムラを中心とした魔力技術向上の研究は続けられるし……」

 そして、言葉と共に、透夜は三人の女の子……魔王の娘と、神王の娘二人に視線を向けます

「この賭けに乗ってくれなかったら、これから一生、ま・お・う・さ・まとは、一生口を聞きませんッ!」
「この賭けに乗ってくれなかったら、ずっと、し・ん・お・う・さ・まのご飯作ってあげないんだからッ!」
「……と、言うことです」
「「待った待った待った待った待った待った待った待ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!!!!!!!!!」」
(……うわぁ…… 面白いぐらいに乗っかかってくれたわね……)
(と言うより、この二人…… 本当に魔界と神界の王なんだろうか……?)

 そして、その透夜の視線の意味を完璧に理解した直後の、ネリネとシアの一言により、魔王と神王の名を騙る親バカ二人は、全力でその場に立ちあがります
 そんな二人に、稟とキキョウの二人は、只々呆れたように溜息を付くしかありません

「き、貴様らッ! それでも神族だってーのかッ!?」
「君たちはどうやら魔族では無い様だね…… この私の恐ろしさを……」
「俺は人間です ……人間で結構です」

 そんな二人の心とは裏腹に、魔王と神王の冷静さが完璧に欠けまくってる様な支離滅裂な一言に返しつつ、透夜は一枚の紙を二人に突き付けます

「……通告…… 魔王フォーベシイ及び神王ユートシマに告ぐ…… 国際法7条違反の容疑で、聖地の役所に来ること……?」

 そして、その紙の最初の部分を読みあげると、魔王と神王の二人の表情は、今度は面白い位に真っ白になって行きます

「さて、どーします? お二人の態度を見る限りじゃ、この法の事を完璧に失念していたみたいですが?」
「ま、まさか…… これって……」

 透夜の一言に、魔王も神王も、自身の迂闊さにその身をふるわせていきます

「そう、国際法7条…… 通称人材法とも彩井法とも言われるこの法は、彩井学園に在学する生徒を、何時いかなる理由を持ってしても、他者が退学させる資格を持たない……」
「つまり、アンタらはどんな事情があるにせよ、無理矢理プリムラを退学させた、と聖地の上層部に判断された訳ですよ」
「ちなみに思い出したと思いますが、この法…… 違反したら結構厳しいどころじゃあ…… ありませんよ?」

 そして緑場と律太、そして透夜の言葉に、魔王と神王は、自身が見えない袋小路に迷い込んだ錯覚に陥ります

「……この法に違反した者は、その首を持って、その償いとすべし……」
「正解です」

 かすれた様な、上ずった声を上げる魔王に、律太は、心の底から透夜の策が図に当たった事が嬉しい様な、そんな表情になってしまいます

「それで、ですね…… 勿論そちらとしても、今この現状で、ネリネやシアに王位を譲る訳にはいかないでしょう? ……故に、今回の賭けの最大の意義があるんですよ」

 言葉と共に、透夜は魔王に、紙に書かれた文章の続きを読むように促します 

「透夜君……君は、プリムラの首を差し出せ、と言いたいのか……ッ?」
「それを決めるのは、お二人であって、俺ではありませんよ……? それが最もベストと判断したら、そうしてください、と言う話なんですから」

 その瞬間、魔王の表情はさらに白くなり、何も知らない人間が見たら、彼の体調を心配したくなるほどの物になってしまいます

「そう、そこにも書かれてある通り、聖地上層部が、その特定生徒を退学させても問題無い、と判断されるだけの実力を見せろ、と言うのが、俺達が提示しようとする賭けの内容です」
「勿論、そちらがプリムラを退学させてまで、自身の研究を進めようとするんだから…… プリムラにそれだけの実力がある、と判断したんですよね?」
「無論、そちらが言った通り、プリムラちゃんが負けたらどうなるか…… わかってますよね?」

 言葉と共に、その場にいたKN科の生徒が、各々の獲物を取り上げます
 その瞬間、魔王は律太や透夜達の意図を完璧に察してしまいます
 律太達は、プリムラを徹底的に痛めつけ、彼女の実力の程を自身たちに教え込もうとしているのだと……
 そして、プリムラが彼らに勝たなければ、自身たちの命運がそこで終わってしまう事を、実感するのでした……

 次回に続く

 あとがき
 時間が無いので、後ほどー(ぁ

inserted by FC2 system