「あの風見先輩と土見先輩からの話……か 如月、なずな、奏、なんか心当たりある?」

 日曜日の朝、透夜と稟から大事な話がある、と言われて喫茶店ハチポチに向うなずな達……
 その道すがら、奈三子はその問いに対するなずな達の態度に、思わず不安な表情になってしまいます

「もしかしたら」
「? マサ、心当たりあるの?」
「いや、確証がある訳ではないが、土見殿が私となずな殿に聞いて欲しい話がある、と言う以上は、間違って無いだろう」

 とりあえず、ハチポチに行けば分かるだろう そう言いたげな雅の発言に、奈三子も……その場にいた他の皆もその足を速める事にします
 その場にいたのは、先日透夜と稟から直接頼まれた三人と、乃莉と雅……そして律太と奈三子の四人がいました
 なずなは他に、和と澪も誘おうと思いましたが、それぞれ生徒会と部活と言う理由で断られてしまいました

「しかし、秋山はしょうがないとして、真鍋は……生徒会の仕事なんざ、久寿川やマツリに変わってもらえば良い物を……!」
「り、律太さん!だめだよう!そんな事言っちゃ!」
「そうか? 俺なんざ高等の時は、よく上野や雪花に変わって貰ってたけどな」
「その変わって貰った時に、先輩は何をやってたんですか、何を!それ以前に、一年が三年に仕事を変わって貰っちゃ駄目でしょう!」
(と言うより、こんな人が元生徒会長なんですね……)

 律太の言動に、なずな達は只溜息を吐くしか出来ませんでした

 そして喫茶ハチポチ……
 その中に入って行ったなずな達が最初に確認したのは、透夜と稟の姿
 その姿を確認すると、そこにはネリネとシア、そしてシアに似た魔族風の女の子と、ネリネと双子と思しき女の子
 そして、彼らの中で、最も目を引いたのは――ツインテールの魔族の女の子
 その魔族の女の子は後ろ姿しか見えない物の、なずなにはとても可愛らしい印象を受けました

「やはり、プリムラ殿の話ですか?」
「お、来たか 早かったな」
「あ、雅〜!」

 雅の言葉に振り向いたその少女――雅が言うには、プリムラと言う名の少女が振り向くと、その後ろ姿から受けた印象と違わない、可愛らしい印象をなずなは受けます

「キョージュさん、お知り合いですか?」
「ああ、二学期から私のクラスに入った、プリムラ殿だ」
「? キョージュ?」
「私の愛称だ、プリムラ殿」
「へぇ、先生って事?」
「いや、別の漢字の方だ ……詳しい事は後ほど教えよう」

 プリムラの事で、話があるのでしょう? そう言いたげな雅の視線に、透夜と稟ははっきりとした表情で頷くのでした


  ひだまりメイドラプソディー 第四十五話 魔導生命体!


「そうだな……前に魔導生命体の話をしたのを、覚えてるか?」
「遺跡の時に風見先輩が言ってた――」

 なずな達が席に着いたのを確認した透夜達は、みいこに簡単に色々注文した後、なずな達に真剣な口調で声を上げます
 その透夜の言葉に、なずなは少し前に透夜が言っていた一言――「魔導生命体」と言う言葉を思い出していました

「その魔導生命体の二人が――こっちのリコリスと、そっちのプリムラって奴だ」
「……ッ!」

 透夜が、ネリネに似た女の子と、プリムラと呼ばれた少女を指さしながら出した声に、その表情を最も変化させたのは、普段無表情の雅であった

「まさか……風見殿!ご冗談は……」
「魔王のオッサンを呼んで、聞いてみると良い 俺たちよりもしっかりとした答えが返ってくるだろうよ」

 そして、思わず席から立ち上がり、雅は声を荒げてしまいますが……透夜の返しに、信じられないと言わんばかりの表情のまま、そのまま席に戻ります

「だけど、プリムラ殿もそうですが……そちらのリコリス殿も、どうしても普通の魔族にしか見えない……」
「ま、そーだろーな」

 なずな達の困惑した表情に相対して、透夜の表情はストローをくわえたまま喋ると言う、ややいい加減な態度でした
 しかし、その表情に対して、その瞳はとても真剣な物で、まずなんであれ彼の言葉を聞くことにしました

「まず目的としては、魔法の進化なんだけど、その最初のアプローチとしては元々魔力の高い奴をもう一人作っちまおう、って考えだったんだ」

 言葉と共に、透夜の視線はネリネの方に向います
 その視線に、なずなは依然、ネリネが大量の男子生徒を魔法で吹っ飛ばすシーンを思い出してしまいました

「だが、結果としちゃ、必要とする魔力にはまだまだ遠いって話でな」
「そして、次に一から作っちゃおう、って話になったらしくて……」

 透夜の言葉を継いだ稟でしたが、その言葉が最後まで出す必要はありませんでした

「まぁ、話は分かったが……何でわざわざ俺らに話す? 只単にプリムラの魔力の高さを自慢したい訳じゃあるまい?」
「勿論ですよ ……まあ、俺から言わせれば、魔力が高いだけでってのは、何ら自慢になりゃしませんがね」

 律太の言葉に、透夜はその通りと言わんばかりに頷きます

「ま、プリムラの魔力が膨大な量になったのは良いんだけど……逆に制御するのがとてつもなく難しくってね……」
「読めたぞ つまりは、プリムラが上手く魔法を使えるように、なずな達に手伝ってくれ、って訳だな?」
「流石はかの内藤先輩……話が早くて助かります」
「褒めて貰って嬉しいのは事実だが……誰も引き受ける、とは言っちゃいないぜ?」

 律太の言葉に、透夜も稟も安心した様な表情になりますが……その律太の視線は、なずな達の方に向います

「ま、いーんじゃないの? さっき風見先輩が言ってた、魔力が高いだけで〜、って意味は、下手すると魔力が暴走するかも、ってことでしょ?」

 それってつまり強制的に手伝えって事じゃん……そう言いたげに奈三子はため息交じりに引き受けることを表明します

「あ、あの……参考までに聞きますけど、プリムラさんの魔力が暴走したら……」
「ん? 聖地と言う国が地図上から消えるって話だぞ」

 如月の問いに対する、透夜のこともなげな一言に、なずなや奏の表情は一瞬で真っ青になってしまいます

「……引き受ける事にゃあ問題無いが……俺らに何が出来るってのさ…… いや、真面目な話……」
「まぁ、普通に仲良くするだけでも問題無いですよ? 俺も透夜もそうしてますし」

 背中に冷や汗を流しながら呟く律太に、稟は軽い調子で答えます
 なずな達は、その答えにちょっとだけ安堵しました 壮大な話ではある物の、とりあえず気楽に行った方が良いと言うのを、理解したからです――


「で、真面目な話、大丈夫なのか?」
「? 何が?」

 その後、適当に飲み食いした後にハチポチを出た透夜達でしたが、目の前のプリムラ達を眺めながら稟が透夜に聞きます

「プリムラの事さ あっさりぶっちゃけて問題とかあったら……」
「あのオッサンの考えてることなんざ、俺にゃ知らん 自分の家じゃなくて、楓の家に最重要機密を住まわせといて、誰にも喋るな、ってのは虫が良い話じゃねーの?」

 稟の不安そうな言葉に、透夜はあっさりした答えを返します その言葉に、ネリネは少しだけ申し訳なさそうな表情になってしまいます

「こんな状況だ 変にあーだこーだ考えても仕方あるまいよ いざ最悪の状態になっても、悪いのは全部魔王のオッサンだ」
「うわぁ……」

 透夜の言葉に、その場にいた、最も真っ当な神経を持つシアの妹・キキョウは、思わずその軽い調子に呻いてしまいます

「確かにリムちゃんを生み出すように命じたのはお父様ですが……だからと言って、その責任の全てをお父様だけにするのは……」
「……技術無き力に、正義を求める事無かれ……さ」

 ネリネはそんな態度に流石に文句を言い始めますが、透夜のその一言に、ネリネは口をつぐむしか方法はありませんでした
 技術無き力に、正義を求める事無かれ……その言葉は、今は亡き透夜の母・風見遥(はるか)の言葉だと言うのを、稟は即座に思い出しました
 そして、同時に理解します プリムラ程の高度の魔力を、上手く使いこなせないまま生み出すように命じた魔王に、透夜は多少の不満はあるのだろう、と

「ま、俺だって、プリムラを暴走させたくないんだ 責任があるかどうかはともかくな……」

 俺だってまだ死にたくないしな……そう言わんばかりの表情は、稟にはプリムラに対する慈愛も見えたような気がしました――

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、今回で真面目シーンは終了です 次回からは学園祭直前までほのぼのとなる予定です
 今回の新キャラはSHUFFLEからリコリスとプリムラ、そしてキキョウとなったのですが……予定よりキキョウの出番が無いよ!(笑)
 ちなみに原作ではリコリスは名前だけキャラだったのですが……個人的にこいつも出したい、って事で出して見ました

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