それは、さながら嵐が通りすぎるような有様でした
 なずな達のクラス・ME科一年に入ってきた三人の少女は、放課後に入るとたちまちクラスの少女達に囲まれて、質問攻めにあったのです
 三人のうち、風以外の二人――ケイトとマリの喋り方に違和感を覚えた一人の生徒が、それを聞くと――

「はーい! ケイトは子供のころから、神界で暮らしてました! こっちに帰るのは、実に13年ぶりでーす!」

 と軽い口調で応えてくれました
 そう言えば、となずなは思い出します
 この世界とは別の世界――魔界と神界、その二つは、この世界と言語が違う、と言うのを子供の頃、学校で習ったのを
 そして、基本的には、言いたい事を、魔法で相手が最も詳しい言語で翻訳して伝えるのだと言う事を

(きっと、ケイトもマリもこっちの言葉を一生懸命覚えたんだろうな……)

 その口調から、どう見ても翻訳魔法を使って無いのを理解したなずなは、凄く嬉しい気持ちになりました

「なずなちゃん、如月ちゃん、今、良いですか?」

 そして、その嵐が通りすぎた教室で、帰る用意をしていたなずなと如月に話しかける生徒が一人
 それは彼女と同じクラスの奏で、その傍には転校生の一人、風が無表情で立っていました

「どうかしたんですか?」

 不思議そうな顔をする如月とは対照的に、なずなは奏の用事が何なのかを即座に理解しました
 それと同時に、不安、恐怖……そう言うマイナスの感情が、なずなの胸の内から湧き出すのを感じます
 それは以前交わした奏との約束――風の過去がどうであれ、彼女と仲良くする、と言う物――
 勿論、なずなにその約束を違えるつもりはありません しかし――
 風の過去がどんな物なのか……それを聞いて尚、彼女と仲良くなれるのか……なずなは、そんな気持ちが、自身の胸をよぎるのを、止めることが出来ないでいました――


  ひだまりメイドラプソディー 第四十四話 暗殺者!


「暗殺者?」
「はい……風ちゃんは昔、闇の組織に、暗殺者としての教育を受けてきたんです」

 彩井学園の食堂まで、奏に付き合うことになったなずなと如月は、奏から風の過去を聞かされました
 それは、風が聖地を始めとした、各国の転覆を計ろうとする闇の組織に育てられた暗殺者だと言う事を
 そして、聖地の騎士団によってそれを半壊の状態に追い込んだ後に、風だけが「暗殺者としての教育を受けただけ」と言う理由で、奏が育った孤児院に引き取られたと言うのです

「でも……風ちゃんが暗殺者だなんて、とても信じられません……」
「うん、私も……」

 しかし、なずなと如月は、とうてい風がそんな教育を受けた、と言う感じには見えませんでした
 その無表情な顔が少し気になる物の、それでも風が何処にでもいる女の子にしか見えなかったからです

「えっと……風ちゃん、赤ちゃんはどうやって出来るか、知ってますか?」
「赤ちゃんはコウノトリが運んでくるんだぞ 鉄平は違うと言うが、正確な答えを教えてくれないから、間違ってるのは鉄平だろう?」

 おーまいがー! 少しだけ赤くなった、奏のその質問に対する風のしれっとした答えに、なずなと如月の表情は、一瞬でそう言いたそうな物に変わってしまいます

「成程……風ちゃんは、暗殺者としての教育を受け過ぎて、普通に生活することに関して、知らない事が多いんですね?」
「はいなのですよー……」

 風の答えに納得する如月でしたが、なずなもそう言えば、と思い当たる部分を思い出しました
 それは、遺跡における救助をした数日後、風が軽いフットワークでKN科の生徒である雄二を、あっさり吹っ飛ばしたシーンを
 よくよく考えれば、アレも暗殺術の一種なのか――?となずなは思わず納得してしまいました

「あ、でも――」
「なずなちゃん、どうかしましたか?」

 風の過去がどんなのかは、なずなは理解しました
 それでも――と彼女は思います
 自身がよぎった一つの疑問……それを聞かねば、到底風と仲良くは出来ない……そう思ったなずなは、思わず口を開きました

「何で私と如月ちゃんなの? 奏ちゃんなら、同じ部屋の由佳里ちゃんに真っ先に話した方が、良いんじゃあ……」
「奏も、最初はそう思ったのですよ」

 そうすると、奏は思ったよりもすぐに、その答えを返しました
 そしてその声と視線は、なずなが吃驚するほど真っ直ぐで、純粋な物でした

「それでも奏は、風ちゃんと同じクラスで、一番信じられる……なずなちゃんと如月ちゃんに、風ちゃんと一番仲良くなって欲しかったのですよ〜」
「奏ちゃん……!」

 なずなは、奏の一言に、心に重く、そして激しく響きました
 しかし、その重さは苦しく辛い物では無く、むしろ心地よく、それでいて嬉しい物でした
 それと同時に、自分がここまで奏に信頼されてるのか、と言う事実も、心に強く実感していたのでした――

 ともかく、奏から風の過去を聞いたなずなと如月は、三人で仲良く寮に帰ろうとしましたが……

「ああ、ちょうどいい所にいた」
「? 土見先輩に風見先輩?」

 校門の所で、三人は自分達を探していたらしい稟と透夜の二人に話しかけられました

「どうかしたんですか?」
「ああ、ちぃと聞いて欲しい話が有ってな」
「次の日曜、9時半に大道と、乃莉って言うお前の相方と一緒に、ハチポチに来てくれないか?」
「乃莉ちゃんやキョージュさんと?」
「ああ、それと……最も信用できる奴、二人程連れて来てくれ」

 要領を得ない透夜と稟の言葉に、思わず首を傾げる三人でしたが……
 その真剣な表情に、思わず「はい」と答えることしか出来ませんでした

 次回に続く

 あとがき
 今回は風の過去編となった訳ですが……原作「ふーすてっぷ」だと、風の過去って結構軽い感じで語られてる為、こっちでは比較的真面目な話として扱いました
 そして次回、SHUFFLEがメインになります そしてもしかしたら、みいこさんも再登場かも……(笑)

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