「こーのーみーちゃーん! あっそぼー!」
「あー! 唯となずなだー! うんッ!遊ぼー!」

 夏休みも後半に差し掛かり、それと同時に夏もこの年の最高気温の記録をぐんぐん伸ばして行くある日、なずなは唯とチエ、ミチルと共に、このみの家に遊びに行きました

「今日は部活無いの〜?」
「そーなんだよぉ〜 ムギちゃんのお茶を飲めないのは残念だけど、たまにはそんな日が有ってもいいよね〜」
「ちょっと良いかい?」

 これから楽しい時間が始まる……そんな時、後ろから男の声が響きます

「このみ、お隣さん、今日は大丈夫か?」

 無論、なずなやこのみ達をさらう怪しい男……ではなく、このみの家の隣に住んでいる彼女の恋人・貴明に用事のあった、透夜や稟達でした

「どうしたんですか〜?」
「いや何……夏休みの宿題の答え合わせをしようと思ってな」

 稟のその一言で、唯とこのみの顔色が面白い位に真っ青になって行きました

「……このみ、唯、どうした?」
「まさか、二人とも……!」

 チエとミチルは、そんな二人の態度に首を傾げますが、徐々にその意味が理解の色を示して行きます

「「宿題忘れてたぁ―――――――――――――――!!!」」

 そして、雲一つない、と言う表現すら出来る青空の下……唯とこのみの叫び声が響き渡りました――――――――


   ひだまりメイドラプソディー 第四十一話 宿題!


「まだ時間がある……まだ時間がある……まだ時間がある……」
「新学期になったら、なっちゃんとデート……なっちゃんと楽しいデートだ……」
「なんだコレ」

 唯とこのみが、夏休みの宿題を忘れたのに気付いた1時間後……その片付けをする為に、ひだまり荘の食堂で彼女の友達が集まりましたが……
 この場所にいた先客――神界のプリンセス・シアと、その親友の一人で、赤と青のオッドアイが特徴的な、TH科二年・麻弓・タイムの二人が、テーブルに突っ伏して魂を吐きだしていました

「おいネリネ、楓、コレは何が起きた」
「さ、さぁ……」

 この状況を見た一行を代表して、稟がその近くにいた、自身の恋人の楓と、その友達にて魔界のプリンセス・ネリネに聞きましたが、彼女達は苦笑を浮かべて言葉を濁すだけでした

「まぁ、どーせ麻弓の事だ……宿題の片付けを忘れた、とかそんな感じだろーけど?」
「み、宮沢君!何で分かったの!?」
「……図星かよ……」

 謙吾の一言で、図星をつかれた麻弓は、ガバッと体を起こし、驚きの表情になります

「稟君達は宿題終わったの〜?」
「後一息って所だな……後は答え合わせと、分からん所を一緒にやってくだけだ」
「答えが分からん、って言いだす奴の6割は、確実に真人とフェインと雄二なんだけどな」

 麻弓と相対して、未だにグデ〜ッ……っとなってるシアは、うらやむような視線を稟達に向けますが、彼らはその視線を丁重に無視して行きます

「そんじゃ、俺達はまずは言語学からだ」

 透夜はその宣言をしつつ、隣にいる稟のノートを開きますが、その視線が暫く一点に集中した後……問答無用に稟の胸倉を掴み、厳しい表情を彼に向けます

「な、なんだよ……?」
「なんだ……?なんだとはこっちのセリフだ! このスカポンタン!!」
「透夜様!? いくら透夜様でも、稟様に対する侮辱は……」
「この問題の答えを見ても、ネリネはさっきと同じセリフを吐けるのか!?」

 透夜の言葉にキレて、彼に攻撃魔法をぶつけようとするネリネでしたが、その機先を制して、透夜は自分が見ていた部分を、ネリネの目の前に叩きつけます

「え、えぇっと……問題……「どんより」と言う言葉を使って、一文を作れ……?」
「あ、あの……稟君? この答えは、流石にマズいと思うんですけど……?」
「か、楓……その可愛そうな人を見るような眼だけは止めてくれ……」

 その透夜の気迫に押されたネリネと楓、そしてその二人に対する稟の答えが気になったなずなは、楓の後ろからその答えを見ることにしました

「えっと……うどんより、ソバが好き……?」

 その答えとして稟が上げた一文を、なずなが読み上げると……その場にあった空気が、非常に微妙な物に代わって行きます

「コレが真人の答えだったら、まだ救いようが有ったんだ……そう、真人の答えだったら……! だけどさぁッ……!」
「じゃ、じゃあ、透夜君! 私のこの答えは……?」

 そんな微妙な空気の中、テーブルに手をついて、親友のおバカっぷりに心の中で号泣しているような透夜の態度に、今度はシアが自分のノートを、透夜に手渡します

「どれどれ……」

 そして透夜がそのノートを見ると……ピシッ!と言う音と共に、透夜が石化します

「……カツ丼より、ウナギ丼が、好き……?」
「……シアァ〜……」

 透夜の代わりに、その一文を読んだなずなの一言に、透夜のセリフに泣きが入ります

「俺もさ? 自分がそんなに成績が良い方じゃ無い、ってのは分かってるけどさ?……コレは酷いとしか言いようが無いぞ……」

 透夜の涙ながらの言葉に、なずなは首を全力で縦に振り、それに同意します

「全く……一年共の方は、転入生が入ってくるってのに……そいつにいきなり夏休みの宿題を忘れました、って姿を見せるのは、格好が付かないんじゃないのか?」

 謙吾の一言に、唯とこのみは、ピタッとその体を停止させます 無論、新学期に入った後の展開がリアルに想像できたからです

((もしかして、夏休み遊び呆けて宿題忘れる大馬鹿野郎、って思われるッ!?))

 唯とこのみは、先ほど楓が稟に向けた視線を思い出し、いそいそと宿題の片づけを始めることにしました

「あ、あの……宮沢先輩? 何で風ちゃんの事、知ってるんですか?」
「透夜に聞いた 噂によると、例の連中の一部も、いずれは転入するらしいぞ」

 謙吾の言葉の一つに、気になる事があったなずなはそれを聞いてみますが、勇気を持って聞いた以上の答えが返ってきました
 そう、数日前に、とある遺跡で見つけた数人の女の子……もしかしたら、早いうちに彼女たちとお喋り出来るかも……!そう言う期待が、胸に湧いて出てきたからです

「唯ちゃん! このみちゃん!」
「「?」」

 その気持ちが、彼女の心を突き動かします なずなは考えるよりも先に、唯とこのみに声を掛けます

「私もそんなに頭良い方じゃないけど……一生懸命手伝うから……! 頑張って一緒に、宿題終わらせよ?」
「なずな……!」
「なずなちゃん……!」
「ね?」

 なずなの真剣な、そしてその中にあった優しい瞳に、唯とこのみは、目をそらす事が出来ませんでした

「うーわー……なんか、今まで色々ゴネてた自分がめっちゃ恥ずかしい……」
「事実恥ずかしいな ……真人の筋肉脳みそ並に」
「ムキぃ―――! 宮沢君の、その余裕綽々の発言が無茶苦茶腹立つ〜!!! しかも井ノ原君の知識レベルと同じぐらいってすっごく羞恥プレイなのですよぉ〜!」

 そんななずなを、麻弓は数秒間穴をあくかのようにじっと見つめてましたが、謙吾の一言に暴れ始めます

「なぁ、透夜……麻弓の知識レベルって、真人よりも下なんじゃあ……紅女史の補修を受けるって事は……」
「言うな……」
「あ、あの〜……とりあえず、真弓さんを止めませんか? このままだと、宿題が出来ませんし……」

 透夜と稟は、麻弓のセリフに少々疑問の残る所が有りましたが……ネリネの一言で、宿題を片付ける事を優先するのでした


「ん〜〜〜っ! 終わったぁ〜〜!」

 そして数時間後……なずな達の手助けも有り、唯とこのみは宿題が全部……とまでは行かなかったものの、順調に行けば夏休み中にすべて終わる位には片付きました

「こ、これでなっちゃんとのデートは回避出来たのですよ……」
「そ、そうだね……撫子先生の補修……厳しいもんね……」

 宿題を忘れていた上級生二人……麻弓とシアも、心身ともに疲れたのか、そのままテーブルに突っ伏します

「はい、みんな コレをどうぞ」

 そのタイミングを見計らっていたのか、杏子がこの場にいたみんなにジュースを渡します

「あ、ありがとうございます」
「いえいえ♪」

 そのジュースに群がって行くこのみ達の代わりに、透夜が杏子に頭を下げます

「どうやらみんな、無事に二学期を迎えられそうね?」
「ええ、お陰さまで」
「ね、ねぇ……」

 皆無事に二学期を迎えれる……その安心感からなのか、麻弓が口を開きます

「このジュースで……私の胸、大きくなんないかな……?」
「人が微笑ましい気分の時になんてこと抜かすんだ、この洗濯板!!」
「ムキぃ――! 人が気にしてる事を〜〜〜!」
「だからって言って良い時と悪い時が有るだろがぁ!!」

 麻弓の一言に、真っ先に透夜がキレて……喧嘩をし始めた二人に、なずな達は……

「台無しだ……」

 そう思わずにはいられませんでした

 次回に続く

 あとがき
 今回は長期休暇のお約束編でした 私は今回の唯やこのみと同じタイプでしたねぇ〜(苦笑)
 今回はSHUFFLEから、悪友系貧乳ヒロイン、麻弓が初登場となりました 原作ではヒロインの中で、唯一赤点を取ると言う暴挙に出た程の成績の悪さ……それがこのSSにも反映されています(笑)
 長くにわたった夏休みも、次で終了……かと思います 次も勿論、新キャラが出てきますよ〜 私個人、この新キャラは想定外でしたが、出したくなったので……

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