遺跡による落盤事故から二日……透夜や亜沙によって、早速聖地の上層部や、魔族の王・フォーベシィに、この遺跡の地下に有った財宝の話が報告されました

「成程……確かにコレは、リコリスやプリムラに通ずるものがあるかもしれないね」

 透夜の道案内で現場に到着し、少女たちを調べて、驚いた声を挙げる魔族の美丈夫こそ、その魔族の王・フォーベシィです

「それで、大丈夫なんですか?」

 恐る恐る、と言った感じで、透夜が魔王に問いかけます
 先日、なずな達の前で大見え切ったは良い物の、あの後もし動かずに終わってしまいました、と言うオチが脳裏に浮かんだからです

「人間で言う所の体力にあたる部分は、周囲に浮いてるマナを吸収して動くみたいだから、大丈夫だよ?」

 しかし、その透夜の声に応えたのは、他の女の子を調べていた亜麻でした
 普段の可愛らしいオーバーオールの上に白衣を着ているものの、その表情は、やはり彼女の娘よりも年下に見える……と透夜はついつい思ってしまいます

「後は、どうやって彼女達を起こすか……その一言に尽きるね コレは神(しん)ちゃんやベルンスト殿、それにアガルティアのセリカ姫と相談すべき事だろう」
「呼んだか? まー坊」

 真剣な表情をしながら透夜に応える魔王でしたが……その魔王の近くの空気が歪み、そこから服の上からでも理解できるほど逞しい筋肉の持ち主である大男が現れます
 彼は魔王フォーシベイの幼なじみであると同時に、魔王の妹の夫とも言うべき男で、神族の長でもある神王ユーストマと言う男です

「神ちゃん、いきなり現れたら、普通の人は吃驚すると思うよ?」
「わりぃわりぃ!コレでも急いでたんだ! 許してくれよ、透夜殿!」
「いや、俺は慣れてますから……力いっぱい背中叩かないで下さいよ」
「お二人とも……話が進ませていいですか?」
「あ、セリカも来てたんだ」

 神王が現れて、妙にほのぼの空間になりつつあった物の、神王の後ろから現れた一人の女の子によって、空気が少し引き締まります
 彼女は、聖地の東にある大国・アガルティア王国のお姫様・セリカ・ラニアード・メスティナと言い、現在は透夜達と共に、彩井高校のME科に通っています
 ちなみに、今回彼女がここに来た理由は、彼女が古代遺産や遺跡の話に造詣が深く、暇さえあれば、来ヶ谷や西園達に話を聞いていたりします

「それで!? 透夜達が見つけた、って言う機械は何処!?」
「あぁ、あそこに並んでるよ 変にいじって壊すなよ……?」
「透夜はこのセリカ様を誰だと思ってるのかしら? 誰よりもこの手の物を愛する女の子なのですよ?」

 だったらTH科に入学すれよ、と透夜は思いますが、彼女の父親の過保護っぷりを見ていない訳でも無いので、口には出しませんでした

「それよりも……例の文章にもあった通り……」
「大丈夫だよ、透夜殿 私とて、その手の良識はあるつもりだ」

 透夜はセリカや亜麻があちこち調べてる少女達を見やってから、魔王に向き合いますが……意外なほど強い言葉で遮られます

「彼女達は、私の命に代えてでもこの世界で幸せにするつもりだ で無ければ、私の可愛い『娘たち』に嫌われてしまうよ」
「……そうですね ネリネに『魔王様』と呼ばれるのは嫌ですものね」

 魔王のその一言に透夜は安心したのか、やや軽い調子で言葉を返します

「さて、俺はもう邪魔になるだけなので、そろそろ帰らせてもらいます」
「ああ、稟ちゃんに宜しく伝えておいてくれ」

 魔王のその言葉に、透夜は頷き、その部屋から出て行くことにしました


  ひだまりメイドラプソディー 第四十話 転入生?


「あれ? 風見先輩に土見先輩! ここでなにしてるんですか?」

 その次の日、登校日であるその日、互いの部活の休みが重なりあったなずなと奏が一緒に帰ろうとした所、校門の部分で黄昏ている透夜と稟の姿を発見しました

「……? あぁ、お前らか……」
「「……?」」

 しかし、透夜のその一言で、なずなと奏は互いに顔を合わせ、何事か疑問を感じます

「もしかして、あの子たち……」
「あぁ、あの件なら、あと目が覚めるのを待つだけさ」

 その透夜の表情に、遺跡に有った金属と魔力で出来た女の子達に何かしらの問題が起きたのでは?と思ってしまったなずなですが、透夜は慌ててそれを否定します

「じゃあ、どうしたんですか……?」
「あれー? 稟に透夜、お前ら、何だかんだで女の子に……」
「アホか」

 それでは、何故憂鬱な顔を、と聞こうとしたら、その原因であろう二人の男子生徒――緑葉樹と、向阪雄二が現れます

「全く……環先輩や紅女史や貴明に頼まれなきゃ、誰がお前らなんかと一緒に鍛錬なんざ……俺だって、どうせ鍛錬するなら、マツリ先輩と……」
「ま、まぁまぁ……」

 樹と雄二が遅れてきたことに、ぶつくさ文句を言う透夜ですが、稟に諫められてそれで終わらせます

「お、可愛い女の子発見!」

 そんな透夜と稟のやりとりに、苦笑いしていたなずなと奏でしたが、雄二が嬉しそうな声を上げ出します
 その視線の方を見ると、サイドポニーが特徴で、ちょっと無表情的な表情が印象的な女の子がいました

「あの子は……」
「ねぇねぇ、キミ、彩井高校に用があるの? だったら俺が道案内――」

 奏の言葉を無視して、その言葉と同時に、その少女の肩に手を乗せようとした雄二でしたが―――

「ぐはぁッ!」

 少女が、見えないスピードで繰り広げられた攻撃で、雄二は見事なまでに地面に叩きつけられます

「あの子、どうやら相当過酷な鍛錬を受けてたみたいだね……」
「再補修を受けた向阪じゃ、手も足も出ないって訳か……」
「済まない 何時もの癖で、この男を殴ってしまった」

 少女の動きに、透夜達は驚いたような声を上げ、少女は雄二を引きずって透夜たちに彼を引き渡します

「あ、風(ふう)ちゃん! やっと見つけた!」
「鉄平」
「あ、鉄平先輩!」
「あ、奏ちゃんもいたんだ」
「奏ちゃん、お知り合い?」
「はいなのですよ〜」

 奏と鉄平と呼ばれた男、そして風とよばれた少女の会話に、なずなは彼らが顔なじみである事を理解します

「なずなちゃん、先輩方、こちら鉄平先輩 私が育った施設で働いてる方なのですよ〜」
「宜しく」
「そしてこちらが風ちゃん 私やなずなちゃんと同い年なのですよ」
「宜しく頼むぞ」

 奏の紹介で、鉄平はにこやかに、そして風は少々偉そうな態度で答えます

「それより彼女……この学校に転入するみたいだが……やっぱりKN科に行くのか?」
「いや、MEと言う所らしいが……どうしてそう思った?」
「いや、そりゃあ……なぁ?」

 透夜の言葉に、稟及び樹は顔を引きつらせながら、その言葉に同意します

「私は戦う技術は、子供の頃沢山教わった これからは、鉄平だけでなく、いろんな人から、いろんな事を教わりたい」

 しかし、その問いに対する答えは、彼女の無表情な顔からは信じられない程の、強い意思を感じられました

「そう言うことなら、負けてられないな……おい、向阪……とっとと起きろ!」

 そんな彼女に即発されたのか、透夜は風に殴られ、未だにのびている雄二の顔を蹴飛ばし、彼を起こそうとします

「稟、そっちのバカ、逃げられないようにしといてくれ」
「はいはい……」
「ちょ、まっ……」

 透夜の行動に、稟は感心した様な呆れた様な微妙な表情をして、樹を羽交い絞めにします

「ちっ……しょーがねー……おい、環先輩に魔法付きでアイアンクロー……」
「あっ、はい、起きました! ちょー起きました!」
「んじゃ、行くぞ」

 雄二が起きた事を確認した透夜は、鍛錬場にあるいて行きました……


「風ちゃん、か……ちょっと変わった子だったね」
「ええ……風ちゃんはちょっと境遇が変わってて……」
「それ……私が聞いて良いの?」

 その後、職員室に行く鉄平たちとも別れ、なずなと奏は寮に帰ることにしました
 勿論話題は先ほど会った、奏の友達の風の事です

「はい! なずなちゃんには是非是非知って欲しいのですよ〜!」
「大事なことなら、乃莉ちゃん達にも聞いてもらった方が良いのかな?」
「そうですね 皆さんが風ちゃんの事、良く知って欲しいですから……風ちゃんさえ良ければ!」

 奏の笑顔に、なずなも笑顔で答えます
 そして、奏の笑顔は、不意に真剣な表情に変わって行きます

「なずなちゃん、お願いがあるのですよ〜」
「? お願い?」
「風ちゃんがどんな子だったとしても……出来ることなら、風ちゃんと仲良くして上げてほしいのですよ……」

 なずなは、その奏の真剣な表情の意味は理解できませんでした
 しかし、その表情の意味がどうであれ……

「勿論! こないだ遺跡で見つけた子たちと一緒に、彩井学園で勉強出来たら、私は嬉しいな……」
「なずなちゃん……ありがとうなのですよ〜」

 そのなずなの力強い言葉に、奏は安心したように、何時もの笑顔に戻るのでした

 次回に続く

 あとがき
 と言う事で、夏休み後半戦スタートなのですが……予定と違って、意外としんみりしたスタートとなりました
 今回は「ふーすてっぷ」から主人公格の鉄平と風が、「SHUFFLE」から魔王と神王が、そして「聖霊機ライブレード」からセリカが初登場となる運びになりましたが、今回意外に目立ったのが「おとボク」の奏になりますね 彼女の孤児と言う設定、ふーすてっぷの設定と絡め安い……(笑)
 風が暗殺者としての教育を受けてた、と言う話も盛り込んだ方が良いかな?とは思いましたが、今回はとりあえず見送りの方向に行かせてもらいました
 次回は……やっぱり学生専用の大型連休に付き物のアレにしたいですが……どうなる事やら

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