(よし、上手く隠れたか……)

 最深部につながるであろう扉の前に現れた、巨大な……否、巨大すぎる蟹を目の前に、透夜は抜刀しながら、基本的に非戦闘要員であるなずな達が、適当な所に隠れるのを確認します
 無論、この大きい蟹がどんな攻撃をしてくるのか分からない状況で、その場所に隠れる事の危険性は、無論有る訳なのですが……

「さぁ……行くぞ! フェイン!勇二! さっき同様、前衛でガンガン攻撃して! 俺と二木はフェインの、謙吾と真人は勇二の追撃体制!」

 蟹からの大振りすぎる攻撃を回避しつつ、透夜は次々と指示を出して行きます

「大道は魔法で援護を頼む! 亜沙先輩と来ヶ谷は魔法を打ちやすいように、護衛して!」

 その指示の直後、蟹からの攻撃をガードしながらも吹っ飛ばされるフェインが、透夜の目に映ります
 それを真正面から受け止め、足で踏ん張ってフェインを軽く前に吹っ飛ばした後、駈け出して……

「グェッ!」

 なんと、そのフェインの肩を踏み台にし、蟹に攻撃を仕掛けます!

「マナよ、風を使いて、かの者の盾となせ! ウィンドウィスパー!!」

 その姿を見た雅は、すぐさま透夜に防御魔法を使い、敵からの攻撃に備えます

「くぅっ……中々に手ごわいな……」
「おい透夜、人の肩を踏み台にした割には、むしろ酷い怪我を負ってるじゃないか」
「ああ、大道がいなきゃ、死んでたかもな……」

 二人の会話に、佳奈多はこんな状況で何を、とも思いますが、それでも悲壮感丸出しよりははるかにマシ、と思うようにします
 その瞬間、蟹の口から大量の泡が噴き出てきます

「ちっ……やーな予感がするな……大道、凍らせるか押し返す事、出来る!?」
「やってみます ……マナよ、我に従え……氷の槍となりて、全てを凍らせよ! アイスエッジ!!」

 透夜の指示に、雅は素早く氷の槍を召喚する魔法を使い、その泡を一部分だけでも凍らせることに成功します
 しかし、なんとその凍らなかった所から煙が噴き出してきます

「畜生、しょうがねぇ……こりゃこっちのダメージ無視で、一気にカタ付けるべきかもな……」
「お、じゃあ俺の筋肉の出番か!?」

 その煙に、嫌な物を感じた透夜がぼやくと、いつの間にか隣にいた真人が変な事を言いだしますが「そりゃ何時ものことだ」と言うのをグッとこらえます
 そして周りに目を向けると、そのやり方も致したか無い、と言いたげに皆頷いたのです


  ひだまりメイドラプソディー 第三十八話 トラップ!(後半)


「で、透夜君……どうするつもりなの?」

 一旦引いて、なずなや野田に軽く治療をして貰いつつ、亜沙は透夜にどうするか聞いてみます

「ん〜……奴の動きを見る限りじゃ、引いた方が賢いんだろうけど……」

 そう、透夜たちが一旦引くと、敵は彼らを追ってこず、その姿はまるで扉を守っている守護者を連想してしまいます

「それは駄目 せっかくここまで来たんだし、なんとかやってみよ?」
「……正直に言えば、無駄死にする可能性のある事は、したくは無いんだけど……」
「先輩、ここまで来たんです……こんなことになった理由を知らずに帰るのは、私も嫌です!」

 亜沙の言葉に、透夜は引く事を提案しますが、亜沙だけでなく、なずなの言葉、そして友兼・野田の二人の行こう、と言いたげな表情に、諦めて前進することしか出来ません

「仕方ない……言い出しっぺの亜沙先輩、アンタが死んでも亜麻さんや楓に頭下げませんからね……?」

 しょうがないわね……と言いたげな表情になった亜沙を確認した透夜は、次々と指示を出して行きました……


「さーて、皆! 突撃!」

 透夜の言葉に、最初にフェインと勇二が蟹に向って、駈け出して行きます

「マナよ、我らに大空舞う翼を与えよ……ウィング!」

 そして来ヶ谷の魔法で、その前衛二人を飛べるようにし、それを確認した透夜は、亜沙、そして来ヶ谷のさらに後方にいる雅に視線を向けます

「マナよ、我に従え……炎の槍となりて、我が敵を刺し貫け! フレイムレーザー!!」

 その意味を理解した雅は、前方に魔法陣を開き、そこから一直線に進む三本の炎の槍を放出し……フェインと勇二を攻撃しようとしていた蟹に、直撃します
 その直後に、空中を自由自在に飛べるようになっているフェインと勇二の追撃が入り、蟹は苦しそうなうめき声をあげて行きます

「やった!」
「だが、それでもダメージは想定以下……やっぱもっともっと強い攻撃じゃないとダメだな……二木!俺達は攻撃の補助魔法!大道も、もう一回頼む!」
「分かったわ!」

 そして、雅の二回目の魔法の直撃と同時に、透夜と佳奈多は剣を鞘に戻し、ロッドを取りだします

「マナよ、我に従え!雷の雄々しき力を、我らに宿らせよ! エレクトリック!!」
「天空より響く行軍歌! 地を踏みしめる物に届け! パッション!!」

 詠唱が終わると同時に、透夜のロッドからは黄色い、佳奈多のロッドからは赤い光が現れ、それが周辺に広がって行きます

「大道! さらにもう一回!」
「分かりました……! マナよ、渦巻く炎となれ……インフェルノ!」
「よし、真人! 謙吾! 勇二! フェイン!」

 蟹の足元から、渦を連想するような炎が現れたのを確認すると、透夜は前衛にいた四人に突撃を指示しました
 その四人の攻撃の直撃を受けた蟹の甲羅にヒビが入り……大きな音を立てて崩れ落ちて行きました
 そして、数秒の間をおいて、蟹そのものの体も、崩れ落ちて行ったのです……!


「なぁ、やっぱりコレ、食っちゃ駄目なのか?」
「だから止めとけ……」

 戦闘が無事終わって、なずな達の治療中……真人は未練たらしく、倒れている蟹の方を向き、謙吾に問いかけます
 それを聞いていた透夜達も、思わず呆れて物を言う事が出来ません

「なずな!大丈夫か!?」
「……? り、律太さん!?」

 その時、壁から大きな音が響き……なんとそこから、律太たちが現れたのです!

「どうやら、大丈夫の様ね……よかったぁ……」
「グスッ……律太さん……律太さぁん……ッ!」

 透夜たちが怪我はしているものの、特に命に別条が無いのを理解して、安心した様なさわ子の言葉を聞くと、なずなは思わず律太に飛びついて、泣き始めました

「しっかしまぁ……疲れた……」
「透夜君、疲労で腰砕けになるのはまだ早いよ? そう言うのは、佳澄美との夜の生活で……」
「カレハ先輩がいないからって、珍妙な事言いださないで下さいよ……」

 疲れきって、地面に腰を下ろす透夜に、亜沙の冷やかしの言葉が降りかかります
 その言葉に、普段彼女の冷やかしの被害に会う稟がいないことに、少々恨みたくなったりします
 無論その恨みは、紅薔薇の命令で緑葉・雄二・春原の補修組の見張りとして貴明と一緒に学校に残る羽目になっていた稟に届く事は無かったのですが……

「さて、山中先生」
「なあに?」
「あの扉、なんとか出来ますか?」

 怪我人の治療を終了したのを確認した透夜は、さわ子に向き、扉の方に指を差します

「成程……もしかしたら、あそこにお宝があるかもしれないわね……分かったわ!」

 透夜の言いたい事を理解したのか、さわ子は扉の方にゆっくりと有るいて行きました……

 次回に続く

 あとがき
 ようやく遺跡編における戦闘が終了しました ホント、バトルシーン書くの難しいわ〜(苦笑)
 次は、お宝ゲッチュ編です 次も表現に苦労しそうな気がしますが、どうなることやら……
 ちなみに、ここまで来て、そのお宝は金貨や財宝の類じゃ無いですよ? 流石にそんな展開だったら、いやでしょ?(笑)

inserted by FC2 system