「どうやら、一旦状況を整理した方がよさそうだな」

 遺跡における、授業中に事故……天上からの落下物に生き埋めになった者を助け、怪我人の治療をある程度終了したのを確認した透夜は、周りの様子を確認しつつ、声を上げます

「と言っても、見ての通りなのよねぇ……敢えて問題を挙げるとしたら……」
「何故数時間も早く、俺達の元に情報が来たのか、ですね……」

 さわ子の言葉に、透夜はお手上げ状態だ、と言わんばかりに手を上げます

「そ、それじゃあ、早く出ようよ! 何時また何か起きたら……!」
「ま、そうするっきゃないか 検証なんざ、騎士団にやってもらった方が確実だし」

 その姿を確認したこのみと、その言葉に頷いた透夜の態度に、皆一様に頷いたその瞬間―――――
 その場にいた者達が来た方向に派手な音が響いて――――その道が通れなくなる位の岩が立ちふさがっていたのです

「マジかよ……」
「いや、この程度の障害なら……」

 信じられない……そう言いたそうな表情になったフェインでしたが、透夜はリリの方を向きます

「マナよ、爆炎となりて舞え! エクスプロード!」

 その視線の意味を理解したリリが、一行の先頭に立ち、強力な攻撃魔法でその岩を破壊しようと試みます
 そしてその炎とそれから出てくる煙が消えて行きますが……先ほどと何ら変わらない景色が、彼らの目に映ります

「コレもしかしてトラップじゃあ……!」
「……単純に建物が古くなったから崩れた、と思いたいな」

 目の前の状況に、なずなは意図的な物を感じますが……律太の言葉に思わず頷いてしまいます

「ともかく、だ 山中先生、別の出口があった筈ですよね? そっから出ましょう」
「そうね」

 透夜の言葉で、さわ子が地図を出して、別の出口を探そうとしたその瞬間でした――――
 この場にいた、一部の人間の足元に、異世界への扉を連想するような小さな穴が開いたのです―――――――


  ひだまりメイドラプソディー 第三十六話 トラップ!(前編)


 落ちる――――
 なずなは瞬間的にそう思いますが……今の何ら対抗策の思いつかないなずなには、只目を瞑るしか方法が有りません

「「マナよ、我に従え! 大空舞う翼を、我らに与えよ! ウィング!!」」

 そんな時、そんな声が聞こえます
 コレは確か、亜沙先輩と来ヶ谷先輩の声―――と、妙に冷静に冴えた頭が、そう感じた時……自分の体が宙に浮いてる事に気付きます

「あ、アレ?」

 その感覚に気付いて目を開くと、本当に自分の体が宙に浮いてる事に気付きます
 慌てて周りを見てみると、その場にいた皆の背中に透明な翼が生えています
 そして、自分の姿を改めて見ると、自分の背中にも翼が生えており、それで宙に浮いてる事にようやく気付きます

「どうやら気付いたようだな このまま下まで降りるが……イケるか?」
「は、ハイ!」

 いつの間にか、近くにいた透夜に声をかけられますが、我ながらだらしない声を出してる……そう思いながらも、戸惑いを隠す事は出来ませんでした


「にしても、参ったわねー どうするのよ、コレ……」

 無事皆が地上に降りたのを確認したら、最初に佳奈多がそう毒づきました

「トラップは、皆でかかれば怖くない、とはよく言ったモンだが……」
「……勇二君、それは冗談でも笑えないな」
「……そうだな……」

 その言葉に、勇二が冗談で場を和ませようとしますが、来ヶ谷の一言にどうにも変わらない事に気付きます

「さっきのが地下一階だとしたら、ここは多分四階が五階、と言った所だな……」

 こりゃ脱出が困難になったわー……そう言いたげに、透夜がぼやきます

「それはともかく、どうして君たちがこんなに早く来たのか……教えてほしい物だな」
「あぁ、どうも律太先輩が高島から事故が起きた、って話を聞いたらしくてな」
「えぇ!? 高島、って一子ちゃん!?」

 来ヶ谷の問いに対する透夜の意外な答えに、周りは思わずどよめき声が上がります
 勿論、事故が起きた時には、ちゃんとした救助依頼の伝達ルートが有り、みな一様にそうだと信じていたからです

「一子君がその様な事を言った、と言う事は……やはりこの事故、やはり作為的な物を感じるな」
「こりゃ俺の予想なんだが……聞いてくれるか?」

 やれやれだ、と首を振る来ヶ谷に同意しつつ、透夜は声を上げて周りの注目を集めます

「多分コレは、大昔、ここで働いてた連中が事故で死んで、幽霊になった一部の奴が高島を利用して俺達を呼び寄せたんじゃないか、って思ってる」
「ゆゆゆ、幽霊!? そ、そんな話、ヤだよう……」
「どうしてボク達を呼ぶの?」

 透夜の言葉に、このみはなずなの後ろに隠れて怯えますが、亜沙はそれを無視して、透夜のその予想の意味を聞きます

「多分……そいつらが作ろうとしたものを、誰かに自慢したいんだと思う」
「だ、だとしても、あの……一子ちゃんを使って私達に来てもらうとして……一子ちゃんが目覚めたのは、風紀委員長さんが入学した二年前ですよね? その時に一子ちゃんに声をかければ……」
「なずなは、ダイイングメッセージって知ってるか?」
「? 推理小説なんかで、殺された人が「犯人はこの人だ」って言うのを伝えるアレですか?」

 透夜に疑問を投げかけるなずなでしたが、逆に問いかけられて、首を傾げながら答えいます

「うん アレは多分最後の力を振り絞って、って感じだと思う ここの連中も、多分もうすぐあの世に行くのが、何となくわかったから……」

 だからこそ、幽霊たちは最後の力を振り絞って、自分たちの存在を伝えようとして、その気持ちが同じ幽霊の一子ちゃんに伝わった……透夜のその言葉は、言う必要が有りませんでした

「でも、高島さんは、ここで事故が起きた、って言ってたわよね? どうしてそう言う予想に?」
「作った奴を、一人でも多くの人間にお披露目したいんだろうよ そのための手段は選んでられない、って事で その内崩れる建物で事故が起きた、なんざ、格好の材料だろ?」

 次に声を上げた佳奈多でしたが、透夜の答えに「まぁ、最深部に行けば答えが分かるか」と考えるべきか、と思って、これ以上追及する事はしませんでした

「予想はともかく……どうするんだ?」
「そうするもこうするも……地図は上にいる連中が持ってる訳だから、出口を探す訳になるんだが……運が良かったら、こーなった理由にブチ当たるかもな」

 謙吾の問いに、透夜はあっさり答えますが、なずなは透夜の言う「運の良い」方にぶち当たって欲しい、と言いたそうにも聞こえました

(でも、風見先輩の気持ちも分かる、か 野田ちゃんも友兼さんも風見先輩の気持ちに同意見みたいだし……)

 周りの者の表情をみて、なずなは自分が彩井学園に入ってから、自分の神経が少しだけ図太くなった様な印象を持ってしまうのでした

 そして数分後……なずな達は、大きな扉を発見します
 この間、彼らに襲いかかって来た物は、異常進化した様な印象を持つ大きなネズミだけで、特にトラップも何も有りませんでした

「コレって……どう見ても最深部、だよな……?」
「多分な」

 その扉の存在感、そして威圧感に、この中で大柄な真人やフェインも、思わず圧倒される程の物です

「亜沙先輩 コレ、やっぱり魔法で開けるとか、そんな感じですよね?」
「……多分ね〜 来ヶ谷さん、手伝って〜」
「分かった」

 そんな感じで、亜沙と来ヶ谷が扉に近づこうとしたその時……

「来ヶ谷! 先輩! さがれ!」
「「え!?」」

 勇二の叫び声に、二人が思わず立ち止ったその瞬間――――
 二人と扉の間に、飛んでも無く大きな蟹が落ちて来て、地面を大きく揺らすのです

「な、なぁ……アレ、倒したら食えるかな……?」
「……あの手のモンは、食ってもマズい、ってのが相場だぞ? まぁ、真人なら一人でも食えそうだが」

 井ノ原先輩と宮沢先輩はなんて締まりのない話を……!と、思いながら、なずなは目の前の蟹を改めて見ます
 それは縦が少なくとも3M、横は恐らく5Mはある、なんとも大きな物でした

「……こう言う時、律太先輩や瑞穂先輩がいてくれりゃあ、な……」
「ぼやかないぼやかない さ、どうするの?」

 ため息交じりの透夜を窘める佳奈多に、なずなは、目の前の蟹を倒すの?と思わず目を丸くします、が……

(でも、逃げれそうもない、よね……?)

 逃げれないなら、倒すしか無い……! なずなはこんな時、なにも出来ない自分が歯がゆく思えてきますが……

「なずなちゃん、このみちゃん、一旦下がろ?」
「野田ちゃん……?」
「オレ達の役目は、怪我した奴らに包帯巻く事位だ! 奴の相手は先輩達に任せるぞ!?」
「友兼さん……! うんっ!!」

 野田と友兼の言葉に、なずなは、二人が怖がりで臆病な自分をいつも助けてくれる、一番の親友の代わりをしてくれる二人に、心から感謝するのでした

 次回に続く

 あとがき
 一難去って、また一難……ではありませんが、波乱はもうちょっと続きます
 にしても、律太もそうだけど、瑞穂と環がチョイ役にしかならないのが、ある意味問題か……? コレがクロスの問題点ではあるかも……(笑)

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