毎年、彩井学園TH科が行う実習……彩井学園から約半日の距離にある遺跡で起きた事故……
 遺跡の天井の一部が落下し、死者こそ出なかったものの、実習に来ていた生徒の大半が怪我を負い、その引率をしていた教師・山中さわ子が学園側に魔法で連絡……
 しかし、救助に行く予定だった騎士団は、その遺跡の場所からは遥か遠い所にある村に攻め込んだモンスターを撃滅する為に出撃中……
 よって、学校や寮にいた生徒たちが救助に向かう事になりました

「にしても、結構進んだ筈だが……魔物はおろか、遺跡特有のトラップすら無いのは、かなり不自然だな……」
「透夜もそう思うか? 学校側が意図的に残してる、と言う話を聞くが……」
「野田ちゃんたちが壊したとか、そんな感じなんじゃあ……」
「いや、それにしてもここまで無いのはちょっとおかしい……」

 救助隊として生徒たちが自発的に集まったのは、透夜や律太、なずななど、その人数は二十人を超え、彼らが遺跡から来るイメージである、トラップや魔物達が出てこないことに、不信感を抱く者すら現れてきました

「そ、そんな事より、お化けとか、幽霊とか出てきそうで怖いよぉ……」
「あのねぇ、このみ……あなたはここまで何をしに来たのかしら?」

 そんな中、環の服の裾を捕まって震えていたこのみが、怯えるように声を上げます
 そんなこのみに、環は呆れたような声を上げてしまいます

「だ、だってぇ……ここ、すっごく暗いし……足元だって……」
「ちょっと、このみぃ! ちゃるやよっちだってこのみと同じ気持ちなんだよ! そんな事言うんだったら、今すぐ寮に帰りなさいよ!」

 環の言葉に、さらに怯えた声を上げるこのみに、乃莉が我慢できなくなったのか、声を張り上げます

「だ、だって……」
「乃莉ちゃんの言う通りだよ! 私だってすっごくすっごく怖いよ!だけどこのみちゃんだって、ちゃる達を助けに行きたくてここまで来たんじゃないの!?」
「……ッ!!」
「私もうこのみちゃんなんか知らない! 私一人でも野田ちゃん達を助けに行く!」
「まっ……!」

 このみの態度に、なずなが感情を爆発させるように叫び、律太たちが止める間も無く、奥の方に掛け出して行きました
 そんな時でした なずなの進む方向に通路の影が濃くなって行き……

(マズい!)

 その陰に嫌な予感がした律太は、彼女を助けるために飛び出して行きました


  ひだまりメイドラプソディー 第三十五話 戦闘!


「真人!謙吾!律太先輩のフォローを!他のみんなも急いで戦闘準備を!」
『了解!』
「それからリリ先輩! ランタンだけじゃ状況が分からないから……!」
「分かってる……! マナよ、我らに力を……我らの世界に光を与えよ! シャイン!」

 透夜の指示に、その場にいた全ての者の緊張が最高潮に達します
 そしてリリの魔法の効果が表れたその時、なずなを襲おうとし、今それを庇った律太たちを攻撃してる存在が目に見えてきます

「ヒッ……!」
「でか……ッ!」

 その存在……数メートルの長さがあり、太さも普通の物に比べたら何倍も大きそうな蛇でした
 その大きさから、地べたを這いずる闇の龍を連想し、その手の存在に慣れてない乃莉や如月は息を呑み、そして恐怖に怯え、ある程度の戦闘経験のある透夜や真人たちも、思わず背筋を凍らせてしまいます
 それだけでなく、その蛇は、なんと三体もおり、その全てがなずな達に対して、攻撃的な光を湛えていました

「くっ……!フェインと勇二は先頭に立ってガンガン攻撃して!真人と謙吾はその追撃役お願い! 瑞穂先輩は前衛やや後方の中央に立って、そこの指揮、お願いします!」
『ッ……!』

 その光に反応するかのように、透夜は思わず叫び、周りにいた騎士候補生たちも、それに呼応するように動き始めます

「律太先輩!なずなを連れて、一旦下がってください!環先輩はその援護をお願いします!」
「分かった!」
「先輩!急ぎましょう!」
「リリ先輩は律太先輩となずなの治癒を最初にお願いします!ME科はリリ先輩の援護!リリ先輩以外のMG科は攻撃魔法で前衛陣を援護! 二木は俺と一緒に補助魔法と弓で援護をする!」
「分かったわ! 葉留佳や来ヶ谷さん達を助ける為ですもの……負けるわけにはいかないわ!」

 透夜の出す指示に、皆一様に相手の存在に怯えかけてた心が正常に戻り、普段通りの動きに戻って行きます
 そしてなずなを抱えた律太が透夜と佳奈多の背後に回ったその瞬間……

「紫苑先輩! 味方には当てないでくださいよ!」
「分かりましたわ! マナよ、炎のつぶてとなれ 雨の如く、我が敵に降り注げ! フレイム・シャワー!」
「二木、防御系の補助を使う! ホーリーの方、お願いしても?」
「ええ、勿論! 合図は任せるわ!」
「大地の活力よ、傷つきし者の力となれ! マナよ……かの物に力を! アースプライヤー!」

 次々と指示を出して行く透夜は、紫苑の前衛の支援射撃、そしてリリの治癒行為を確認した直後、佳奈多に視線を向け……
 その視線の意味を、佳奈多が理解したその瞬間、透夜と佳奈多は、共に剣を前衛に向けます

「収束する世界……極限の時よ!全てを見通せ!!」
「神の威光……唯一無二の輝きよ!我らに力を!!」

 そして透夜と佳奈多が魔法の詠唱を開始したその時、その二人の剣から、僅かながらに濃さの違う白い光が現れます

「コンセントレーション!」
「ホーリー!」

 そして、その詠唱が終了した瞬間、その二つの光が前衛で踏ん張るフェインや勇二の元に一瞬で届き……
 只でさえ動きの良かった、フェインと勇二、真人と謙吾の動きがさらに目に見えて良くなっていきます

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉっ!」
「ッ! フェイン、突っ込み過ぎ……!」

 しかし、その動きの良さに調子に乗ったのか、フェインが単独で敵に突撃し……
 その全ての敵の攻撃の直撃を受けてしまいます

「ちっ……二木、俺達も行くぞ! 律太先輩と環先輩はここにいる奴らの護衛を!」
「「分かったわ!」」
「任せろ!」
「大道も来てくれ! 魔法面での援護を頼む!」
「分かりました」

 あちこちに指示を出し終え、改めてフェインの方を見ようとしたその瞬間、大きな音が周りに響き渡ります
 そちらの方を向くと、なんと単独突撃をしていたフェインが、蛇の内の一体の胴体を切り裂き、倒していたのでした


「全く……律太先輩や瑞穂先輩の援護があったから良かったけど……一歩間違えれば死ぬかも知れなかったんだぞ?」
「「はい、ごめんなさい……」」

 数分後、透夜たちが援護しようとあせった気持ちもむなしく、瑞穂の追撃指示で、残りの蛇もすべて撃破し……最初に突っ込んだなずな、そして最後に突撃したフェインは透夜に説教を受けてました

「フェインの馬鹿行為は死ななきゃ治らないとして……」
「…………」
「「あ、泣いた」」

 この戦いで最も重要な活躍をしたのに酷な評価を下され、真人と謙吾に酷い言われ方をしているフェインを無視し、透夜は真剣な表情でなずなの方を向きます

「アンタはもう少し友達を信用すべきだ ……確かにこのみは状況に恐怖し、怯えた……だがな……だからと言って、お前一人で何かが出来る訳でもあるまい?」

 透夜の一言に、なずなは自身のライバルを探していた時の、透夜の一瞬浮かべた哀しそうな顔を思い出し、ハッと顔を上げます

(そう言えば、今日の戦い……透夜先輩は前に出て戦って無い……!)

 KN科二年最強、と学園内で謳われる強い騎士候補生は、この戦いでは、やや後衛のポジションで指揮と補助魔法を使っただけなのを、思い出しました
 もちろんそれが透夜の弱さの証明にならないのは、なずな自身重々承知しています
 なぜなら……

「俺にダチがいるように、お前にもダチがいる ……それを肝に銘じておけ」
「……はい」

 そう、透夜の一番の武器は、力そのものでは無く、友達……仲間の力をフルに生かす指揮能力である、と言うのを理解したからです
 それと同時に、今日この日、このみに対する怒りだけで、独りよがりな行動を取って、律太達に迷惑をかけた自分が恥ずかしくなりました

「風見!ちょっと来て!」
「なんだ?」

 その時、先に行って様子を見に行っていた一人、佳奈多が透夜の元にやってきます

「棗さん達を見つけたんだけど、ちょっと様子が変なの!」
「? なんだ? 死んでる訳じゃなさそうだが?」
「ええ……なんか、様子を見る限りじゃ、事故が起きたのが、ものの数十分前みたいなの」
「……は?」

 佳奈多の一言に、透夜は隣にいたなずなやフェイン、真人と目を合わせます

「お、おい、二木! 俺の筋肉にも分かるように説明してくれ!」
「いや、現場を見た方が早い ……案内してくれ!」

 混乱して頭がこんがらかって佳奈多に詰め寄る真人を抑え、透夜たちは先にこの遺跡に来た人達のいる場所に向うのでした

 次回に続く

 あとがき
 いや、戦いの描写ってのは正直難しいですね 文章だけで、その戦いの雰囲気を想像させるだけの文章力を持ってる訳では無いので……(苦笑)
 オチを読めば分かると思いますが、波乱はこれからです そうでなきゃ、わざわざ遺跡の事故を起こしはしませんよ

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