合宿が終わって1週間後……なずなと乃莉は馬に乗ったまま、目の前の大きな遺跡を眺めていました
「なずなちゃん、乃莉ちゃん、ぼやっとしてないで、急ぎましょう!」
「あっ、ハイ!」
「待て待て、急ぎたい気持ちは分かるが、急いては事を仕損じる、と言う言葉もある とりあえずは落ち着け」
「透夜の言う通りだ まず中の状態がどんなのかを、改めて確認するぞ」
その大きさに圧倒されてたなずなと乃莉でしたが、隣にいた如月に、せかされますが、透夜と律太に止められます
「それにしても……ホント、無駄にだだっ広いわね……確か地下を探せば良いのよね?」
「ああ 結構深そうだからな……地下だけとは言え、かなり骨が折れそうだ……」
「そんな事はどうでもいい! 俺の筋肉が鈴と恭介を助けろって疼いてんだ! 急ぐぞ!」
「お前も落ち着け、真人……」
地下に続く階段の場所を確認していた、律太やリリ達を横目に、真人もじれったそうに両足を上げ下げして、謙吾にそれを止められます
「ともかく、だ 先に行った連中の生死は、俺達にかかってる……それを肝に銘じて、慌てずに行きましょう」
律太のその一言に、その場にいた人間は皆一様に頷きます それだけ中の状況は切羽詰まった状況になっているのです
「それで風見君……どうするの?」
「え!?」
「え!?じゃない 同じKN科でも、お前指揮官志望だろう…… 俺達が中で敵に遭遇したらどうするか、ある程度イメージは出来てるんじゃないのか?」
リリと律太の言葉に、透夜は一瞬色々考えるが……
「キミが国に使えることになったら、年上を使う事態になる事だってあるんだよ?」
「あなたがそう考えてるうちに、中にいる人達がさらに危険になりますわ」
律太・リリ同様に、透夜から見れば年上の瑞穂・紫苑夫婦(予定)の二人の一言に、透夜は只頷くことしか出来ませんでした……
(野田ちゃん、友兼さん、宮子先輩、亜沙先輩……待ってて……!)
それじゃあ軽く説明をさせてもらいます―――透夜の言葉と共に、遺跡を眺めていたなずなは、そう決意を固めました――――
ひだまりメイドラプソディー 第三十四話 課外授業!
そもそも、こんな事になったのは、なずなが部活の為に学校に来たら、掲示板に僅かながら人だかりが出来ていたのを見つけたのが、始まりです
「課外授業?」
「そう! 夏休みだからこそ出来る、大きい勉強って訳だ」
それを一歩遠い所で眺めていた亜沙を見かけたなずなは、この状況を聞いてみると、夏休みに開催される授業についての説明をされたのです
「補修とは違うんですか?」
「そ! 補修と違って、自由参加なんだけどねぇ……参加すると結構成績が良くなる訳なんだよねぇ」
「な、成程……」
成績が良くなる、と言う一言で、なずなは一学期の成績がそんなに良くなかった事を思い出します
「まぁ、一年の時から、そんなあくせくしたって徳にはならないよ? なずなには、なずなのペース! アンダスタン?」
「は、はい……」
亜沙の一言で、とりあえず参加は見送ろうと思ったなずなでしたが……
「野田! 遺跡だぞ、遺跡! お宝を見つけたら、きっとオレ達は大金持ちだ!」
「そうだね、友兼! いろんなものを買い放題だよね〜♪」
「ぴくぴくッ!」
しかし、こんな状況のお約束なのか……同じ学年の友達が、参加しようとしている声が聞こえてきます
「なずな! 冬休みまで我慢我慢!」
「ハッ!」
「にしても、あの二人ったら……遺跡内での課外授業ってのを勘違いしてるんじゃあ……」
「え!? ちがうんですか!?」
課外授業が気にならない、と言う訳では無かったものの、亜沙の意外な一言の方が気になってしまいます
「そ、近くにある遺跡に行くのは間違いないんだけど、さ……その中はお母さんが学生だったときに見つかった奴でね……今は殆ど荒らされちゃってると思うよ?」
「つ、つまり今より十年以上は前に見つかった、って訳ですか!?」
亜沙の一言で、数日前に会った、彼女の母親・亜麻の姿を思い出して思わず声を上げるなずなでしたが……
「もしかしてボク、十歳位にしかならない訳? ……お母さんの外見年齢を見れば、そう思っちゃうのも無理ないけど…… せめて二十年近く、って言ってよ……」
「ハッ! すいません!」
「ともかく、TH科の実技ってのは、遺跡内の移動の仕方とか、学校で習うより、より実践的な授業しかしない訳だ」
「へぇ……なんか難しそうですねぇ……」
「そう思うだけでも、なずなは偉い! ME科の課外授業で詳しい話を聞きたければ、カレハや楓達に聞くと良いよ?」
「ハイ!」
そして、結局課外授業に参加しないことにしたなずなでしたが……
「なずな! 大変大変!!」
「なずなちゃん! 大変だよぉ〜!!」
のんびり読書をして楽しんでいたなずなは、部屋にいきなり入って来た乃莉とゆのが入って来て、驚かされました
「どうか、したんですか?」
「どうもこうもないよ! TH科の課外授業先で、事故が起きたんだって!」
「えぇッ!」
その表情から、本当に一大事と言うのが分かったなずなは、その理由を聞いて心臓が止まるほどの衝撃を受けてしまいます
「た、確か野田ちゃんや宮子先輩達が……!」
「そうなんだよぉ! もしもの際は、ホントは聖地の騎士団が救助に向かう予定だったんだけど……!」
「ま、まだ何かあるんですか?」
「遺跡が有る方向とは逆の方向にある村にモンスターが襲ってきたらしくって……」
「そ、そんなぁ……!」
乃莉とゆのの説明に、なずなも事の重大性に、かなり厳しい状態であるのを、理解します
「なにを慌ててるんだ」
『あ、律太さん!』
そんな状況下からは、信じられないぐらいに冷静な声が上がり、その方向を向くと、なずなの幼馴染のお兄さん、律太がいました
その姿は普段の格好では無く、チェーンメイルを着ていて、背中には実戦用と思われる大型のグレートソードがありました
そしてその律太の隣にはリリがいて、彼女も厚い革製の鎧を着て、腰のロッドの他に、律太の剣よりはやや細身の剣がありました なずなはそれがツヴァイハンダーと呼ばれる剣だ、と冷静じゃ無い頭の中で思いました
どちらにしろ、二人ともこれから戦いに行きます、と言いたげな姿恰好に、只驚くしかありません
「あのー……これからどちらに?」
「決まってるだろ? ……これからその遺跡に行くんだ……!」
「勿論、あなた達も行くでしょう? 40秒で支度しなさい!」
そして……勿論40秒で支度は出来ませんでしたが、それでも急いで準備をして、馬を飛ばして、普段遺跡に行くまでの所要時間の半分で到着する事が出来ました
「なずなさん、大丈夫? 足元はきちんと確認してね?」
「は、ハイ、環先輩!」
そして遺跡の中は、なずな達がイメージしていたように、大きな岩や、元々は宝箱だったらしき木片がごちゃごちゃに散乱していました
なずな達はお互いに気を使いつつ、地図に示されていた、地下への階段を見つける事に成功しました
「さて、こっからが本番だな……」
「みんな、大丈夫でしょうか……?」
階段の奥は、暗くて何も見えず……なずなは思わず、不安を口に出していました
如月や乃莉、小毬達も、その言葉に思わず不安な気持ちになってしまいます
「……こんな事で気休めを言えるほど器用じゃ無いからな……こればっかりは分からん」
「正直俺等も、そこの所は不安だ ……だがな……」
「……?」
しかし、透夜と律太は、しっかりはっきりと、その不安を晴らすような事を明言はしませんでした
「奥にいる連中は俺達以上に不安になってる筈だ」
「……っ!」
「助けるぞ、なずな!」
「……うんっ!」
それでも、律太の一言で、なずなの目は真剣な目で頷きました
次回に続く
あとがき
夏休み中盤戦、突入です そしていきなりトラブル突入です
これから一時的に、バトルアクション的な要素が出てきます 出来るだけ熱い展開にして行きたいですが……