「おい、とっとと目を覚ませ」
「はい……?」

 なずな達が合宿している、琴吹家の別荘から、遥か遠い……彩井学園のグラウンド
 その片隅でぼんやりとボール磨きをしていた生徒……一年KN科赤野烈人は、目の前の人物に何度も呼びかけられてようやく視線を上げました

「ようやく気付いた……ダメだぜ、一個のボールをそんなに磨き過ぎるのは 一個だけを大切にしすぎるのは、他の物に対して失礼だと思うが」
「あ……す、すいませんッ!」

 やんわり注意する上級生……KN科三年青木幸敬に、烈人は只頭を下げることしか出来ません

「キミははサッカー部だろ? 全く春原は、後輩にどんな教育をしてるのやら……」
「あ、部長は、その……」

 慌ててボールを変えた烈人は、青木の一言に視線をグラウンドの方に向けます
 青木もその方向に視線を向けると……三人の男子生徒がやや大柄な女性……KN科二年担任の紅薔薇撫子……通称紅女史にトラックで兎跳びをさせられてるのが映りました

「アレって……春原に向阪の弟……それにあの眼鏡は二年の緑葉樹、だったか……?あいつら、紅女史に何したんだ?」
「いえ、只単純に補修です……緑葉先輩は紅薔薇先生に不敬を働いたらしく……」
「成程ね……やれやれ、同じ部長でも、朋也とああも違うとは、な」
「それで、その岡崎先輩は?」

 苦笑する青木に、少なくとも部活中はその隣にいるはずの人間がいないことに気付いた烈人は、それを聞いてみる

「ああ、ここ数日は忙しいくてね 古河パン、知ってるだろ? あそこの主人の代役で行ってて」
「? 何か、あったんですか?」
「ああ、演劇部の合宿の特別講師、だって 元々あそこの夫婦、役者だったらしくって」
「成程……」

「ぶぇっくしょい!!」
「あら? 朋也さん、大丈夫ですか?」

 青木と烈人がそんな会話をしているとはつゆ知らず、朋也は古河パンで、そこの主・古河秋夫の妻にて、恋人・渚の母親の古河早苗と共に、店番をしていました、とさ


  ひだまりメイドラプソディー 第三十三話 特別講師!
 

「おーい、唯……生きてるか……?」
「あつい……死ぬ……かも……」
「お前らは一体、ここに何しに来たんだ?」

 一方、琴吹家の別荘での一部屋では、唯と律が床に突っ伏して、澪が呆れた様な表情でそれを眺めていました

「唯ちゃん、りっちゃん、ホントに大丈夫……?」

 唯達がそこの場所を使ってた本来の理由……バンドの練習を見ていたなずなは、澪とは逆に、心配そうな表情で二人に駆け寄り、団扇を仰ぎ始めます

「なずなちゃん……ありがとう……」
「なずな……こっちも頼む……」
「お前ら、どんだけだらけてんだ ……律、最近太ったって言ったよな? 練習したらある程度はダイエットになるんじゃないのか?」
「う……うおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 澪の一言に、だらけきっていた律は、自分の使っているドラムに駆け寄り、それを叩き始めます

「計画通り」
「でもアレって、練習にならないんじゃあ……」
「な〜ちゃ〜ん?いる〜?」

 ニヤリ、と澪が妙な笑みを浮かべる隣で、なずなが至極もっともな疑問を持ったその時、小毬がその部屋に入ってきます

「どうしたんですか?」
「あ、昨日亜沙先輩が言ってた特別講師の人達が来たって〜」

 食堂にいるって〜と言う小毬の言葉に、なずなはつい小走りで食堂に行ってみると……

「えへへ〜 ひっさしぶりのあ〜ちゃんだ〜♪」

 そこには亜沙によく似た魔族の女の子が、無邪気な笑顔で亜沙に抱きついていました

「え、えっと……亜沙先輩、特別講師、と言う人は?」
「あぁ、この……ボクのお母さんで、時雨亜麻が、我ら料理研究部の特別講師」
「え……」

 おかあさん?となずなの頭に?マークが幾つか出てきます
 それはそうだろう……亜沙の母親と呼ばれた女性……亜麻は、その表情から、本当に亜沙どころか、なずな自身よりも年下にしか見えなかったからです

「あ、亜沙先輩の妹さんかと思いました……」
「も〜っ♪ ボクみたいなオバサンがあーちゃんの妹なんて、上手なんだから〜っ♪」
「信じられないかもしれないけど、信じて……」

 ボクだって、こんな三十代後半の女がこんな若々しいのは信じたくないよ……その表情から、そんな事を言いたげな亜沙に、なずなは只納得するしかありませんでした

「まぁ、あの若さを信じたければ、まずコレを食って見るか?」

 そんな時、この食堂で芳野と一緒に色々話していた男……古河秋夫が、テーブルの上に何かを置きました

「お、お父さん……コレってまさか!」
「おう、早苗パンだっ!」

 その中身を取り出すと、そこには秋夫の言う通り、パンが現れました
 しかし、そのパンから出てくるオーラは、なずな達が先日食べた闇鍋にも似た……否、闇鍋をさらに酷くしたオーラが醸し出されていました
 これが前に亜沙先輩が言ってた早苗パンなんだ……と、なずなはつい戦慄を覚えると同時に、確かにコレは罰ゲームとしては最高のアイテムだ、とついつい納得してしまいました
 そして、これを幾つか食べきれれば、目の前の若々しい男や、亜麻みたいな、若々しい体を維持できるかも……!ついついそう言う期待を持ってしまいます

「だ、駄目ですっ!お母さんの作ったパンなんて、みんなに食べさせちゃ駄目ですよッ! ……って、そういえばお母さんはどうしたんです?」
「決まってんだろ? 留守番だ!!」

 秋夫のその一言に、渚の表情は文字通り顔面蒼白となってしまいます

「お、お母さんが留守番って……!早苗パン大量生産じゃないですか!?」
「げ……」

 しまった……娘の一言に、秋夫はそう言いたげになってしまいます

「まぁ、なんだ、ともかく……渚、まぁ食えッ!」
「食べませんッ!今すぐ帰って、お母さんを止めてください!」
「早苗は小僧に任せときゃ良いんだよ!」
「朋也君にお母さん止めれる訳無いじゃないですか!」

 必死に父を帰そうとする渚を暫く眺めていた、なずな達でしたが……
 とりあえず見てたって何にもならないので、合宿の本来の目的に戻ろう……そうなずな達は思うのでした

 次回に続く

 あとがき
 ……なんと言うか、けいおん!っぽい展開になってきてますね……せっかく合宿だってのに、練習の一つもさせれば良い物を……(笑)
 今回、SHUFFLEから亜麻と緑葉、そして紅薔薇先生が、クラナドから古河夫婦が出てきましたが、それと同時にゆきさんオリジナルキャラの二人も初登場です
 青木先輩は名前が無かったので、こっちで勝手に決めました ゆきさんのHNで、それっぽい名前だったので、幸敬ってのが理由だったりします
 次は……けいおん!の代表的なアレの話になる予定です 私もカラオケに行くと良く歌ったりします

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