「あ、あのっ! 亜沙先輩!」
「な〜に?」

 目の前に鎮座されている四つの物体を見て、なずなは台所に行こうとしている亜沙を捕まえて、なにをしようとしているのか聞いてみることにします

「アレって、鍋……ですよね?」
「そうよ? 何よ、そのなんかすっごく嫌な予感してます的な表情は?」
「え? えっと……」

 その良い笑顔からして、すっごく嫌な予感がします! ……そう言いたい気持ちをグッとこらえ、他の方向を眺めます
 そこには……

「鍋やるベー!」
「鍋やるベー!」
「鍋やるベー!」
「鍋やるベー!」
「鍋やるベー」
「「……やるべー……」」
「「…………はぁ…………」」

 なずなが今まで見たことの無いような最高の笑顔を見せて、腕を全力全開で上に掲げる芦原と野田と律、ややヤケクソな印象すら受ける表情をしながら腕を上げる友兼
 何故か一緒になって腕を上げる雅、無理矢理付き合わされてるのか、同じセリフを言う如月と渚
 そして腕こそ上げてる物の、これからの展開に、完璧に嫌な予感しかせず、精神的にグロッキーになってる澪と奈三子がいました

「なんか……野田ちゃん達の笑顔からして、凄い物をリクエストされたんですね……」
「なんだか楽しそうですわ♪」

 最早嫌な予感しかしてこないなずなに対し、カレハは何時も通りのニコニコな表情になっています

「材料を買ってきたが……本当にやるのか?」
「もっちろん♪」

 その時、夕飯の買い出しに行って来た須尭と魚住、根岸と保村が入ってきました
 その中身を確認しながら、亜沙の笑顔がさらに嫌な予感しか出来ないような笑顔になってしまいます

「もしかして……鍋は鍋でも、闇鍋ですか!?」
「その通りっ! さっすが楓、良く分かってるじゃない♪」

 それを横から覗いた楓の声に、亜沙は嬉しそうに声を上げるのでした


  ひだまりメイドラプソディー 第三十二話 闇鍋!


 そして数十分後……

「とうとう鍋の用意が出来ました……皆さん、用意と覚悟は良いですか?」
「用意も覚悟も何も……ここまで来たら、もうどうしようも無いと思うけどね」

 亜沙が周りの人間に視線を向け、最終確認をしますが、その前の椅子に座っていたTH科二年にて美術部員の栗原渚の一言がその場の(一部の)人間の気持ちを代弁していました

「それにしても、闇鍋って、こんな凄いオーラを醸し出すものだったっけ?」
「先輩……何かコレ、すっごく嫌な予感しかしないんですけど……」

 さわ子・宇佐美の教師陣も目の前の鍋から出てくる「何か」に戦慄を覚えてしまいます

「さて、材料の内訳を知ってるのは、男性陣だけなんだけど……いつの間にか材料は私とカレハで入れちゃったしなぁ……」
「いつの間にかって、自分が入れましたよね!?」
「とりあえず暗くするのは、皆が材料を取る所までを暗くする、と言う事で、ぶちさんに空閑さん!」

 亜沙の一言に、澪は思わずツッコミを入れますが、それを全力でスルーして、水渕とMG科二年・美術部の空閑木陰に、魔法で周囲を暗くするようにお願いします

「とりあえず明りは全て消しました〜 お願いしますね」
「「マナよ、闇となりて、光を支配せよ! ダークネス・フィールド!!」」
(……ねぇ乃莉ちゃん、明りを消したんだし、魔法を使ってでもさらに暗くする必要は無いんじゃあ……)
(気持ちは分かるけど、コレは言っちゃダメだよ)
「……あ」

 水渕と空閑が、魔法を使って周囲を暗くして、なずなが乃莉と最大の疑問に小声で語り合ってたその時、亜沙が一言呟きました

「よくよく考えたら、わざわざ暗くする必要無いんだっけ……?」
「ううううおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」

 亜沙の一言に、BS科二年・美術部員の根岸大地が皆の気持ちを代弁するような叫び声を上げてました



「まぁ、その、なんだ……みんなそれぞれ具は取ったね?」

 数分後、普通の暗さに戻って、亜沙は皆一様に鍋の具を取ったのを確認します

「それじゃあ、とりあえず、食べてみよ!」
「あ、はい、じゃあ頂きます」

 挨拶と共に、如月が一口それを食べてみると……

「…………………………………………」
「如月殿?」

 箸に取った物を食べきった直後、如月は突然所謂「物言わぬ物体」に変化し、隣にいた雅はその様子に僅かながらも心配そうな表情になります
 少し肩を揺さぶった後……如月の頭上に手を持って言って、揺さぶってみます

「とりあえず、一子殿の様な状態にはなっていないのは、確かだ」
「下手すっと死ぬ可能性もあるってことか!?」
「聞きたくない聞きたくない聞きたくない聞きたくない……」
「澪〜 落ち着け〜……」
「しょうがないわね〜……」

 この錯乱した状態に、一人冷静な水渕が、手にカレー粉を持ってそれを全力で鍋に投入します

「ぶちさーん!なに入れとるねん!」
「しょうがないでしょ? きさちゃんでこんな感じなんだから、友兼君だとホントに一子ちゃんみたいになっちゃうわよ?」
「最早闇鍋通り越してカオス鍋だったからなぁ……」

 水渕の行動に異を唱える芦原でしたが、須尭の一言で返す言葉を見つけることが出来ません

「それより水渕先輩、何でカレー粉なんですか?」
「大抵の鍋は、カレー粉入れるとなんとかなるものなのよ?」

 水渕の答えに、なずなは鍋の中の匂いがカレーに支配されてるのを実感します

「しかし、毎度毎度の事ながら、コレだけ入れてようやく普通のカレー鍋っぽくなるのが、辛いな……」
「中に入ってるのは、ドロップとか、チョコとか、ミカンだけどなー……」
「「はぁ……」」

 そんな状況に色々納得してしまうなずなを横目に、魚住と保村は只溜息を付くことしか出来ませんでした

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、合宿第二話 今回は闇鍋編となりました
 「一歩間違えると生霊になる程度の威力」程度の描写しか出来なかったですが、楽しんでもらえると嬉しいです
 次は特別講師です 上手く行けば、なずな達に更なる試練が……

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