「頭……頭が……」
「な、な〜ちゃん、大丈夫!?」

 料理研究部が使っている家庭科室に入るや否や、なずなはそう呟いて机に突っ伏してしまいます
 その近くにいた小毬が、即座に濡れタオルをなずなの頭にかぶせます

「まったく……なずな、今日は終業式だから最後までしっかりしなさい……と言いたい所だけど、あれはしょうがないよねぇ……」
「はい……すいません……」

 珍しく見せる真面目モードの亜沙は、なずなの言葉に「気にしない気にしな〜い」と言わんばかりになずなの頭を優しく撫でます
 それと同時に、終業式の「ある一定の時」を思い出していました

 そう……その時の全校生徒の共通認識として、未だに耳が痛い……それどころか、頭が……脳みそ痛い……と感じていました
 そしてその原因は分かっています ……分かり切っている、と断言すら出来ます
 その理由は単純明快……終業式における、所謂校長先生のお話と言う物です
 この剣と魔法が支配するファンタジー世界にも、マイクに代わるものがあり、それはやはりマイクのごとき……ここまで言えば、ある程度想像出来る人もいるでしょう

 事の始まりはその数分前……教頭・ロア・ジン・シークハルトが壇上に上がる前に、ME科二年担任・吉野家がみょうちくりんな格好をして壇上に上がって行ったのです
 勿論彼女がわざわざ壇上に上がる理由があった訳ではありません それなのに彼女は壇上に上がったのです
 その怒りが頂点に達した校長は、元々予定していた内容とは逸脱した内容の話を……しかも予定していた時間よりも長時間にわたって続いていたのです

 結局一時間近く経ってから校長の話が終わり、教室に戻れることになった生徒達ですが……マトモに立っていられる生徒は一人としておらず……
 これの諸原因となった吉野家は、担当している、ゆのや楓や佳澄美、理樹達……ME科二年の生徒たちから総スカンを受けるだけにとどまらず……
 この日の放課後も校長に呼び出され、数時間にわたって説教をされたのです


「ともかく……明日から長い長い夏休みになる訳だけど!」

 自分自身、頭が痛くない訳では無い物の、何時までもグダグダしてられない……そう言いたげに亜沙はテーブルを叩いて、部員達の注目を集めさせます

「諸君!夏休みと言えば、何があるかね!?」
「えっと……帰省?」
「だぁぁぁ―――!」

 気合を入れて声を張り上げる亜沙でしたが……なずなの一言に、ガクっとテーブルの上に顔を伏せてしまいます

「せ、先輩!? 落ちちゃ駄目です!」
「な、な〜ちゃん、それは確かに夏休みに必要な事かもしれないけどぉ……」
「ま、まぁなずなちゃんは中学の時部活に入って無かったみたいだし……」
「だからこそ、このパターンを予想すべきだったのに……」

 そんな亜沙に、楓、小毬、愛佳、佳澄美の二年生四人は、心配だか呆れだかわからないような表情になります

「なずなさん、夏休みと言えば、合宿ですわ」
「な、成程!」
「なずなぁ……お願いだから気付いてよぉ……」
「あの〜 ちょっと良いですか?」

 なずなの一言に、亜沙の言葉に泣きが入っていたその時、料理室の中に唯と紬の二人が入ってきていました


   ひだまりメイドラプソディー 第三十話 合宿!


「成程、合同合宿ねぇ……詳しい事教えてくれる?」
「はい」

 唯と紬が持ってきた話は、紬の家の別荘で軽音部と一緒に合宿をしませんか?と言うお誘いでした

「えっと……私たちと料理研究部以外に、演劇部と美術部の二つもこれからお誘いしようと思ってます」
「成程……面白そうねぇ……」
(あ、なんか部長がやる気になってる)

 紬の説明に、亜沙の表情にみるみる変化が起き……料理研究部の中では最も付き合いの短いなずなでも、その気持ちの変化が理解できる程のものでした

「さぁ〜そこの二人! とっとと渚と須尭君の二人にお誘いしてきなさい!! 今日は寝かさないぞ〜〜!!!」
「まぁまぁ、亜沙ちゃんったら……まだ合宿は始まってませんわ♪」

 亜沙の叫びに、カレハのやんわりした一言が釘を刺します

「そ、それより楓ちゃん、別荘って……」
「そ、そうですね やっぱりシアちゃんやリンちゃん並のお金持ち……とか?」
「流石にそこまで凄くは無いと思うけど……それでも私達には想像もつかないよね〜」
「でも一度は行ってみたいと思ってたから、楽しみだよ〜」

 別荘、と言う単語に、料理研究部の皆は、別の意味で色々想像することになりましたとさ


 と言う事で数日後……

「流石に四つの部活が集まるとなると、馬車を使う訳にはいきません ……ので、乗馬の成績が悪い人間、あるいは乗馬の自信の無い人間は今のうちに手を上げなさい」
「あ、あの〜……」

 彩井学園の門前に集まった、四つの部活の全員に対する点呼が終わると同時に、さわ子が代表して声を上げますが……
 なんと、さわ子の後ろにいた、宇佐美が、生徒の誰よりも早く手を上げていました

「あ、あの〜……宇佐美? 手を上げてるって事は、やっぱり……」
「だ、だってぇ〜 ホントに自信が無いんですものぉ〜!」
「だからって、生徒より先に手を上げる必要はないじゃない!?」
「手……手を上げ損ねた……」
「全くなのですよ〜……」

 さわ子と宇佐美の言い会いに、なずなと奏はちょっとだけ泣きたい気分になる
 一応なずなや如月、奏や空と言ったME科一年に乗馬の授業が有って、テストの落第者もいなかったのですが……流石に長距離移動するとなると自信が無いのも事実だったりします

「佳澄美、美佐枝さんからラクリマを借りてきたから連れて行け……そうすればうちのヤマトと連絡を取り合えるから……辛くなったらいつでも連絡をするんだ」
「も、もう……透夜ちゃんったら……心配しなくても大丈夫だよ〜」
「そ、それより二人とも……私の押し付け合いはやめてほしいんだけど……」
「仲が良いのは悪い事じゃニャいけれど……ここまで来ると、酷いわね……」

 そんなさわ子と宇佐美を見ているなずな達の後ろでは、素猫・ラクリマを押しつけ会いをしている、佳澄美と透夜の姿が有ります
 その透夜の頭の上には、彼の飼い猫で、ラクリマと同じ素猫のヤマトがのっかっています

「後ろを向くんやない……向くとアホが移る……」
「「は、ハイ……」」

 その様子に気付いたなずなと奏でしたが、それに気付いた芦原によってそれを止められます

「それより魚住に須尭!保村に根岸! 乗馬の経験が少ない連中と一緒に乗っとってな〜!! 山中先生とさめちゃん先生は役に立たんわ!!」

 芦原の叫びに気付いたさわ子と宇佐美は膝を抱えて落ち込みます ……が、それに同情する人間はいませんでした

「それじゃ、出発……進行〜〜!!!」

 全員が馬の上に乗った……それを確認した亜沙は全力で腕を空に向けて上げ……声を高らかに上げましたが……

「……そういえば、例の別荘でどの方向に行けば……?」
『あ……』
「あ、あの、とりあえず、まずはこのまままっすぐです……」

 別荘のある場所が分からず、後ろにいた紬に、行く方向を尋ねるのでした

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、とうとう夏休み突入となりました
 けいおん!が入ってる以上、ムギの別荘を出さない訳にはいかないでしょう(ぉ)
 今回は聖霊機ライブレードから、主人公透夜の飼い猫・ヤマトが初登場となりましたが、原作では大けがをしてサイボーグ猫にされた、と言う経緯から素猫に……(笑)
 勿論「ヤマト」と言う名前からして、彼女(?)は黒猫ですよ〜 って、どうでもいい情報だったか……?

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