「うあぁ―――!集中力が続かないよぉ〜〜!」
「ね、ねぇ……一旦休まない……?」
「おいおい二人とも……まだ始まってから30分しか経ってないじゃないか」

 テストで赤点を取り、補修を受ける羽目になった唯とこのみでしたが……その為の勉強を始めて30分程経ってから、いきなり泣きごとを言いだし始めました
 二人の様子を見に来ていた奈三子は、隣にいた澪と顔を合わせて、お互い溜息を付くことしか出来ませんでした

「唯ちゃん、このみちゃん」

 料理研究部の面々や理樹と共に、二人の勉強を見ていた紬は、隣の椅子に置いてあった箱を二人に見せます

「そ、それは……っ!」
「ま、まさか……っ!」
「なずなちゃんのお手製と一緒に、これ……後で食べよ?」
「「う……うおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!」」
「「さ、さすがムギ……」」

 紬の一言で、やる気が満点になった唯とこのみ……
 それを見ていた側は、澪と奈三子の一言に、只頷くことしか出来ませんでした

「ちゃーっす! このみに唯!調子はどっすか!?」
「あ〜!よっちにちゃるだ〜!」

 そんな時に乱入してきた、吉岡チエ、通称よっちと山田ミチル、通称ちゃる……共にTH科一年の二人により、勉強は強制終了となってしまいます

「全然進んでない……このみ、この調子だと先輩に嫌われる と言うか、向阪先輩に取られる」
「あ、あうぅぅぅ……そ、そうだよね……」

 ミチルの一言に、このみは大好きな幼馴染の男子・河野貴明の顔を思い浮かべて、テーブルに顔を埋めてしまいます

「このままじゃ効率悪いからな……一旦実技に行こうぜ こっちはあたしでも手伝えるぜ〜♪」
「ホントにぃ〜?」
「ホントだ 律は実家じゃあ何時も料理してたからな」

 唯とこのみの状況が思わしくない……そう思った律が提案をしますが、その場にいた皆に疑いの目を向けられます
 
 そして律の指導で二人の作った料理を食べてみると……

「何故だ……」
「え?」
「何で律がこんなに料理教えるの上手いんだ!」
「そうっすよ! 律は料理が下手じゃなきゃダメっすよ!」
「何、この展開……」

 問答無用に奈三子がキレてしまいます それに同意するように、チエもテーブルを激しく叩いて同意します
 その二人の態度に、律は少し泣きたい気分になってしまいます

「と、ともかく、この感じだと、補修は大丈夫そうね! なずなちゃん、これはお祝いの準備をしなきゃ駄目ね!」
「うん、そうだね」
「いや、ここは逆に……失敗した時に罰ゲーム、ってのは……どうだろう?」

 紬の提案になずなが答えたその時、ミチルの一言に、唯とこのみはや〜な予感が全身に湧き出して行った……


   ひだまりメイドラプソディー 第二十八話 補修!(後半)


「罰ゲーム……ねぇ……」
「やるのは亜沙先輩で慣れてますが……内容は決まってるんですか?」
「……楓……言うようになったね……おねーさんは嬉しいよ……」

 ミチルの一言に、亜沙はニヤリ……と嫌な笑い方をします その笑顔に、料理研究部二年生陣は背筋に嫌な物が流れ出てきます

「そうねぇ……なずなはこの前、八百屋に行った事があったんだっけ?」
「は、ハイ、そこの子にカボチャをぶつけられちゃいましたけど……」

 もしかして、メイド服を着ながら、そこに行くのが罰ゲーム? ……なずなはそう言いたそうな表情になります

「実はそこの隣に、パン屋があるの、知ってるでしょ?」
「えっと……古河パン……でしたっけ……」
「そう!」

 しかし、亜沙はその表情を計算に入れたような顔で、続きを放します

「あの店はね……店長さんの腕が良くって、それなりの売り上げがあるんだけど……あるのよ、一種類だけ……」
「あ、あるって、まさか……」
「そう……一種類だけ凄いのがあるのよ……」
「凄いって……凄く美味しい、って意味じゃ無いです……よね……?」

 亜沙の言う「凄い」と言う意味を確認するように、唯が上ずった声で亜沙に聞きます

「そりゃあ勿論……ね このボクがこのタイミングで凄く美味しいパンを紹介するような女に見える?」
「いえ……見えません……」
「ふふっ! 流石なずな……良く分かってるじゃない♪」

 亜沙の一言に、なずなは只溜息を付くことしか出来ません

「嘘だと思うなら、なずなに道案内してもらって、行ってみたら? きっと嘘だと思った事を後悔することになるから……」

 亜沙の笑顔に、唯とこのみは気押され、只真面目に勉強する事を決意するのでした
 しかし……

「これで良いのかなぁ……?」

 理樹は只一人、こうぼやくしか無かったのです

 そして数日後、補修結果が出る日……

「二人とも、大丈夫かな……」
「大丈夫大丈夫 二人とも頑張ったしな〜」
「うんうん」

 寮の食堂で、心配そうな表情をする澪に対し、律は楽観的な意見を出し、なずなもそれに同意をします

「み、みんな……」
「あ、唯にこのみ! だ、大丈夫だった!?」
「「ど、どうしよう……」」

 現れた二人に、澪は心配そうに駆け寄りますが、その二人の返答は重苦しい物で、澪達は最悪の結果を予感してしまいます

「「満点取っちゃった……私達ってすげぇ……」」
「……お前らは何でそこまで極端なんだ」

 唯とこのみの結果に、律は只呆れたような声を上げることしか出来ませんでした

「いだだだだだ! 割れる割れる割れる割れる!!!」

 そんな時、空気を切り裂くような悲鳴が上がり、なずな達はその方向を向くと……
 環が雄二の顔にアイアンクローをかけ、そのまま宙に持ち上げていました

「……もしかして、ユウ君……」
「……多分、そのもしかして、だな……」

 このみの「再補修?」と言いたげな表情に、周りの人間は只それに同意することしか出来ませんでした
 そして……

「マナよ、我が求めに応じよ……オーラとなりて、攻撃の力となれ! インスパイア!!」
「ちょ、それ、筋肉増強系……ぎゃぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
「ユウ君、哀れ……」
「同情はしないけどな」

 環の魔法で、顔にかかる力が増して、悲鳴を上げる雄二に思わず十字を書くこのみでしたが、奈三子の一言には激しく同意するのでした
 そしてなずなは、目の前の展開から、平凡な結果ながら、補修にならずに良かった……そう思ってしまうのでした

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、ようやく一年生一学期編も今回で95%が終わりました ……で良いのかな?(笑)
 夏休み編は合宿と特別授業、二つの大きなプロットがありますが、どっちを先にやるべきか……のんびり考えさせてもらいますか

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