世の中、目に見える物が全てではありません
 確かに、人間は目に見えるものばかりに拘り、目に見えない物を疎かにする事が多いでしょう
 しかし、友情……愛情……そう言った目に見えない物を見る為の努力を、忘れてはいけないのです

 ……そして、目に見えない物と言えば……

「……ねぇ、如月ちゃん……」
「……な、なんですか?なずなちゃん……」
「……私、今、このみちゃんと唯ちゃんの口から……」
「……なずなちゃんもですか? 実は私も見えるんですよ……」
「……か、奏も見えるのですよ……」
「……うん……私も……良く見える……」

 テストが終わり、週があけて次の月曜の最初の授業が終わり……
 机に置かれたテストの答案用紙を枕にするかのように、このみと唯が突っ伏している所に、なずなと如月、そして奏と空がその様子を窺っています

「みんなも見えるんですか? 唯ちゃんとこのみちゃんの口から魂っぽいのが出てるのが……」
「ムギちゃんもですか……コレはもう確定ですね……」

 そう、普通の感覚からすると、絶対に見えないであろう人の魂と呼ばれる物が、唯とこのみの口から出ていたのです

「どうして……こんなことに……」

 なずながそう呟いてしまうほど、唯とこのみの状況は酷い物なのですが……

「いや、単純に唯とこのみが赤点を取って、魂が出そうになってるだけでしょ?」

 突然乱入してきた和の冷たい……冷たすぎる一言が、その場の状況を簡潔に示していたのです

「それより二人とも、とっとと起きなさい」

 そう言って、和は二人を優しく起こそうとするのですが……

「「う〜ん……あと五分……」」

 ゴスゴスッ!!
 唯とこのみのユニゾンで、しかもお約束な返しに、和はなずな達の止めるヒマの無い程の素早い動きで、二人に鉄拳制裁をかますのでした……


   ひだまりメイドラプソディー 第二十七話 補修!(前半)


「全く……こうなるんだから、普段からちゃんと予習復習をなさい、って言ってたのよ?」
「ごめんなさい……」
「それより弟……お前、大丈夫か?」

 そして昼休み……このみの目を見据えて説教をするのは、このみがこの彩井学園に入るきっかけとなった、KN科三年の向坂環です
 その隣には、透夜から弟と呼ばれ、そして最初の授業の時のこのみや唯同様口から魂が抜け出ているKN科二年の男子生徒……環の弟の向坂雄二がテーブルに突っ伏していました

「くそぉ〜!!! てか、コレは差別だろ、差別!! 俺は全力で痛い目に会ってるのに、何でこのみは説教だけで済んでるんだ!!!!」
「あ、復活した」
「復活したな」
「おう、意外に良い筋肉してるんじゃねぇか、向坂のやつ!」
「……いやいや、顔に筋肉もへったくれも無いと思うけど? それに三人とも……雄二が復活してるのは何度も見てるじゃない」

 いきなり椅子から立ち上がって、大声を上げる雄二に、透夜と謙吾、真人は感心しきり(約一名、妙な方の関心ではあるが)の表情になる
 そして真人の妙なボケにツッコミを入れつつ、理樹は雄二の口から魂が抜けだす、数分前の事件を思い出していた
 それはなんと、環が雄二の顔を、いわゆるアイアンクローの要領でつかみ取り、そのまま持ち上げた、と言う事です
 しかし、この件は透夜たちが、この彩井学園に入学した一年前から、何度か見ていましたが、その度に雄二の顔には環が力技だけで持ち上げた、と言うはっきりとした証拠がくっきり残っているのです

(つまりは環先輩は筋力増強系以外の魔法は使ってない……って事だよな……)

 透夜は環の手の跡がはっきり付いている雄二の顔を見ながら、冷静にそう分析をしていました

「だけど、平沢さんはともかく、このみはここの受験勉強はかなりやってたよな?」
「あ、タカ君!」

 透夜たちの隣に、自分の注文したトレーを持った男子生徒……このみや向阪姉弟の幼馴染であるKN科二年河野(こうの)貴明が現れます

「私だってちゃんと勉強してたよぉ!」
「私や憂に料理を教えて、って泣きついてたのは何処の誰だったかしら?」

 貴明の一言に、唯は憤然と抗議を行いますが、和の一言で、あっさりと撃沈してしまいます

「憂……さん?」
「ああ、なずなは知らなかったっけ? 憂って言うのは、唯の妹なの」
「……妹に料理を教えてもらうME科って一体……」

 和の説明に、思わず透夜は呻きますが、唯にとってはそれがトドメになってしまいます
 なずなもなずなで「普通逆……だよね?」と言う表情になってしまいます

「ともかく、だ! 真人!謙吾!」
「おう」
「何だ?」

 グダグダになりつつある空気に、いつの間にか昼食を食べ終えた透夜は立ち上がって手を叩きます

「お前らの筋肉を借りる! 弟の補修をなんとか終わらすぞ! ……鍛錬場に連れて行け!」
「「おう!」」
「お、おい!ちょ!放して!」
「ユウ君、哀れ……」

 真人と謙吾にずるずる引きずられていく雄二に、他人事ながらこのみは十字を切ります

「他人事みたいに言ってるが、お前も関係ないを通せれる状況じゃないの、分かってる?」
「え?」

 透夜の一言に、このみは思わず透夜の方向を見ます

「理樹、その二人、頼むな」
「勿論 佳澄美さん借りるけど、良いかな?」
「……まぁ、状況が状況だし、いっか」
「あ、あのー……」

 透夜と理樹の会話に、このみは割りこもうとしますが……いつの間にか後ろに来ていた理樹に首根っこを掴まれ、そのまま唯共々、調理室に連れていかれました

「……このみちゃんと唯ちゃん……大丈夫かなぁ……?」
「多分大丈夫よ ……むしろ、向阪先輩、だっけ……?」

 このみと唯の表情から、なずなは不安にかられますが……和の一言に思わず納得してしまいます
 数分前の環の行動からして、雄二が凄い目に会いそうな予感を覚えたからです

「まぁ、アレは自業自得だ それより、理樹達のフォロー、しなくていいのか? あの一年達、お前らの友達だろ?」
「「……あ」」
「ME科の事はよく分からないから、このみの事、頼むね」

 透夜と貴明の一言に、なずなと和は、これから起きる唯とこのみの補修の準備を手伝う為、調理室に向かう事にしたのでした

 次回に続く

 あとがき
 と言う訳で、テスト結果……と言うよりは、補修が出たかどうかの話なんですけどね
 今回の初登場は、To Heart2から主人公の貴明と向阪姉弟になりますね んで、一応貴明×このみの予定……になるのか?
 それより、和がちょっと酷い事をさせたような……(笑) まぁいっか♪

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