彩井学園には5つの学科が有ります
 未知なるものを探すTH科、武術と忠の心を学ぶKN科、魔法と錬金を学ぶMG科、金属の加工を学ぶBS科、そして彩井学園に最初からあったME科……
 もちろん学科ごとに重点的に学ぶ部分は有りますが、MG科が武術を、KN科が魔術を学ばないと言う事は無いのです
 そして、それ故練習試合の組み合わせも、KN科同士、MG科同士、と言う組み合わせじゃない勝負も幾つか出てくるのです
 その手の勝負が始まるとなると、リトルバスターズのような者達の言葉によって、観客があっという間に集められることも少なくありません

「くっ……幸運の女神様の前じゃあ、情けない所を見せられない、って所かしら?」
「そう言うお前の方は、何時もの実力を発揮できてないんじゃねーの?」

 そしてこの練習試合、鍛錬場で剣を交える二人の片方……南リリはMG科に所属していながら、KN科トップクラスの実力者である、内藤律太相手に武術勝負で負けない勝負をしているのです
 もちろん使ってる武器は、相手を切り殺さないように刃を潰した物を使っていますが、それでも相当の実力者が使って、当たり所が悪ければ死ぬ可能性も有ります
 それ故、練習試合とはいえ本気勝負となると、治癒魔法や防御魔法の得意なMG科の生徒の立会が校則によって定められています 無論「得意」ならば、ME科やTH科でも問題は無いのですが

「どう、なずな? 憧れの騎士様の戦いっぷりは?」
「どう、って言われても……なんか凄すぎて、なんて言ったらいいか……」

 律太とリリの勝負に、心配そうな表情をして眺めていたなずなを少々意地の悪い表情で聞いた眼鏡の生徒は、TH科三年の橘沙英と言い、古の遺跡を巡ってその時の恋愛模様等を研究して、それを文章にする、と言う野望を持っています

「じゃあ魚住、可愛い一年達に解説お願いね」
「俺かよ……まぁ良い 見てわかる通り、今の所単純な剣での勝負だ……それだけでの勝負なら、腕力と技術で勝ってる内藤先輩がこのまま押し切って終わりだ」

 魚住の解説を聞きながら、なずなは目の前の勝負を眺めます
 魚住の言う通り、このまま剣だけの勝負だったら、魚住先輩の言う通りになるかも……となずなは思います しかし……

「リリ先輩はMG科……だから魔法を使われたらアウトだ……お前はそう思ってるだろ?」
「……っ!!」

 魚住のその一言に、なずなは弾かれた様に魚住の顔を見ます 魚住の言う事はすべて当たっていたからです

「とりあえず見てろ 内藤先輩とて、一応魔法は使えない訳じゃあない」
「リリ先輩だって、剣での勝負で内藤先輩に負けてないでしょう? その逆もまた然り……そう思わない?」

 魚住と紗英の言葉に、なずなは改めて律太とリリの勝負に目を向けると……そのタイミングを狙い澄ましたかのように、リリの膝蹴りが、彼女に飛びこんで切り込もうとした律太の腹を直撃していたのです!!

「律太さんっ!!!」

 その様子を目の当たりにしたなずなは、思わず叫んでいました


   ひだまりメイドラプソディー 第二十三話 真剣勝負


「くぅ……っ!」
「マナよ、烈風の如く進め……!」

 痛みで表情をゆがめる律太を追い詰めるかの如く、リリは腰に有ったロッドを手に取り、魔法の詠唱を始めます

「超神速の炎魔法、イグニッション!リリ先輩の得意魔法!!」
「ヤバい!先輩は完璧に本気だ!!」

 その詠唱の内容を理解した魚住や沙英等、一年以外の観客達は完璧に引き腰になっています

「紡がれる言葉……そして……っ!」
「アイスバニッシャーの詠唱……?まさか、リリ先輩の攻撃を相殺するつもりじゃあ……!」
「律太さん……っ!!」

 リリの姿を確認した律太も、ロッドを手に取り、魔法の詠唱を始めます
 二人の詠唱が始まったと同時に、二人のロッドの先から大きな魔法陣が現れ始めます

「破壊となりて、かの者達を包め! イグニッション!!」
「マナの振動すら凍結させよ! アイスバニッシャー!!」

 魔法の詠唱が終わると同時に、リリの魔法陣からは地を走る獄炎が、律太の魔法陣からはその炎を包み込むような氷のつぶてが飛び出します
 その互いの力がぶつかり合うと、そこから激しく、そして強い衝撃波が撒き散らされます

「きゃああぁぁぁ……!!」
「な、なずな殿!」

 なずなはそれに吹き飛ばされそうになりましたが、隣にいた雅に間一髪助けられます
 力のぶつかり合いは最初互角であった物の、徐々にリリに有利になって行ってしまいます 

「くぅ……っ」
「律太さんっ! 律太さん!!負けないでぇっ!!!」
「……っ! マナよ、力となれっ!」

 そんな状況下、律太の表情は苦しそうに歪み、それを見た瞬間、なずなは思わず叫び出していました
 その声が聞こえたのか、律太の表情はまっすぐリリの方を向き、更なる魔法の詠唱を始めます
 しかし、二つの魔法の同時使用には相当な技術と魔力が必要で、大学部MG科の中でもリリを始めとして、数えるほどしかいないのです

「マナよ、燃え盛る火炎となれっ!」

 それでも、律太の追撃が来る、と言うのを理解しているのか、リリも次の攻撃を開始します

「立ちふさがり者を打ち払え! マグマブレイズ!」
「そして雷を纏いて敵を打て! ライトニングファイア!」

 律太の魔法の詠唱が終わると同時に、リリは自分の足元が激しい熱さに包まれますが、それを無視して自分の魔法の詠唱を終わらせます
 しかしリリの雷を纏った炎の魔法も、リリの足元から炎が噴き出る律太の魔法も、出ることは有りませんでした
 そう……最初に二人が放ったイグニッションとアイスバニッシャー、二つの力の均衡が完全に無くなり、それぞれの力が詠唱者の方に跳ね返って言ったのです
 その力の直撃を受けた二人は、そのまま後ろに吹っ飛ばされ、そのまま気絶してしまったのです……


 結局、律太とリリ、二人は保健室へと運びこまれ、観戦していた雅達MG科の生徒や、保健室にいた保険医・桑原の手によって、応急処置を施されました

「ん……」
「り、律太さん!」

 そして処置の結果、酷いけがをしていなかった二人は、すぐに目を覚ましました

「律太さん!律太さん!! 良かったよぅ……!」
「あー……すまん」

 律太は、感極まって自分に抱きつきながら、只泣くだけのなずなに、気まずそうな表情をしながら、なずなの頭を撫でます

「全く……羨ましい身分よねぇ そこまで心配してくれる人がいるなんて……」
「……いたのか」
「最初っからいるわよ! 全くもう……私の心配してくれるのは、みさとと柴田とムサい男なのに……」
「マテ、ムサい男って何だ」

 あれだコレだ、と口で文句は言う物の、リリの表情は可愛い女の子に泣きながら心配される律太に対する冷やかしであり、不満げな表情はむしろリリに酷評された上野の方であった

「グスッ……律太さん、ホントに大丈夫……?」
「あぁ、魔法の連続使用で疲れてるだけだ むしろなずなの応援が無かったら今頃、リリに焼き殺されてた所だぞ」
「えぇっ!?」
「ははっ!冗談冗談!」

 律太の態度に、なずなはちょっとだけ怒った表情になるものの、とりあえず律太が酷い状態じゃ無いと言うのに、安堵したような気持ちになります

「さて、私はもう帰るわ ……内藤君」
「何だ?」

 ベッドから立ち上がったリリは、真剣な表情と言葉を律太に投げかけます

「次は、勝たせてもらうわよ」
「そのセリフ、そのまま返させてもらう」

 そして律太の言葉に満足したような顔になり、ふらつきながらも上野や柴谷に支えられながら保健室を出て行こうとする所で、一旦立ち止りました

「なずなちゃん、そこのバカの面倒、お願いね」
「は、ハイ! って、律太さんはバカじゃないです!」
「ふふっ、そう言ってくれる人がいる内藤君が羨ましいわ それじゃあ、また明日」
「とっとと帰れ!」

 律太の怒ったような一言に「怖い怖い」と言いながら、リリは今度こそ保健室を出て行きます

「やれやれ……まぁ保健室を病院代わりに使うのは問題だしな 俺達もそろそろ帰るか」
「はい!」

 律太の言葉に笑顔で答えて、なずなは律太を支えながら保健室を出て行きました……その姿を見た雅は

「なずな殿も律太殿も中々に鈍い……キスの一つもすればいい物を……」

 と少し呆れたような表情になっていましたとさ

 次回に続く

 あとがき
 とりあえず、剣と魔法と魔物が出てくるファンタジー、と言う設定の為、こー言うバトルシーンは外せないと思って出してみました
 それにしても、律太とリリの能力がチートすぎたような気もしますが、まぁ良いか(笑)
 んで、ついでにひだまりスケッチから紗英さんが(ようやく)初登場です 今回は魚住と共に単なる解説役でしか無かったんですけどね(笑) 普通ここはぶちさんで行かすべきだったんでしょうが

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