怪談……それは簡単に言えば、仲間内で集まって怖い話をする、と言う物です
 単純にこの手の話に怯える人達と、その様子を見て楽しむ人達……そして、その手の話を聞くのが楽しい人達……恐らく人は怪談に対して、この三つの印象に分かれるのでしょう
 そして……

「ホラ、さっさと来い!」
「いやぁ!嫌だ!止めろ!離せ!」
『…………』

 前回、怪談をやろうと言いだした律は、相棒とも言うべき澪の両腕及び両足を縛り、なずな達がいる食堂に姿を現しました
 その様子を見て、なずな達はこれから始まる怪談よりも、澪のあからさまな怯えっぷりに大なり小なり恐れを抱いてしまいます

「さて、各々知人友人を連れて来たと思う」

 澪を椅子に縛り付け、その隣に座った律は、周りにいる友人を見渡し、一言そう言いました

「まず最初のネ……」
「ギャ――――!」

 いざ最初のネタを言わせてもらう! ……そう言おうとした律は、その叫び声に出鼻をくじかれます
 その声の主は、澪ではなく、その隣にやはり縛られているTH科一年にて、ME科一年・周防院奏のルームメイト、上岡由佳里だったりします

「よもや出鼻をくじかれるとは思わなかった……」
「にしても、良くもまぁここまで怖がりを集められたもんだな……」

 出鼻をくじかれて落ち込む律の隣で、奈三子が呆れたように声を上げる
 その奈三子の視線の先には、澪や由佳里同様椅子に縛られていることみや貴子、そして……

「き、筋肉筋肉――――!」

 何故か全身縛られ、筋肉と連呼する真人と、その隣で苦笑を浮かべる理樹と謙吾がいました

「それより、私は井ノ原先輩がお化けの事苦手に思ってるなんて、吃驚しました」
「あ、当たり前だろ! 筋肉が通用しないんだぞ! お前らは怖くないのか!?」
「そんな理由で幽霊怖がるのはお前だけだ」
「そんな事言ってると、また鈴に蹴られるよ?」

 乃莉の率直な疑問に対する真人の声に、思わず理樹と謙吾は呆れた溜息とコメントを出してしまいます

「……なんていうか、如月ちゃん……」
「何ですか?なずなちゃん」

 そんな状況下、縛られずに済んだなずなは、同じく縛られずに済んだ如月に、自分の思っている事を素直に口にする事を決意します

「えっと……怖くないって言ったらウソになるけど……」
「はい、澪ちゃんやこのみちゃん達の怖がりようはちょっと酷いですね……」
「やっぱり如月ちゃんもそう思う?」
「「……はぁ……」」

 別に怖い話を聞きたかった訳ではないものの、この状況下になずなと如月は只ため息を吐くことしか出来ませんでした


   ひだまりメイドラプソディー 第二十話 怪談!


「と言うよりりっちゃん!何で上級生がここにいるのさ!? しかも風紀委員とか生徒会の目の前でこんな事やって良いの!?」

 とっととこの状況が終わればいい、そう思ってるなずなと如月の心境をよそに、唯は律に皆が思っていた事を(ようやく)聞きます

「一応取り締まるべきなんだけどね こー言う状況になると止まらない人が多いから、こっちとしては規制できないのよ……アレもコレも全部奇人率の多さが悪いのよ……」

 しかし唯の疑問に答えたのは、律ではなく、いつの間にかここにいた風紀委員の佳奈多でした その隣には、委員長の瑞穂が妙な行動に出ようとするまりやと紫苑を抑え込むのに必死になっています

「そんな事より、私としては、貴子先輩が幽霊苦手だったなんて知らなかったわ……」

 そんなバカをやっている三年生三人を無視し、佳奈多は残りの三年生で、ここにいない幽霊にビクビク怯えている貴子に目を向けます
 その佳奈多の一言に、なずなや如月も、この日初めて会った彼女のおしとやかだけど、怖いものなんてなさそうな印象を貴子の豹変に、同意をするように頷きます

「ゆ、ゆ、ゆ、幽霊なんていませんわ! ウ、ウ○トラマ○と一緒ですわ!」
((ウ、ウル○ラ○ンって……))
「そんな事言っていいのかね、厳島のお嬢ちゃん」

 貴子の一言に、どうコメントして良いのか分からないなずなと如月をよそに、一人の老婆が笑いながら彼女に話しかけます
 彼女はこのひだまり荘の管理人であり、同時にここの料理人である杏子の祖母だったりもします

「お、お、お、お婆さん!何を言ってるのですか!?」
「…………」
「お、お婆さん?」

 完璧に怯えた様な貴子でしたが、婆さんはそんな貴子のリアクションに気付いていないかの様に身動き一つしていません

「ま、まさか……」
「な〜〜〜んてな〜〜〜!死んだフリ〜〜〜!」
「お婆ちゃん……そんなリアルなボケ、止めましょう、って何時も言ってるでしょう……」

 死んだんじゃあ……そう思おうとした貴子達の目の前でいきなり叫び声をあげ、笑い出します
 それで完全に腰を抜かした貴子の変わりに瑞穂がツッコミを入れます

「き、筋肉筋肉〜〜〜〜〜!!」

 そんな時、筋肉達磨の大男……真人がいつの間にか自身を縛っていたロープを振りほどき、食堂から逃げて行きます
 その近くにいるこのみは怪談と婆さんのボケにガタガタ震え、澪と由佳里は最早気絶していたりします

「そ、それよりお婆ちゃん……さっきの話なんだけど……」

 そんな怖がり達をきれいさっぱり無視して、なずなは婆さんの言おうとしていた事を聞き出します

「ああ、あの話な……あれは25年程前じゃった……」

 婆さんの話によると、当時の風紀委員長だった女の子に憧れていた病弱な女の子がいたらしい……
 ある日風紀委員長の女の子が卒業後、結婚すると入院していた所で聞き、病室から抜け出してその憧れの女の子の住んでいた部屋まで行く決意をしました
 しかし暑い日が続いていた夏休みのその時期、強烈な熱を発するまぶしい太陽が病弱な少女の体力を徐々に奪い、その部屋に付いた時にはもう……

「あ、奏もその話、聞いたことがあります! その風紀委員長さん、実は瑞穂様のお母さまで、その縁で瑞穂様はその部屋を使ってらしたんですよね!?」
「そうじゃそうじゃ ……っと、話を戻すぞ まぁ結局そのお嬢さん……「一子ちゃん」は死んでしまったんじゃがのぉ……二年前、そこの宮小路の坊ちゃんがここに来た時たまたま……」

 幽霊として、ひだまり荘に出てきた……婆さんがそう言う必要もありませんでした
 その場にいた一二年(最早気絶している澪と由佳里を除く)の表情は真っ青を通り越して白くなっています

「今や宮小路の坊ちゃんの活躍で成仏したんじゃが……一応厳島のお嬢ちゃんも何度かあった筈なんじゃがのぅ……」
「いいい、言わないで下さいまし!一子さんは幽霊らしく無かった物で……あら?」

 婆さんの言葉に恥ずかしそうに真っ赤になる貴子でしたが、不意に何かを思い出したような顔になります

「ほぅ、気付いたか 何だかんだ言っても厳島のお嬢ちゃんじゃな」
「ど、ど、ど、どーいう意味ですか!?」
「その幽霊のお嬢ちゃんは、まだ成仏しとらん、って事じゃよ〜 ほ〜ら、美空のお嬢ちゃんの目の前に……」

 婆さんに言われて、なずなは目の前を直視すると……そこには、ME科の制服を着た白い女の子がいました
 その表情は青白く、到底生きている生物の物で無い事は、一目で分かる物でした

「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 それを理解したなずなは、悲鳴を上げて……数分前の真人同様、走って食堂を出て行ってしまいました

 次回に続く

 あとがき
 とうとう二十話まで到着しました なんかもう無茶苦茶な展開ですね(苦笑)
 今回は澪を只怖がらせるだけの話にする予定でしたが……ちょっと怖い話をしただけでドロップアウトに……
 んで、今回「イチロー!」から婆さんが、「乙女はお姉さまに恋してる」から由佳里と一子が初登場ですが……婆さん書くの楽しいですね
 微妙にナルトのチヨ婆さんっぽく書いてしまいましたが、まぁいっか(笑)
 にしても、真人を怖がりにしたのは、色々不味かったか……?

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