一陣の強い風がその場に吹く……なずなや如月、唯達はその風に思わずスカートがめくれないように抑えます
彼女たちの目の前にあるのは、普段は主にKN科に通う生徒達が使う修練場です そしてその場には、その場に相応しい、KN科の生徒たちが中心に円陣を組んでいます
その中心に二人の生徒が対峙しています 片方はKN科二年井ノ原真人……そしてもう片方は同じくKN科二年フェイン・ジン・バリオン……そう、二人はこれから練習試合をするのです
お互い真剣な表情で互いを睨みあい、己の拳を相手にぶつけようと構えます……
その雰囲気に圧倒された生徒の息が飲み、その試合が始まります……
「俺の筋肉が光って唸る!!お前を倒せと輝き叫ぶ!!!」
「俺の拳が真っ赤に燃える!!勝利を掴めと轟き叫ぶ!!!」
そして互いの拳と拳がぶつかり合う……そう思った生徒たちの期待は、あっさりと裏切られます
「「ひっっっさつぅ!キングオブはべしぃぃぃぃぃ!」」
その叫びから、二人は初っ端から必殺技とも言うべき大技を出す……かと思いきや、その二人はセリフの途中で遮られ、その顔を地面に叩きつけられます
そんな二人の後ろには、ハリセンを持った二人の生徒……真人やフェインと同じKN科二年の生徒である風見透夜と宮沢謙吾が、呆れ顔で立っていました
「お前ら、そのセリフは色々マズいから、止めろつってんだろ!何度言えば分かるんだ、このダホ共が!全く……」
「いや……その二人、もう気絶してるんじゃあ……」
もう一人の生徒……やはりKN科二年の土見凛の一言に透夜と謙吾は倒れた二人を見ると……凛の言う通り、気絶して物言わぬ物体となっていたのである!
ひだまりメイドラプソディー 第十七話 鍛錬!
「んで、何でME科がわざわざここに?」
「え……えっと……実は……」
真人とフェインの練習試合の名を借りた、おバカな騒ぎから数分……静かになった修練場に残ったなずな達の存在に、透夜は正直な疑問をぶつけます
ちなみにハリセンで殴られた二人は、いまだに気絶しており、謙吾と凛の二人に木刀でツンツンつつかれていたりします
「今日、授業で武術修練があったんですけど……あんまり上手にできなくて、放課後乃莉ちゃんや澪ちゃん達に教えてもらおうと思って……」
「成程ね」
フェインを木刀でツンツンしていた凛が、なずなの答えに納得したように頷きます
「そー言う事情なら、俺達も手伝った方が良いと思うが?」
「確かに そちらが問題無ければ、だが」
凛と共に真人をつついて遊んでいた謙吾は、透夜の提案にすぐ頷きます
「そう言う訳だ、真人……とっとと起きろ」
「んがっ!お、俺は何処?ここは誰だ?」
そして真人の頭を蹴飛ばしますが、その真人は妙な事を言いだしてしまいます
「真人、フェイン、お前達の筋肉で教えてほしい事があるんだ」
「な、なにぃ!俺達の筋肉が必要だとぉ!」
「それなら喜んで役に立たせてもらうぞ!」
二人の意識が混濁している、と判断した透夜は、二人を騙して後輩たちの教育に当てよう、と妙な事を言いだします
「よし真人!俺達の筋肉を世の為人の為、ガンガン使うぞ!」
「おうフェイン!俺達の時代が来たんだ〜!」
このまま踊りだしそうな雰囲気の二人に、なずな達は「本当にこの二人に教えてもらって大丈夫なのかなぁ……?」と不安を覚えるのでした
次の日……ちょっとしたバカ騒ぎの後、透夜たちにちゃんとした武道鍛錬を教わったなずな達でしたが……
「いたた……」
「なずなちゃん、大丈夫ですか……?」
「う、うん、なんとか……如月ちゃんは?」
「わ、私もなんとか……」
なずな達は厳しい鍛錬の末、何と筋肉痛に見舞われてしまったのです 唯や空、奏に至っては、その痛みが酷くてこの日、授業に出られなくなった程だから、その痛みは押して知るべきでしょう(笑)
「あれ……?」
「? 如月ちゃん、どうかしたの?」
「いえ、部室が妙に暗いので……」
「あ、ホントだ……」
如月の言葉に、美術室を覗くと、カーテンが全て閉じられてるのか、室内が他の教室よりも暗い印象を持ってしまいます
首を僅かながらにも傾げながら、室内に入る如月となずなでしたが……
ギィィィィ……と妙な音と共に、何かが二人に襲いかかって来ました
「「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
悲鳴と共に、二人は思わず手を出して、それを殴りつけてしまいます
「あ〜!壊れちゃいました〜!」
その言葉に、なずなと如月が目を開くと、いつの間にかカーテンが開かれ、その眼の先には二人が殴った人形らしい物と、それを抱いているBS科二年にて美術部員・神谷朝霞がいました
「そ、それ、神谷先輩が作ったものなんですか!?」
「はい……」
「にしてもお前ら……二人がかりとは言え、良く一撃で壊せれたな〜」
「保村先輩も共犯ですか……」
心底驚きました、と言わんばかりの如月に、やはりBS科二年で美術部員の保村大志は、只大笑いをしています
「それより梶原は?今日休みか?」
「はい、筋肉痛で……」
「何だ、情けないな〜 しっかり体動かしとけよ」
「いえ、動かしたから筋肉痛になったんですけど……」
二人の会話に、なずなは只溜息を吐くだけしか出来ませんでした
(二人がかりでも、人形を壊すほどなんて……)
まぁ、溜息の理由は、二人の会話の内容では無く、自身の筋肉の付き過ぎの方に泣きたくなっただけなんですが
しかし、人形が壊れた理由は、ただ単に人形そのものの強度が弱かった、と言うのに気付いたのは、数時間後の事だったりしますがね
次回に続く
あとがき
今回はメイド候補生が筋力を只鍛えたお話になりました 最初は真人に「筋肉筋肉〜」と只言わせるだけのお話の予定でしたが……(笑)
メイドさんが武術を使うのはちょっと……と思う部分もあるでしょうが……まぁここん所は目をつむってくださいな(笑)