月のスフィア王国 それは、数百年前に地球に住んでいた人類が第二の故郷とするべく町を起こし、たくさんの移民が作り上げた国である
しかし、地球は月の人間を神を気取るエイリアンとして、月は地球の人間を地球を汚す汚染物として嫌いあい、戦争に突入する事になってしまった
その争いの傷跡を癒すには、長い長い時が費やされたものの、その傷はもう少し癒えきれる……地球と月の双方の住民がそう思い始めて行った
お姫様の暴走学園生活プロローグ中編
「流石に36万キロともなると長かったな」
輸送船に降りると共に、隆史は思わず伸びをする
「だらしないな〜 あさみはすっごく元気だよ〜♪」
(つかお前、なんでそんなに元気なんだ)
はじめての外国に大はしゃぎする少女に、少し心の中だけで呆れてみせる隆史だが、近くに控えていた「お出迎え」に気持ちを引き締める
「お出迎えありがとう……ミア」
「いえ、達哉さんや姫様だけでなく、陛下もお待ちしております!」
普通の若い人間には絶対に真似のできないメイド服の少女のしっかりした佇まいに、隆史は毎度のことながら感心する
少女はミア・クレメンティスと言い、月の王族アーシュライト家の専属メイドの家計の一つに生まれた少女で、当然彼女もそのメイドとしての教育を受けて、フィーナが留学の際には彼女がお付きとして認められ、隆史達とも仲良しだったりする
「それで、達哉の容体は?」
歩きながらは不躾かと思いつつも、隆史はミアに聞いてみる 言わなきゃならないことは例え不躾と分かっていても言うのが隆史のやり方であったりする
「はい、元々特に怪我は無かったとかで でも少し衰弱していたもので……」
「なるほどね……いっぺん死んだ人間だからな いくら異星人の超技術とは言え、生き返ったときに特に問題無しと言う訳には行かないか」
ミアの答えに安心しつつ、隣を盗み見る そこには麻衣の安心した表情が しかし「こちらの部屋です」とミアが開けた部屋の光景を見て、三人の表情が一変する
時間が止まった気がする ……後に隆史がそう語ったように、その部屋の光景は一部分だけ異常な光景だった
学者風の男が縛られ、猿轡をされて呻いている その近くには隆史よりも少しだけ年上の女性が立っている そしてベッドの上の患者は国王風の男と将棋をしているのである
「えーっと、あのー」
普段からいい加減だの楽観主義だの言われていて滅多なことでは驚かない隆史でも、この状況には驚きを隠せない それだけの光景がその場所にはあったのである
「ライオネス陛下 達哉さんの妹の麻衣さんがいらっしゃいました」
数日前からこんな感じだったのだろう ミアは完全にその状況をスルーして三人を部屋に招き入れる
「あーえっと……お招きありがとうございますライオネス国王陛下」
何とか気持ちを切り替え、隆史が代表して口を開く 将棋盤の前で難しい表情をしていた男はその表情を温厚な物に変わる
「君が達哉君の親友の隆史君だね 話は娘や達哉君から聞いている ようこそスフィアに 娘が世話になっているそうじゃないか」
「達哉に比べれば自分は何もやって無い……です 逆に娘さんには迷惑ばかりかけれる感が否定できないと言うか……えーっと」
ライオネスに答えつつ、隆史は視線を周りに持って行くが、目的の人物は見つからない
「フィーナなら飲み物やお菓子を用意してるよ」
「ふぅ……ん……人を使わないのが彼女らしいと言うか、何と言うか……」
「家でもミアちゃんと一緒に色々やってくれてましたから」
「家族として扱ってくれる以上、客人としての振る舞いは出来ませんからね」
隆史達が感心するように話すのに割り込むように、話に上がっている月の姫君……フィーナ・ファム・アーシュライトが現れた