お姫様の暴走学園生活プロローグ前半


 地球から発信した一台の宇宙船 そこに乗ってるのは、一人の少年と二人の少女がのっていた 少年……田中隆史は完全に緊張しまくりながら外の闇を見る二人の少女を見て、少しだけため息をつく

(ま、当然か 俺も月に行くのは初めてだし つかはじめて行く外国が月とは夢にも思わなかったしな)

 思いつつ、隆史は外を眺めて歓声を上げる二人の少女 笹川あさみと朝霧麻衣に目を向ける

「麻衣!すっごいねー!お月さままで本当に真っ暗だー!」
「うん!ホントすっごいねー!」

 外を眺めて「すごい」「真っ暗」を連呼する2人に、隆史は「それ以外言う事はないのか?」とからかおうとするのを我慢する
 彼は基本的にいい加減で軽い性格ではあるが、他人をからかったり、嫌がることをするのを嫌う性質であったりする

(しかし……麻衣もある程度は安心したのかね?)

 地球のテレビ越しで彼女の兄・朝霧達哉が月で撃たれたのはつい数日前
 銀河系の外の星の超技術で生き返ったとはいえ、様々な検査のため、月の王国・スフィアの病院に達哉が入院するハメになったのは仕方のないことだろう、と隆史は思う
 そのお見舞いの為に月に麻衣が行くことになったのだが、兄妹の母親は最早亡くなっており、父親は放浪癖があり、現在は三人の目的地である月にいる
 そして兄妹の保護者とも言うべき従姉の穂積さやかや、近所でもっとも信用できる大人である高見沢左門・仁親子も仕事で忙しい為、達哉の親友でもある隆史に麻衣の同行をお願いされたのである
 そのついでと言わんばかりに、隆史は将来の姪となるあさみも連れていきたいとさやかや月の王族にお願いしたのである

「にーちゃん!あとどれくらいで月に付くの?」

 狭い船内や暗いだけの外の景色に飽きたわけではないだろうが、やはり月に対する好奇心は抑えられないのだろう 椅子に静かに座っている隆史に近寄って聞いてくる

「んー……まだまだだな もう30分は掛からないと思うけど」
「そっかー 楽しみだねー」
「そうだな あいつの……フィーナの国だからな」

 あさみに答えつつ、隆史は親友の恋人である月の姫に思いを馳せる
 思い出すのは達哉の亡骸を抱え、泣きじゃくる姿……そして生き返った達哉に抱きついて大泣きする姿……家族や大切な人が死ぬ場面に遭遇した事のない隆史にとって、その生き死にに対するの気持を理解できないとつい考えてしまう
 自身の恋人である笹川早苗もその姪であるあさみも家族と言うものには縁遠く、隆史はそんな2人の家族に相応しくなれるのか?とついネガティブな気持ちになってしまう

「先輩、何を考えてるんですか?」

 隆史の表情の変化に気付いたのだろう 麻衣が神妙な顔で聞いてくる

「ま、色々さ バカだ考えなしだと言われる俺だっていろいろ考えるさ」
「そうですよね〜 おいしいアイスの店があればいいとか考えちゃいますよね」
「なんでアイスやねん ま、そんなボケかませるんだ 兄貴の無事な姿を見れば、もう大丈夫だな」
「あ……はい ご心配掛けました」
「大事な兄貴が殺されたんだ お前さんが何か思わなきゃ嘘さね それに生き返っちまったんだ……謝ることも礼を言う事もないと思うぞ」
「お兄ちゃんの事もあるんですけど……今日こうやって付き合ってもらったのもありますよ〜」
「俺自身達哉が心配だから来たんだからな あさみにも月を見せたかったのもあるしね 日下部とか泉とかがぶーぶー文句を垂れてたが、今回はスルーだな」

 隆史の言葉に重くなりかけた雰囲気が元に戻る その時にパイロットが到着を知らせる無線が入る

「ホラ、到着だ 2人ともちゃんと席に着いてシートベルトをしろよ」
「「はーい!」」

 隆史の言葉に元気よく返事をする2人 席に着く2人を確認した後、隆史は視線を外に向ける

(楽しみだ うん 純粋に楽しみ)

 親友の心配もあるが、それ以上に初めての外国の月の国に、心を躍らせる隆史であった
 

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