その父娘の間に、やや重苦しい空気が渦巻いている ……といっても、娘が唐突に現れた父に驚き、ガチガチに緊張しているだけなのだが
 娘…フィーナのクラスメイトらはそんな二人に気を使って、父ライオネスが注文したものを運んだ後、特に声をかける事はしない

(やれやれ、親や恋人の前じゃあ、やっぱフィーナも普通の女の子かい)

 厨房から二人の様子を盗み見た隆史は、思わず苦笑いをしてしまう

「フィーナよ」
「は、は、は、はい、お父様!」

 父の唐突の一言に、フィーナは思わず上ずった声を上げてしまう

「そんなに緊張するものでは無い 私が今日ここに来たのは、スフィア国王としてではなく、お前の父としてだ」
「あ……」
「つまり、お前が母さん……セフィリアの学生時代同様友達と一緒に頑張っているか、見に来ただけだ だから……な?」
「……!はい!」

 フィーナは父の優しい言葉に、最初は驚き、そして満点の笑顔で応える
 ライオネスはそんな娘の笑顔に、目を細めて答えるのであった


   お姫様の暴走学園生活 学園祭 本番編後半


 ライオネスとの食事を終えたフィーナは、その父とカテリナ祭を回ることになった
 フィーナは最初、自分の仕事がまだやり終えてない……と言う事で、クラスメイトの「休め」と言う言葉に強固に反対していたが、「せっかくお父様が来てくれたんだから、一緒に回んなきゃダメだよ〜」と笑顔で言うあやのの言葉に、フィーナは結局返す言葉を思いつかなかったのだ
 ……多少はあやのの全身からあふれ出る「休め」という強いオーラに当てられた部分はあるのだが
 ともかく、唐突に出てきた父との時間にフィーナは思わず笑顔になるのを止める事は出来ず、嬉しい気持ちを抑えられないでいる
 無論、この父との時間が夢心地と言うのはやや言いすぎなのは事実なのだが

「しかし、学校でやる祭りなど、何処でもあまり変わらんな」
「? お父様も学園祭をやったことがおありなのですか?」
「以外に失礼なことを言うものだなお前は 私とて学校で勉強をした事があるのだぞ」

 ライオネスの言葉に父の学生時代と言う物を想像してみるが、フィーナはあっさりそれに失敗してしまう
 しかし父が、今は亡き母と一緒に学園祭を回ったり、一緒に勉強をしたと言うのは簡単に想像が出来たのである
 とりあえず、フィーナは目に映った美術部の展示に行ってみることにすると、そこにはクラスメイトの大男がエプロンをつけて絵の講釈をたれていた

「? あぁ、フィーナか」
「雨情、お邪魔だったかしら?」
「いや、今区切りがついた所だ」

 フィーナに答えつつ、大男……雨情はライオネスにお辞儀をする 雨情とライオネスが並ぶと、雨情の背の高さがさらに浮き彫りとなる……などとどーでもいい事をフィーナは思ってしまうのである

「しかし、絵が多いものだな」
「ええ、そうですね 美術と言っても色々ありますが、絵が好きな連中が集まってますから」

 部屋に展示されてる様々な絵……風景画や植物を描かれた物が多いが、フィーナは一枚の絵に目を奪われる
 それはこのカテリナ祭の準備を描かれたものではあるが、その絵はあからさまに未完成だと言わんばかりの一枚であった
 しかし、フィーナにはこの絵から目を離す事が出来ないでいた

「あぁ、それはウチの一年が描いた奴なんだが……凄いだろ」
「ええ、未完成だと分かるけど、それが逆に素晴らしいものだと思うわ」
「こちらも凄いな 絵に描かれた人物に対する気持ちがあふれているようだ」
「こっちの未完成もどきの絵を描いたのがそっちの絵のモデルなんですよ」
「「嘘っ!?」」

 雨情の言葉に思わず声を合わせてしまう父娘である もちろん驚くなと言うのは無理な話ではあるが…… 苦笑と共に教室の他の所を見ると、それなりに分厚い本にフィーナの眼が止まる

「ねえ、こっちの大きな本は?辞書にも見えるのだけれど」
「ああ、それは栗原って一年がまとめた……まぁ、その、何だ……辞書であるのは確かだが」

 言葉を濁す雨情にやや業を煮やしてフィーナは本を開く その中身を見て彼女は思わず腰を抜かしそうになる
 それはそうだろう とりわけこのカテリナ学園で出没する虫の系統をイラスト付きで解説しているからである しかもそのイラストは的を得ていて、かなりリアルなのである

「やっぱりそーいうリアクションになるよな 栗原は森とかに出てくる虫とかが好きなんだ ……まぁ、月にはあまり変な動物もいないから驚きはなおさらなんだけど……まぁ趣味は人それぞれだと思ってやってくれ」

 雨情の言葉に、フィーナは何とか頷くことに成功する
 余談ではあるが、フィーナは現在自宅としている朝霧の家で大量のゴキブリに会った事が有り、それが無ければ彼女は確実に意識を手放す自信が有ると後に父ライオネスに語ったのである


 ともかく気持ちを落ち着かせるため、もう少し校内を散歩すると、猫の着ぐるみを着た人が近くにいる、一つの棚に目が行った
 それは沢山のぬいぐるみが展示されており、その一つ一つは高級品と言うには程遠いものの、皆手作りであると言うのが伺えるものばかりだった

 「どうやら買う事も出来るようだぞ 何か欲しいものがあるか?」

 父の言葉に「?」と思わず首を傾げ、もう一度棚を見ると、なるほど確かに値段が付いていて、このぬいぐるみ達を変えると言う事を示していた

「で、ですが……」
「何度も言うようだが、今日私がここにいるのはスフィアの王としての私ではなく、お前の父としての私だ 娘が父に甘えるのは当り前だろう?」

 反論は許さない……穏やかな表情から、そんな強い意思をフィーナは父から感じ取る
 その為、フィーナは父の言葉に素直に甘え、幾つか興味をもった物を手に取り、それを買ってもらう事にした

「あ、そうだ!この猫と写真もどうですか?」

 そこで店番をしていた小さい生徒がデジカメを持って誘ってくる ……何とも嬉しいお誘いか……!とフィーナは嬉しい気持ちであっさりお願いしますと答えてしまう

「榊さーん!」
「ちよちゃん、どうしたの?」
「写真、お願いします」

 ちよちゃんと呼ばれた小さい女子生徒の言葉に、榊と呼ばれる170CMはあるであろう女子生徒が駆け寄り、デジカメを受け取る

「そういえば今、この中に誰が入ってるんでしょうね」

 写真を撮って貰った後、小さいほうの生徒が思わず疑問を口にすると、猫の顔の部分が離れて中にいる人が現れる

「「「…………!」」」

 その中に居る正体に、ライオネス以外の三人の表情が驚愕の一色に染まる それはそうだろう……その人物は、ごく稀に「着替えを見たい!」等の発言を行う事で有名な古文教諭の木村だったからである

「…………」

 その正体に、榊と呼ばれた少女は、目に涙を浮かべて、「嘘だぁ!」と叫ぶやいなや、その場を駈け出して行った

「………なんだったんだ?」
「………後で説明します」

 父の疑問に、娘は苦虫を噛むような表情でこう答えるしか方法は無かったのである


 とりあえずある程度の目的は達したので、取りあえず他も見ておきたいと言った父と別れて自分の教室に戻ったフィーナの眼にとまったのは、山ほどいるような客と、その対応に苦労するクラスメイト達の姿であった

「あやのさん、どうしたの?」
「ええ、フィーナさんがメイド服で学校内を回ったからこうなった……と思いたいわ」

 親友兼クラスメイトの言葉に、思わず苦笑するフィーナ出会った


 次回に続く

 あとがき
 ようやくフィーナが主人公らしい活躍をし始めました〜
 あずまんが、ひだまりと出したいものを、ちょっとだけとはいえ出す事に成功しましたね〜 GA〜芸術家アートデザインクラス〜は出せるのか……!たぶん無理だろうなあ……(笑)
 文化祭編はもうちょっとだけ続きます これからも宜しくお願いします〜

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