カテリナ学園文化祭 通称カテリナ祭……それは近隣の住民にとっても有名な学園祭であり、このカテリナ学園に入学しようとする生徒だけでなく、子供連れの母親達も沢山来るほどだったりする
 しかし2年D組の彼女にとってこの日、少々憂鬱な事が起こっている(もちろん彼女にとって前々から分かり切っていたことなのだが)
 このクラスの展示であるメイド喫茶をやる為、彼女も当然のことながらメイド服を着ているので、その少々不機嫌な表情も相まって周りから「やさぐれメイド」と言われても文句は言えないだろう

(やはり私にはこの様なヒラヒラのついた服は似合わない……)

 もう一度会えて言うならば、今の彼女の表情を見る限りでは「やさぐれメイド」と言われても文句は言えないのである しかし普段の彼女は温厚実直で礼儀正しく年下が相手でも誠実に対応しているのである
 その彼女……ウルカ・ブラックスピリットが不機嫌な表情をしているのが、現在来ているメイド服である
 数日前、某美術部副部長が着ていたヒラヒラメイド服をウルカも着ているのである いや、只ヒラヒラと表現するのは語弊があるだろう……
 そう……そのメイド服は完全に半分はゴスロリが入っているのである 普段ウルカを知っている人間が今の彼女を見ると、驚いて彼女をまじまじと見てしまうだろう
 そして普段彼女を知っている人は必ずこう評するだろう「外見に関してはちょっとイメージ合わないけど、性格がこの服を完全に着こなしている まぁゴスロリはあまり関係無いが」と

(エスペリアやハリオンやミアは毎日これを着ているのか……)

 流石に現在ウルカが来ているようなゴスロリメイド服ほどヒラヒラはないものの、とある邸宅でメイドとして住み込みで働いている友人2人や月王国でメイドをしている少女を少々尊敬したくなる 当のエスペリア、ハリオン、ミアのさ3名は有難迷惑な尊敬であるのは確かだが

「あー……ウルカ?」

 パッと見の不機嫌さとは裏腹に完全に悲しみにふけているウルカに、数日前メイド服を着せられていた美術部副部長須堯雨情が声を掛ける
 その声にギギギ……と効果音を出ていそうな程ゆっくりと顔を声のした方に向ける

「気持はわからない訳じゃないが、そろそろ気持ちを前に持ってきてくれないか?」
「つかスカートは制服より長くなってるからまだセーフだろーが」
「そうそう 普段この位のスカートをはいてるからちょっと安心するわ」

 雨情に同意するような隆史の言葉に、意外なところから同意の声が現れる フィーナ・ファム・アーシュライトである
 彼女の言うとおり、普段彼女達が来ている制服は膝上5CMと言う短い物であるが、現在このクラスの女子が来ているメイド服は足を8割は隠しているのではないか?と聞きたくなるほど長いもので(フィーナが公務で来ているドレスもそれぐらいスカートが長い)、その情報は彼女にとって慰みになるはずである しかし……

「やはりこのヒラヒラは私には似合わない……(涙)」
「まぁ、お前の場合旅館の女将とかの方が似会いそうだしな」

 的確に突っ込みを入れつつ、とりあえずウルカに同情はしている隆史であった


   お姫様の暴走学園生活 学園祭 本番編前半


 ともかく文化祭が始まり、学校内は普段見せない活気に満ち溢れている 出し物をしている方も、見る方も、楽しく満点の笑みを浮かべている
 中には「うちのクラスはちよちゃんがいるから最強よ〜♪」などとほざいているどこぞの英語教師がいるが、それは些細なことなのだろう
 2年D組もそれは同じで、クラスの2割を取りあえず文化祭見学をさせて、残りで自分たちの出し物に集中する事になっている

「葉月!二番卓の注文が出来たから持ってって!柊と峰岸は竹田と佐藤の作ったのお願い!エスペリアは三番卓に来たお客のオーダー頼むよ!」
「りょ〜かい!」
「分かった!」
「任せて!」
「分かりました!」

 いつの間にか厨房のリーダー的存在となっちゃっている隆史が、次々と指示を出す
 朝に思いっきり自身の姿に落ち込んでいるウルカも、気持ちを変えたのか笑顔で接客をしている

「皆様、お食事を楽しんでいるところ申し訳ありません」

 そんな中、教室の中に女生徒の声が響き渡る 喧騒の中にあった教室の中の注目が彼女……遠山翠に向けられる
 彼女の手にはクラリネットがあり、これから何が起こるかある程度想像が出来た

「現在来て下さっている皆様に、吹奏楽部員の私のクラリネットの演奏を披露させてもらいます」

 一回お辞儀をした後、いつの間にか用意されている椅子にすわり、翠はクラリネットに口をつけて演奏を始める
 演奏が始まり、少ししてからその演奏の内容の良さから、客から小さい歓声が上がる
 その歓声に少々気を良くしつつも、翠は真剣な表情でクラリネットの演奏に集中する やはり本番で失敗は嫌だし、完璧に吹いた方が楽しいから……真剣な表情はいつしか楽しそうな笑顔に変わっていった


 そして曲が終わり、安心した表情で翠が厨房に戻ると、近くに人の気配を感じてそちらに視線を向けると、自身と仲の良い男子生徒達哉・隆史・雨情の三人が並んで立っていた

「……え―――っと……三人とも、どーしたの?」

 何も言わない三人に、翠はやや引け腰になってしまう とりあえず表情から三人が何を言わんとしているのかが彼女に理解できないのがさらに恐怖を引き立ててしまう
 しかし彼女の恐怖は最高の形で裏切られてしまう

「「「とーやま グッジョブ!!」」」
「は?」

 三人の言葉と親指を立てた三人の態度に、翠は驚きを隠せない しかし事態は彼女の想像からかけ離れる展開が続いてしまう

「いや〜やるもんだな、遠山!」
「俺は麻衣と一緒にやっているのを何度か聞いた事があるが、シングルで聞いたのはこれが初めてだからな」
「同じ文系部活の所属としてこれは負けられないな」
「それよりあんたら、気持ちは分かるけど仕事しよーよ」

 口々に感想を述べる三人は唐突にあらわれたかがみによって、クモの巣を散らすように自分の持ち場に戻っていく
 それを確認した翠はへなへなとその場に座り込んで行く

(朝霧君が、私の曲を褒めてくれた……)

 想い人が自分の得意としてくれる所を褒めてくれる 女の子にとってそれは嬉しいことだろう…… それが叶わぬ恋だとしても、だ
 その想い人は、自分の親友とも言える月のお姫様を愛している だから自分の気持ちが届く訳がない

(でも、好きで居続けるのはいーよね?)

 思いつつ、翠は周りに指示を出している親友に顔を向ける……が、その視線は途中で止まってしまう

(あ、あの人ってもしかして……)

 自分の目が点になっている……翠はそう実感させられる
 それはそうだろう フィーナの父親であるライオネスが、何処ぞの熱血野球漫画の主人公の姉の如く教室の戸に隠れつつ、娘の様子を窺っていたからである


 次回に続く

 あとがき
 とりあえず前半はウルカ、後半は翠メインで行ってみました
 しかし次回からフィーナがとうとう主人公らしい活躍をさせてあげれると思うと、ネタだしも気合いが入って来ますね

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